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銀河戦記/鳴動編 第一部  作者: 神崎理恵子
第一部
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第二章・士官学校 Ⅵ


 女子寮玄関。

「さあ、みなさん食堂に行きなさい。まもなく朝食の時間です」

 寮長が外にたむろしている女性士官候補生達を寮に押し戻しはじめた。

「はい」

 入れ代わりにパトリシアと、かつらをかぶり女性士官の軍服を着込んだアレックスが出てくる。濃紺に白線のストライプの入ったタイトスカートに、同柄のブレザー、そして黒のストッキングという女性士官の軍服を着込んでいるアレックス。慣れないタイトスカートを履いているせいか、非常に歩きづらそうであった。少しでも早く歩こうとするのでつい大股になるのだが、裾の狭いタイトスカートは足捌きが難しくて小股でしか歩けないのである。こけそうになりながらも必死で歩くアレックスの姿を横目で見ながら、パトリシアはくすくすと笑っていた。

「笑うなよ」

「だってえ……しっ。寮長よ。あなたはそのまま車のところに行って。わたしがなんとかごまかすから」

 というとパトリシアは寮長の方に歩み寄っていった。アレックスは言われた通りに、当直が乗る車のところへ向かった。

「おはようございます」

 パトリシアは寮長にあいさつを交わした。

「あら、パトリシア。おはよう」

 普通士官学校ではファーストネームで呼ぶことはないが、優等生で何かと寮長の代理役もこなしているがために、二人きりのときには親しみをこめてパトリシアの名で呼んでいた。

「一体、何があったのですか?」

 と立たされている男子を見やりながら尋ねた。

「いえね、女子寮に侵入したらしくてね。今とっちめているところよ」

「そうなんですか」

「当直?」

「はい。これより、ジュリー・アンダーソンと共に当直交代に参ります」

 寮長は、車を出そうとしているジュリーの後ろ姿を遠目に確認して、

「アンダーソンですね」

 手に持っていたスケジュール表を開きチェックを入れた。

「確認しました。いってらっしゃい」

「行ってまいります」

 アレックスが発車準備している車に歩きだすパトリシア。その言葉をすっかり信じてジュリーと入れ代わっているアレックスの正体にまるで気付かない寮長であった。

 車の助手席に腰を降ろしてドアを閉めるパトリシア。

「行きましょうか」

 無事車を発進させて寮を脱出した二人であった。

 アレックスはバックミラーで誰も追いかけてこないのを確認した。どうやら誰にも気づかれずに脱出できたようだ。

「しかし、よく寮長にばれなかったな。冷や汗ものだったよ」

「実は寮長はど近眼なのよ。女の心理で眼鏡をかけたがらないけど」

「そうだったのか、おかげで助かったというわけだな」

「ちょっと離れていると顔の区別ができなくて、誰が誰だかわからないのよ。だから、女性士官の軍服さえ着ていれば、中身も女性士官と思い込んでしまったというわけ。それにしても……」

 とパトリシアは、スカートを履いて運転をするアレックスの姿に思わず吹き出した。

「また、笑う」

「だってえ……」

「しかし、まさか女装をするはめに陥るとは夢にも思わなかったな」

「それもこれもあなたが夜這いなんかするからですよ」

 軍服を着込んでいるパトリシアは、いつもの沈着冷静な優等生である女性士官に戻っていた。

「夜這いは男の本分さ」

「なにが、男の本分よ。わたしのバージンを奪っておいて、なおも飽きたらず女子寮まで追いかけてくるなんて」

「しかし、僕が欲しいと思うのは君だけだよ。だからこそ危険を犯してまで夜這いをかけて君のところに忍び込んだんじゃないか」

「それって殺し文句?」

「本気さ」

「いいわ、信じてあげる。わたしもあなたのこと嫌いじゃないから」

「感謝する。もし銀河が平和になったら結婚しよう」

 といって空いている右手を、パトリシアの膝においた。

「期待してるわね」

 パトリシアはさらりと答えて、微笑みながらそのアレックスの右手を軽く握りかえした。


「それにしても、ジュリーが寮を出るときに問題にならないかい? いないはずの彼女がいるとばれてしまう」

「大丈夫よ。ジュリーなら昨夜は寮に帰ってないから」

「帰っていない?」

「昨夜はバーで酔いつぶれて、カプセルホテルで寝ているの。寮長にはうまく騙して帰寮して部屋にいることになっていたけど」

「ジュリーは酒豪なのか」

「うわばみといったほうが正解ね。何かあると酔いつぶれるまで飲みまくるの」

「ずいぶん変わった女性士官がいるものだ」

「でも酒が入っていなければ、パイロットとしての腕は、女性士官の中でも抜群よ」

「へえ、そうなんだ。このサイズの軍服を着ているということは、結構女性の中でも大柄なほうだろうけど」

「ともかく彼女のところに行くわね。その軍服を返さなきゃいけないし、明るい時間帯の帰寮になるので、本人でないとばれるから」

「ちょっとその前に、どこかで着替えをさせてくれないか」

「あら、いいじゃない。とても似合っているわよ、そのままジュリーに逢ったら?」

「冗談じゃないよ」

「悪いけど、途中停車している暇はないの。ジュリーを迎えにいってたら交替の時間ぎりぎりなのよ」

「しかし……」

「それもこれも天罰と思って諦めたら」

「将来の旦那さまになんと冷たいお言葉」


 第二章 了

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