第四章・情報参謀レイチェル Ⅱ
Ⅱ
「でね。あたしが受けたのは非合法な方法よ。卵巣や子宮などは、すべて本物の臓器を移植したの。それでも移植した卵巣の女性ホルモン分泌量が足りないから、体内に女性ホルモンが封じられたカプセルが植え込んであって、一定量ずつ徐々に溶けだすようになっていますのよ。だから時々年に一回、カプセルを取り替えなければいけませんの。手術から三年経ったかしら、卵巣とカプセルから分泌される女性ホルモンのおかげで、こうして自然に胸も発達したというわけよ。シリコンなんか入れていないのよ」
「つまりほとんど本物というわけか」
「そうですわ。嘘だとお思いになるなら、触ってもいいですわよ」
「遠慮しとくよ」
「ふふふ……」
「ところで、君は何の仕事してるのかい。やっぱりその道の仕事?」
「いいえ。あなたと同じ軍に入っておりますわ。これでも少尉ですのよ」
「少尉? ということはやはり女性士官の軍服を着るのか。軍籍は男のままなんだろう。よく上官が許したな」
「いいえ。あたしのお友達にハッカーやっている人がいましてね。その人にお願いして、軍籍登録しているコンピューターに入り込んで、性別を女性に書き換えてもらいましたの。つまり現在のあたしは、軍籍上では女性ということになっていますの。もちろん国籍上もです」
「本当かよ。軍のコンピューターっていうのは、外部からの侵入は絶対不可能といわれているほどガードが固いはず。よく侵入できたなあ」
「その人がいうには、オンラインで外部に接続している限り、必ず侵入する手だてはあるそうですわ」
確かに、そういったことがあるのはアレックスでも知っている。特に知られているのが、プログラム開発者などが、自分専用の裏道コードを設定している場合などである。そのコードが判れば、ハッカー監視システムに引っ掛かることなく、簡単にガードを突破して侵入できるという。
「ふうん……」
アレックスは、しばらく黙り込んでいた。もし、レイチェルのいうことが本当なら、これは使えるかもしれない。アレックスの配下にもコンピューターウィルスを専門に駆除する担当の技術者がいる。士官学校時代、模擬戦において基地のコンピューターに細工をして、ミリオン達に気付かれることなく手玉にとった影の功労者、あのレイティ・コズミック少尉である。駆除するのが専門とはいえ、その逆もまた得意中の得意であり、絶対に誰にも気付かれないようなウィルスを作成できることを自慢していた。
もしそのハッカーとレイティがコンビを組めば……例えば、敵軍のコンピューターシステムに侵入して、こちらに有利となるようなウィルスを忍び込ませることが出来れば。
「レイチェル。そのハッカーを紹介してくれないかな」
「かまいませんけど……。でもハッカーという人達はガードが非常に固いから、会ってくれるかどうかわかりませんわよ」
「とにかく接触さえ出来れば、後は僕がなんとかする。もし彼が協力してくれるならば、ハッカーとしての腕を存分に発揮できうる活躍の場所を提供できるだろう。そう伝えてくれないか」
「わかりましたわ」
「よろしく、頼むよ」
ふと時計をみると、午後三時を回っていた。
「あ、もう時間だ。行かなければならない所があるから、これで失礼するよ」
と立ち上がり去ろうとした時に、レイチェルが切り出した。
「そうそう。あたしね、あなたの部隊に配属されることが決まりましたから」
「え? 僕の部隊に」
「独立遊撃部隊が再編成されるというので、転属希望を出してみたら通ってしまいましたのよ。書類はたぶんもうそちらの部隊の人事課に回っていると思いますから、目を通しておいてくださいませね」




