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銀河戦記/鳴動編 第一部  作者: 神崎理恵子
第一部
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第四章・情報参謀レイチェル Ⅳ


 翌日。

 アレックスはオフィスの椅子に腰掛け、相も変わらず苦手な書類を懸命にこなしていた。

 インターフォンが鳴った。

「レイチェル・ウィングです。ご命令により出頭いたしました」

「入りたまえ」

 扉が開いてレイチェルが入室してきた。

 その服装を見るなり、

「やはりか……」

 という風に目を伏せるアレックス。

 レイチェル・ウィング少尉は、軍服のタイトスカートからのぞく足並みもまぶしいくらいに、その身のこなしかたも女性士官としてすっかり様になっていた。

「ご命令により、出頭いたしました」

「辞令で伝えてあるとおり、君を副官としておくことにした」

「はい。存じております」

「ご苦労。早速で悪いのだが、部隊の再編成について打ち合わせしたい」

「はい。わかりました」

 二人は再会のあいさつもそこそこに、いきなり仕事に入ることになった。それは、アレックスが私情にかかる懸念を避けるために、わざとそうしていたのである。

「とにかく我が部隊は、高速運航できることを主眼におきたい。艦載機を搭載できてより高速移動できる軽空母や巡航艦を主体とした部隊編成が必要だ」

「つまり足の遅い主戦級の攻撃空母や重戦艦はいらないとおっしゃるのですね」

「その通り。艦載機を多数搭載できる攻撃空母は魅力ではあるが、防御力が小さいため護衛艦を配置しなければならん。直接戦闘できない艦をおくのは無駄だ」

「ただでさえ造船費や維持費のかかる空母よりも、安くて速い巡航艦を多数配置したほうが良いというわけですか」

「本格的な艦隊戦ならともかく、遊撃部隊として行動することが主体の我が部隊には必要ないし、足手まといになるだけだからな。いかに早く戦闘宙域に到達しかつ迅速に撤退できるかといった高速性能が必要なのだ」

「司令官がミッドウェイ宙域会戦でとられたような作戦を今後もとられるおつもりですか」

「まあな。時と状況によるさ」

「わかりました。現部隊所属の攻撃空母を放出して巡航艦と等価交換すればよろしいのですね」

「君には手数をかけるがよろしく頼むよ」

「攻撃空母はどこの艦隊でも欲しがっているので、そう苦労することはないと思いますよ」

 それからこまごまとした内容を打ち合わせて、ほぼ今日の分が終わりかけたときにレイチェルが言った。

「話しは変わりますけど、例のハッカーとの連絡が取れました」

「本当か」

「はい。お会いになられますか」

「もちろんだ」

「まもなく相手からアクセスがあると思います」

「なに。軍のネットにわざわざ侵入してくるというのか」

「はい。挨拶代りに出向いてくるそうです」

 その時丁度、端末が受信を知らせた。

「来たようですわ。出ますか?」

「頼む」

 レイチェルは端末を操作して受信体制を整えた。

 ディスプレイに相手の顔が映しだされた。

「よお、レイチェル。来てやったぜ」

「待っていましたわ。さすがですわね」

「司令官を出してくれないか。俺も忙しい身でね」

「わかったわ。替わります」

 レイチェルに代わってアレックスがディスプレイの前に立った。

「あんたが、噂の英雄さんか」

「アレックス・ランドールだ。君が、レイチェルの言っていたハッカーだな」

「それは、ご覧の通りだ。厳重な軍のネットにこうして侵入してきているのだからな。ジュビロ・カービンだ。よろしくな」

「要件は直接会って話したい。どうすれば会えるか?」

「俺は、あんたを信用しているわけではないからな。ここで居場所を教えるわけにはいかない。会見方法は後日レイチェルを通してあんたに伝える。今日はともかくあんたの顔を確認したいのと、俺の腕前を証明するためにアクセスしたのだ」

