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銀河戦記/鳴動編 第一部  作者: 神崎理恵子
第一部
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第三章・模擬戦闘 V


 ジャストール校に与えられた第八番基地は、演習場の中程に位置し、アレックス達の基地より距離にして二百七十天文単位のところに浮かんでいた。

 背後には濃密なガスが集まって雄大な輝きを見せる「ベネット散光星雲」があった。

 青白く燦然と輝く非常に若い高温の恒星からの紫外線の放射によって、水素が電子を剥ぎとられて電離し、特有の赤い輝線スペクトル光を放って、一帯が薄紅のベール状となって美しく輝いている。付近一帯は一万度Kほどの高温になっており、その内側にはさらに高温の酸素が放つ鮮やかな緑色の領域が広がっている。さらに安定なはずのヘリウム原子までもが電離して青く発光することもあるが、青い部分の実体は反射星雲と呼ばれる星間塵などの雲が近くの星々の光を反射している姿である。なぜなら青い光ほど効率的に散乱されるからである。

 その散光星雲に入り組むようにして暗黒星雲が隣接しており、より濃密なガスや塵が背後の光を遮って真っ黒に見えている。暗黒星雲の温度は二百十度Kと低温だが、さまざまな原子と分子が激しくぶつかり合いながら、重力収縮によって中心に向かって落ち込みつつ新たなる恒星を形成しようとしている四つの原始太陽星雲があった。

 星間ガスが中心に落ち込む際に解放される位置エネルギーが熱となって中心付近の温度を上げていく。現在の最中心温度は三千七百度K、この段階ではまだ核融合は起こらず発光にも至らないが、電波や赤外線を使って観測すれば激しい活動の息吹を知ることが出来るだろう。やがて星が誕生すれば付近の暗黒星雲もいずれ散光星雲として輝きはじめることになる。

 十六番目に発見されたということからベネット十六と名付けられた領域の、そのただ中を進行する百隻ほどの艦隊があった。


 強烈な稲光が炸裂するたびに、濃密なガスを伝って、耳をつんざくような大音響が艦内を揺るがす。

「だ、大丈夫でしょうか」

 艦橋にあって、指揮官席に陣取るアレックスのそばに控える副官のパトリシアが、心配そうな声で尋ねた。生まれてこの方経験したことのない、荒々しい天候に動転して、アレックスのそばから離れないようにして、その右腕を両手でしっかりと握り締めていた。万が一の時には、夫と共にあるということが、せめてもの慰みというところである。

「心配するな。これくらいの嵐では、艦はびくともしないさ」

 安心させるように自分の右腕をつかむパトリシアの両手にそっと左手を添えてなだめるアレックス。

 実際にはアレックスとて、逃げ出したい心境は同じであったのだ。しかし指揮官が震えていては全体の士気に影響する。自分自信を奮い立たせ、やせ我慢しているのを気付かれないように、冷静を装っていた。


 艦橋では、オペレーター達は比較的冷静に振る舞っているが、艦内のあちらこちらでは、詳しい事情を知らされていない乗員達の怒号や悲鳴が繰り返されていた。

「誰だよ。極めて安全性は高いとか言った奴は! これのどこが、流れがゆるやかだと言うんだ」

「こんな作戦を考えたのは、誰なんだ?」

「指揮官殿か、作戦参謀のウィンザー女史だろうな」

「ったく。何考えてんだか」

「といったところで、ここまで来ちまった以上。後戻りはできめえ」

「行くっきゃないってかあ」

「そん通りだ」

 とにもかくにも、行けと命令されれば行くしかない軍人の定め。指揮官アレックスの戦術能力は誰しもが知っていること、大船に乗ったつもりで命運を彼に託すしかなかった。

「スザンナ。現在の艦の状況はどうか」

「はい。艦に損傷は見られません。システムは正常に作動中。現在の艦内温度は二十五度で、ほぼ三十分に一度の上昇が見られます」

 一方突撃強襲艦上のゴードン・オニールも冷や汗流しながら、自分の艦をアレックスの艦に平行して進行させていた。

 突然激しく艦が大きく揺れて軋んだ。

「どうした」

「はい。並進する艦が接触してきました」

 というが早いか、再度の衝撃が襲ってきた。

「副隊長」

 ゴードンの艦に同乗する参謀が話し掛けてきた。

「なんだ」

「せめて艦隊リモコンコードを作動させませんか。このままでは、敵基地に到着する以前に、このベネット領域内で接触事故を起こして自沈する艦も出るかもしれません」

「だめだ。この領域には強力な電磁界ノイズがあって、艦隊リモコンコードは正常に作動しない」

「わかってはいるのですが……」

「ならば聞くな! いいか。俺達は装甲の厚い強襲艦だからまだいいが、駆逐艦に乗ってる奴等は、もっとひどい状態になってるはずなんだぞ」

 再三の衝撃に号を煮やしたゴードンは、操艦手のところへ走り寄った。

「俺にやらせろ」

 操縦手を押しのけるように操縦席につく、ゴードン。

「操艦の経験はあるのですか?」

「シミュレーションは五回やった」

「実戦の経験はないんですね」

「いいかい。こういう状況の時、物を言うのは経験ではなく度胸なんだぜ。ジャストールの点取り虫のミリオン坊っちゃんにはわからんだろうがな」

「ベネット十六の最深部に入りました」

 ゴードンは操縦桿を握り締めながら、艦内放送のマイクを取った。

「これより自動操舵装置を解除する。総員、船の震動に注意しろ。立っているものは、投げ出されない工夫をするように」

「自動装置を解除するですって!」

「自動装置を作動させていてもこの程度だ。どうせなら、解除したほうがましかも知れんだろう」

 艦内のあちこちではそれぞれが震動への対策を取っていた。機器にしがみつく者、紐で機器のでっぱりに身体を縛り付ける者。

「いくぞ。自動操舵装置解除」

 ゴードンが装置のスイッチを解除する。

 ガクンと揺れる機体。

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