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銀河戦記/鳴動編 第一部  作者: 神崎理恵子
第一部
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第十四章・査問委員会 Ⅲ


 統合本部のとある一室。

 折りしも少佐への昇進に掛かる査問委員会の審議が行なわれていた。

「さて次の案件だが……。パトリシア・ウィンザー大尉」

「何だ! またもやランドールのところか。先のハンニバル艦隊撃退の功績で多くの部下が昇進しているというのに」

「さもありなん。ランドールの昇進のスピードは破格だからな。配下の者も自然に釣り上がってくる」

「指揮官が昇進したら、その副官も自動的に昇進するという制度は考えものだな」

「しかし副官が陰日なたとなって、その活躍を支えていることも事実だからな。無碍にもできまいて」

「で、どうするのだ。何か適当な作戦任務がありそうか?」

「タシミール収容所の捕虜救出があるじゃないか」

 口を開いたのはニールセン中将の片腕とも言われているナジス・アルドラ大佐であった。

「タシミール?」

「確かに捕虜収容所があるという情報は聞いているが、確認されたわけではないじゃないか。連邦のスパイが意図的に流したのではないかとも言われているぞ」

「そうだ。捕虜救出がなされるように誘導して、派遣した部隊に奇襲をかけるのではないかとのもっぱらの噂だ」

「だからと言って、放っておくわけにもいくまいて。流言であろうとなかろうと、真実かどうかを確認するためにも、誰かを派遣しなければならないだろう」

「それはそうだが……。もしこれが罠だとしたら、彼女には重荷過ぎないか?」

「そんなことはないだろう。聞くところによれば、ランドールが劇的な昇進を果たしたあのミッドウェイ宙域会戦の作戦。彼女がそのプラン作りに一役買っていたというじゃないか。カラカス基地攻略の作戦立案なども彼女が作成している。十分作戦任務に耐えられるだろう」

「その話は聞いたことがある。しかし彼女は士官学校を出て一年も経っていないじゃないか。今回は見合わせたらどうか?」

「それを言うなら、ランドールこそ士官学校出たてだったじゃないか。それは理由にはならない」

「彼女とランドールは結婚しているのだろう? 提督クラスなら郊外の豪華な一戸建ての官舎が用意されているはずだろ。彼女には、家庭に入って子供を生んで育てる生活が似合っているんじゃないか?」

「いや、二人はまだ正式な結婚していない、つまり国籍上というわけだが。軍籍上で婚姻届が受理されているだけだ」

「軍籍上の婚姻届は正式な夫婦として扱われる」

「ちょっと待て! 話がそれているぞ。二人が夫婦だとかどうかというのは、査問委員会で論ずることではない。ウィンザー大尉が、少佐に昇進させるに値する人物かどうかが問われているはずだ」

 それぞれの思惑を胸に多数決が取られることになった。

「それでは賛否を問う。パトリシア・ウィンザー大尉を、タシミール収容所へ派遣させることに賛成の者は、挙手を願いたい」

 ぱらぱらと手が挙がった。

「賛成多数。よって、査問委員会は、パトリシア・ウィンザー大尉を、少佐への査問試験として、タシミール収容所へ捕虜救出のために派遣させることを決定する」


 アレックスは、各部隊司令官と共にパトリシアを司令官室に呼び寄せると、査問委員会からの作戦指示書を広げて見せて言った。

「パトリシア・ウィンザー大尉。私が准将となり、副官であり大尉であった君には、佐官への昇進機会が与えられることになった」

 その口調は司令官として、私意を排除し静かながらも威厳を込めて語りかける。もちろんパトリシアも厳粛に受け答えする。

「ありがとうございます。提督」

「ただし、君も知っていると思うが……。副官任務についていた者で、大尉在位期間が三年に満たないものは、適正審査と面接試験の他に、実戦指導能力を試験するための作戦任務が与えられる」

「存じております」

「そこでだ……君には部隊を率いてとある作戦を遂行してもらわなければならないが……これは強制ではなく辞退することもできる。佐官昇進を断念するならば……。どうだ、大尉」

「ぜひ、やらせてください!」

 パトリシアはきっぱりと答えた。

「わかった……」

 低く呟くように答えると、目の前の任命書類を手にとって、パトリシアに告げるアレックス。

「統合本部よりの情報部が入手した情報によって、カラカスから敵陣に入った二十パーセクのところにあるタシミール星域に捕虜収容所があることが判明した。守備隊は約二百隻の部隊が駐屯しており、捕虜として数千人が捕われているらしい。そこへ部隊を率いて捕虜となった者を救助すること。それが君に与えられた任務である」

「わかりました。捕虜の救出任務を遂行します」

「作戦遂行に際して、君に与える部隊だが……」

 といって後ろに控える部隊司令官達を見渡すアレックス。

「私の配下の第十一攻撃空母部隊を貸しましょう」

 すかさずパトリシアの先輩であるジェシカ・フランドル少佐が名乗り出た。

「ジェシカ!」

「いいのか、フランドル少佐」

「パトリシアの能力はわたしが一番良く知っておりますし、わたしの航空戦術を一番良く理解しているのもパトリシアです。第十一攻撃空母部隊を指揮させるのに何ら不安を抱いておりません」

「わかった。君がそういうなら任せよう。ウィンザー大尉、第十一攻撃空母部隊を連れていきたまえ」

「かしこまりました」

「カインズ中佐。第十一攻撃空母部隊は君の配下だ。先任指導教官として同行したまえ」

「わかりました」

 カインズは大佐昇進の選考から落とされていた。大佐の昇進枠が一人しかなく、功績点において僅差でゴードンに先をゆずっていたからである。とはいえ、彼の指揮するドリアード艦隊(第二分艦隊)はゴードンのウィンディーネ艦隊と、艦艇数や戦力レベルは同程度に維持されていることで、艦隊内における地位もほぼ同格に置かれていた。

 ライバルのゴードンに先んじられたのは癪にさわるが、昇進や恩給などが明確に定められている軍制規約というものがある以上、ランドール司令とてそれを無視できるものではないのだ。


 司令室を退室する一同。

 ジェシカに歩み寄るパトリシア。

「先輩。ありがとうございます」

「礼はいいわ。それより作戦の方は大丈夫なの?」

「考えはあります」

 きっぱりと答えるパトリシアだった。

 実は内々にレイチェルから命令の内容を聞かされていて、作戦の概要を組み立てていたのである。査問委員会の決定事項が、事前に知らされることはよくあることだった。情報部のレイチェルに一番に知らせが入るのは当然だろう。

「カラカスにいた連邦の本隊が撤退した現在では、タシミールは孤立しているとはいえ、捕虜が人質としてとられている以上、一筋縄ではいかないわ。それだからこそ、これまでに救出部隊が派遣されなかった理由なんだけど……」

「はい。伺っております」

「本当はわたしが同行できればいいんだけど……。そうもいかないわね。先輩後輩の間柄では情が移るから」

 タシミールは捕虜収容所があるということだけで、資源にも乏しく戦略的にはさほど重要ではなかった。軍事拠点としては、資源豊富なカラカス基地に防衛施設・燃料補給施設などすべてが集約されていたので、それを失った現在では連邦軍にとってはどちらかといえばお荷物的存在であった。ただ捕虜収容所があって、捕虜を護送するよりも人質として扱い、偵察のために部隊を残しているという状態でさほど重要視してはいなかった。

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