「いいだろう。連絡を待っている」

「じゃな」

 といって通信は一方的に途切れた。逆探知を恐れてのことだろうか、名前と顔を確認するだけの極端に短い通話であった。

「印象は、いかがでしたか?」

「なかなか好男子だったじゃないか」

「それってどういう意味ですか?」

「いやなにね」

「もう……そんな関係ではありません。変にかんぐらないでください」

「ははは。悪い、悪い。ところで、技術部システム管理課のレイティ・コズミック少尉をここへ呼んでくれないか」

「コズミック少尉をですか?」

「そうだ」


 それから数時間後。

 端末を操作しているレイティ。

「ふう……これでいいですよ」

「完了か?」

「はい。こんど彼がアクセスしてきたらきっと驚くことになります」

「何をなさったのですか?」

「いやなにね。レイティに特別なカウンタープログラムを組んでもらったのさ」

「カウンタープログラム?」

「通常の手段によらないでアクセスしたものの端末を逆探知してそのシステムを破壊するプログラムです」

「逆探知して破壊ですって。そんなことが出来るのですか?」

「可能ですよ」

 レイティはきっぱりと答えた。

「システムをハッカーから守るには、二種類の方法があります。システムを厳重にガードして侵入を防ぐ方法と、それでも侵入された場合のためにカウンタープログラムで退治する方法とです」

「カウンタープログラムを作るためには、システムのハードとソフトのすべてを熟知していなければできないんだ。通常の方法でアクセスしてくる一般のシステム運営者との区別を厳密にしなければならないからな。システム管理部にいるレイティだからこそできる技ということさ」

「でも、そんなことをして相手を怒らせることになりませんか。相手にハッカーの依頼をなさるおつもりなのでしょう?」

「確かに自分のシステムを破壊されて怒らない奴はいない。しかし、それだけこちらが真剣だと悟るだろう。そのうえでレイティの作り上げたカウンタープログラムを看破してくるような腕前がなければ、この計画を実行し成功させることはできない」


 アレックスは、ジュビロ・カービンとの共同計画となる作戦概要を示した企画書を、レイチェルとともに作成した。もちろんこのような機密書類をレイチェルに作成させたのは、彼女を信頼している証でもある。

「それにしても遠大な計画ですね。これを実行する機会は到来するのでしょうか」

「さあな。何年かかるか、僕にも検討もつかないさ。十年掛かるか二十年かそれ以上か……。少なくとも僕が提督と呼ばれる地位に就くまでは実現しない計画なのかもしれない。しかし前もって準備万端整えておいて、即実行できるようにしておかなければ、いつやってくるかわからない千載一隅の機会を失ってしまうかもしれない」

「わかりました」

 それから数時間後、司令官室から出て来るレイチェル。

 戸口で敬礼をしてかる、ゆっくりとそのばを立ち去る。

「しかし遠大な計画だわ……果たしてそれを実行できる機会は本当にやってくるのかしらね。その日の為に用意周到に今から着手しておくことは必要だけど……ま、さすがアレックス、あたしが惚れるだけの人物ね」

 といいつつ、つい顔を赤らめるレイチェルだった。


 とある部屋。

 端末を操作しているジュビロ。ふとその手を止めて、

「レイチェルに連絡とってみるか……」

 いつものように軍のホストコンピューターにアクセスを試みる。以前レイチェルの軍籍を改竄したことがあるので、さほどの苦労もなく容易に侵入に成功した。

「ええと、レイチェルのIDはと……」

 端末を叩いてレイチェルのメールボックスにたどりつく。

 だが、その途端だった。

 ディスプレイが一瞬輝いたかとおもうと真っ白になってしまったのである。

「な、なんだあ……」

 慌てて端末を操作しようとしてもキーを一切受け付けなくなっていた。

 やがてディスプレイに文字が浮かび上がってきた。

『ごめんなさいね。あなたのシステムは破壊させていただきました。このカウンタープログラムを看破して再度挑戦してみてください』

「ちきしょう、カウンタープログラムか。いつのまに……それにしてもなんちゅうカウンターだ」

 システムは、完全に死んでいた。

「だがな、この俺をそんじょそこらのただのハッカーと思ったら大間違いだ。こっちにはカウンタープログラムを看破する支援システムがあるのだ」

 それはジュビロが開発した支援システムで、メインシステムの状態を常時監視追跡しながら独立に作動する。カウンタープログラムによってメインシステムが破壊されても、自動的にそれを修復すると同時に、そのカウンタープログラムを解析までしてしまうというジュビロ自慢のシステムプログラムであった。つまり一度はカウンターを食らっても二度目のアクセスでは、それを回避する手段をとることができるのである。つまりプログラムを解析してそれを無効にしてしまうワクチンを処方してしまえばいいのだ。

「さてカウンタープログラムを拝見させていただくとするか」

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