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銀河戦記/鳴動編 第一部  作者: 神崎理恵子
第一部
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第二章・士官学校 V


 その夜。

 パトリシアが宿舎の自分の部屋でネグリジェに着替えてくつろいでいた時だった。外から窓をこつこつと叩く音がするので、何事かと窓を開けて見ると、ひょいと顔を出したのはアレックスだった。

「アレックス!」

「しっ! 大きな声を出さないで」

 ここは三階である。アレックスはロープを伝って屋上から降りてきたようであった。

「危ないわ、早く中に入って」

 パトリシアはアレックスを招きいれた。アレックスは中へ入り侵入に使ったロープをしまい込んだ。

「どうして……」

 言葉を言い終わらないうちに、強く抱きしめられ唇を奪われた。

 厚い胸板、広い肩幅、そして自分を抱きしめる強い力。女性であるか細い自分とは違う頑丈な身体つきをしたアレックス。

「君にどうしても逢いたかった。君の同室のフランソワが当直で今夜は一人と聞いてね」

「でもこんなことまでして来なくても。落ちたらどうするのよ」

 パトリシアは真剣な顔で心配していた。アレックスはかけがえのない存在になっていたのである。

「一刻も早く逢いたかったんだ」

「アレックス……」


 窓の外から小鳥のさえずりが聞こえている。

 カーテンの隙間から朝日が差し込んでいた。

 ベッドの上でまどろむ二人。パトリシアは、アレックスが自分の肩を抱き寄せるようにしたそのたくましい腕を枕にして、その厚い胸板に手を預けるように寄り添って寝入っていた。

 先に目を覚ましたパトリシアが、

「もし結婚したら、毎朝こうやって目覚めるのね……」

 横に眠るアレックスの寝顔を見つめながら感慨ひとしおであった。男性に抱かれて朝を迎えるのは、これがはじめてのはずなのに、なぜかずっと以前からそうしてきたような、錯覚を覚えていた。男と女との関係、これがごく自然な姿なのかも知れない。

 アレックスを起こさないようにそっと抜け出すと、鏡台に座って髪をとかしはじめた。昨夜の夢模様のせいかだいぶ髪が乱れている。

 アレックスが起きだしてきた。

「おはよう」

 といってパトリシアの額に軽くキスをした。

「おはようございます」

 明るいところでネグリジェ姿の自分を見られるのもまた恥ずかしいものがあった。裸すら見られているのだから、今更という感もありはしたが、夢うつつ状態にあった時と、冷静な今とでは状況もまた違うということであった。

 アレックスはすでに衣服を着込み始めていた。男性は女性と違って身支度に時間はかからない。髪を丁寧にとかす必要もなければ、化粧をすることもない。ものの数分で支度を完了していた。

 外が騒がしくなっていた。

 アレックスが何事かと思って、窓のカーテンを少し引いて隙間から外を覗くと、庭の片隅に一人の男性が立たされて、寮長の尋問を受けているところだった。

 回りには騒ぎをかぎつけて出てきた女性士官候補生がたむろしていた。パトリシアもアレックスのそばにきて外の様子をうかがった。

「まいったな……」

「これでは窓からは出られないわね」

「ああ……」


 パトリシアは、箪笥から下着を取り出して着替えをはじめた。

「後ろを向いていてね」

 たとえ身体を許した相手とはいえ、明るいところで着替えを見られるのはさすがに恥ずかしい。二人とも背中合わせになっている。

「しかし、どうしようかなあ……」

 背中ごしに彼の困ったような呟きが聞こえてくる。

「今更、どうしようもないわね」

 スリップを頭から被るように着るパトリシア。

「元はと言えば夜這いをかけた僕がいけないんだけど。ばれたら君にも迷惑がかかるな」

「う、うん……」

 その時、同室で後輩のフランソワ・クレールが入ってきた。

「あ、あなたは!」

 入ってくるなりアレックスの姿を見つけて驚くフランソワ。

「静かに、フランソワ」

 人差し指を唇にあてて制止するパトリシア。

「でも……」

「いいから、早くドアを閉めて」

「は、はい」

 ドアを閉め、あらためてアレックスとパトリシアを交互に眺めるフランドル。

 アレックスはすでに着替えをすんでいたものの、パトリシアはまだスリップ姿のままであった。その光景を見れば状況は一目瞭然である。

「ふーん……先輩達、そういう仲だったのですか」

「そういうわけなの」

「わかりました。あたしだって野暮じゃありませんから、お二人のこと内緒にしておきます」

「ありがとう」

 といいながら軍服を身に付けはじめるパトリシア。

「でも、どうするんですか。外の状況はご存じでしょう」

「ああ、今あそこに立たされているのは俺の同僚なんだよな」

「見つかる彼もどじですけど、先輩も帰る手段がないみたいですね」

「ん……それで困っているんだよな」

「あ。ところで、どうやってここに侵入したのですか」

「非常階段を使って五階の踊り場へ。非常口には中から鍵が掛かっているから樋を伝って屋上へ昇り。そしてロープを使ってここへ降りてきて、パトリシアに窓を開けてもらって中に入ったのさ」

「本当に無理するんだから」

「へえ。やるじゃない」

 といいながら窓から首を出して屋上を見上げていた。

 フランソワは感心していた。恋する人のところへ来るために命がけというところにである。

「あたしも、そうやって会いに来てくれるような恋人作ろうかな」

「とんでもないわよ。命懸けもいいけど、心臓に悪いわよ」

「そうかあ……」

「それにしても出るに出られぬ籠の鳥とはな」

「夜までここに隠れていらっしゃったら?」

「それがだめなんだ。どうしても出なけりゃならん講義があるんだよ。卒業がかかっている重要なやつでね」

「ふーん」

 どうしたもんかと、アレックスとフランソワが悩んでいた。フランソワにしてみれば、恋泥棒であるアレックスがどうなろうと知ったことではないのだが、お姉さまにも問題が降り掛かるとなればそうもいってはおられない。

「一つだけ方法があるわ」

 軍服を着終えたパトリシアがぽつりとつぶやいた。

「それは、どんな方法だい」

 アレックスの問いかけには答えずにフランソワに言いつけるパトリシア。

「ジュリーの部屋から彼女の軍服を持ってきて頂戴」

「ジュリーの……?」

 しばし首を傾げていたフランソワだったがすぐに閃いたのか、

「わかりました。いますぐ持ってきます」

「他の人に、怪しまれないようにしてね」

 フランソワは言葉に出さずに指でVサインを示しながら出ていった。

「一体なにをしようというのかい」

「あなたにジュリーになってもらうのよ」

「ジュリーになるって、まさか……」

「そのまさかよ」

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