第三章・模擬戦闘 Ⅷ
Ⅷ
アレックス達が士官学校に戻ってすぐに、模擬戦の結果発表があった。無傷で敵基地を攻略し艦隊を全滅させた功績から、アレックスの艦隊がだんとつトップの成績で優勝を飾った。
功績点三万点、叱責点0という文句なしの成績であった。
スベリニアン校舎では、やっかい者のアレックスではあったが、全国一という成績をあげたことにより、存在価値に変化が生じたようであった。
校舎のそここでは、生徒達が模擬戦の話題で盛り上がり、作戦の是非について賛否両論から熱い議論を戦わせていた。自分達の校舎を優勝に導いた同輩であり、先輩であることから、圧倒的にアレックスの支持派が多いのだが、無論反対派も声を荒げて非難する。
作戦が奇襲に終始して卑怯であり、騎士道精神に欠けている。まともな艦隊戦になっていないというのである。
作戦の騎士道論はともかくも、模擬戦の課題である「敵艦隊を撃滅・降伏にいたらしめること」ないし「敵基地の攻略・占拠」は、結果だけをいうならば見事クリアしている。それがゆえに、優勝を飾ることができたのだが……。
「実際の戦争に卑怯もくそもあるかよ。奇襲だろうが、何だろうが、一隻でも多くの艦船を撃沈したほうが、戦に勝利するんだ」
「とにかくだ……これで落第の心配はなくなったな、俺もおまえも」
掲示板を見つめていたゴードンが耳打ちした。
「かもな」
士官学校食堂。
「さてと……模擬戦も無事に終了したことだし、後は卒業パーティだな」
「そうだな」
「おまえはもちろんパトリシアと来るんだろうから、俺はフランソワでも連れ添ってくるとするか」
「おまえ、よくもまあ女をとっかえひっかえできるなあ。一体本命は誰なんだ」
「さあ……俺自身も誰が本命かわからん。その時々の女性が本命なんだな。おまえこそ、パトリシアと同時に休暇とって婚前旅行に出かけたことくらいは、調べがついているんだぞ」
二人が婚約届けを出したのは、届け書の保証人として名を連ねているゴードンは知っていて当然とはいえ、旅行のことまでは知らされていなかった。
「おまえは戦術士官じゃなく、情報士官になったほうが良かったようだな」
そこへ丁度パトリシアとフランソワがやってきた。
「あら、今わたしの名前がでていたようだけど、陰で内緒話しはいけないわ」
「よっ。ご両人。相変わらず仲がいいな」
「それは皮肉かしら」
「いやいや。仲がいいのは良いことです」
「そうですよねえ。お姉さま」
パトリシアは、旅行から帰ってから生理を見て、妊娠していないことを確認していた。良かったと思う感情と、何だか寂しいような感情とが、交錯する複雑な心境にあった。
もし妊娠していたら、医師の妊娠証明書を提出するだけで自動的に婚姻関係が成立して、正式な夫婦となれたのだが。
パトリシアは、椅子をアレックスに密着するように引き寄せて、ごく自然な感じで腰を降ろした。今この場にいる四人の間では、この両名がすでに夫婦であるという暗黙の了解があったので、パトリシアが持ちよった給食盆の上の食事を分けて、アレックスに食べさせたのを見ても不思議には思わなかった。
「アレックス。もう、部隊配属希望書を提出したの?」
「ああ、フランク先輩のいる第十七艦隊にしたよ」
「第十七艦隊?」
「それって最前線じゃありませんか」
「こいつは腕に自信を持っているから、昇進の早い第十七艦隊で大活躍して逸早く准将になって、軍から支給される郊外の一軒家でパトリシアと子供達と慎ましく暮らそうと考えているのさ」
「おい、自分のことを言ってやしないかい」
やがて卒業パーティーも終わり、ついにアレックスが宇宙艦隊に配属される日を迎えた。
支度を終えて既婚者用の官舎を出るアレックスを見送るパトリシア。
「行ってらっしゃい、あなた。無事に戻って……」
パトリシアは声に詰まり、アレックスに抱きついてきた。
「ああ。必ず生きて帰ってくる」
アレックスは心配する妻の気を静めるように力強く抱きしめてやった。
「じゃあ、行ってくる」
パトリシアをそっと離して歩きだすアレックス。
「行ってらっしゃい……」
その後ろ姿をいつまでも見送るパトリシアであった。




