第三章・模擬戦闘 Ⅲ
Ⅲ
「では、解散する」
一同は、立ち上がり一人ずつ退室していく。
「なあ、アレックス」
ゴードンが話しかけてきた。
「なんだい」
「敵に気付かれたら全滅だ、とか言っていたが。おまえのことだ、いかなる状況におかれても、勝つための算段くらいは考えているんだろう」
「まあな」
「それを聞いて安心した」
「背水の陣であることを全員に意識づけておけば、より真剣に作戦に集中できる。ってことですね」
パトリシアが資料をまとめながら、間に入ってきた。
「で、君は聞いてるのかな」
「いいえ。わたしも、尋ねたことがありますが、臨機応変だよ、とかいって……」
「ま、いいか。その場その場でどうなるか、わからないことを、議論してみたところでせんないこと」
「そうですわね」
アレックスの顔を覗きこむように見つめ会う二人。
「それじゃ、俺はこれから、出発の準備をしなきゃならんので、先に失礼する」
「そうか。くれぐれも、万端整えて出発してくれ」
「ああ……。先に行って待ってるぜ」
くるりと背を向けて、二人の側を離れるゴードン。
「しかし、有能な奥さんのいる奴は、楽でいいねえ。必要な準備は全部黙っててもやってくれるんだから」
廊下を歩きながら、聞こえよがしに呟くゴードンであった。
クスッと、微笑みながら、
「それじゃ、行きましょうか。あ・な・た」
パトリシアは、ゴードンの言葉を受けるように、アレックスを促した。
「……」
返す言葉を失って、呆然とするアレックスは、パトリシアに背を押されるようにして、やっと歩きだすのであった。
その翌日。
サバンドールへ先着するゴードン達を乗せた輸送船が宇宙港より出発した。
次々と輸送船が発着する宇宙港の片隅。見送りのデッキにたたずむパトリシアとジェシカ。
「私達が乗る艦艇の手配は?」
「はい。すべて完了しました。すでに第十二番基地に停泊して、乗組員の搭乗を待つだけになってます」
「さすがね。で、アレックスは、今何してるの? 見送りにも来ないなんて」
「一人籠って最後の作戦確認をなされていると思われます」
ゴードンを見送った足で、アレックスの元を訪れたパトリシアが報告する。
「ゴードン以下の第一陣が基地へ出発しました。明後日早朝には到着して、午後二時より第一回目の戦闘訓練に入る予定です」
「すべて、順調に進んでいるようだな。君のおかげだ、感謝する」
「感謝だなんて、副官として当然のことをしたまでです」
アレックスが出した作戦案に基づいて、綿密な行動・タイムスケジュールを作成したのがパトリシアであった。
翌日、アレックスとパトリシアは、サバンドール星域へ向かう輸送船団の中にいた。
「サバンドールまで三時間です」
「そうか……いよいよだな」
「それにしても、アレックスと一緒に参加できてよかったわ」
「ああ……。例の検査のことか」
「そうよ。妊娠検査」
パトリシアは、無重力の宇宙に出る前に、念のために妊娠していないかとかいった、健康診断を受けてきたのである。もし妊娠していた場合、無重力の環境や戦闘への緊張によって、胎児に障害を与える危険があるからだ。ゆえに既婚女性は、必ず検査をうけなければ艦船に乗艦できない決まりになっている。
検査の精度は、授精後一週間というきわめて短い期間でも、ほぼ百パーセントの確率で判定できるようになっている。




