第二章・士官学校 Ⅳ
Ⅳ
パトリシアは少し酔っていた。
カクテルを飲みながら、隣のアレックスにもたれかかるように寄り添っている。
あの日以来、アレックスとのデートを重ねてきて、すっかりうち解け合って酒の出る場所にも同席する仲になっていた。
はじめてのデートでは食事をして別れた。
二度目には帰り際にファーストキスを奪われた。はじめての異性との接触であったが少しもいやな感じはしなかった。
三度目には強く抱きしめられて胸を愛撫された。
デートを重ねるたびに、二人の絆が深くなっていく。いずれ行き着くところまで行くのは明らかであった。それも運命かも知れないと思っていた。
パトリシアは、アレックスになら自分の身体を捧げてもいいと思っていた。
「バーでお酒を飲みたいな」
といって、自分の方からアレックスをバーに誘ったのである。お酒を飲むことで、自分に勇気を与える意味もあった。
「少し、暑いわ」
「外に出よう。少し風に当たるといい」
アレックスが、ふらつくパトリシアの身体を抱き寄せるようにして外へ連れ出してくれる。
高台にある静かな公園にきていた。眼下には宇宙港が広がっており、時折真っ赤な炎を撒き散らして空高く舞い上がっていく様がよく見える。軌道上にある宇宙ステーションに向かう連絡艇である。
それらがよく観察できる一番の場所にアレックスは車を止めていた。車の助手席に座るパトリシア。
開いた窓から冷たい風が入って気持ちがいい。
アレックスの顔が覆い被さってくる。パトリシアはそっと目を閉じる。唇を吸われ、服の上から胸を愛撫される。パトリシアはなすがままにされていた。やがてスカートの中にアレックスの手が滑り込んできてショーツに手をかけた。
「ここじゃ、いや……」
パトリシアは目を閉じたまま、アレックスの手をそっと振り払った。
アレックスは身体を離して、車を発進させた。パトリシアはアレックスの横顔を見つめながら、意図を察した彼がモーテルに車を乗り入れるのを確認した。
モーテルの一室に入ると、すかさずアレックスが抱きしめて唇をふさいだ。
長い抱擁が続いた。
アレックスの手が背後に回る気配がしたかと思うと、ワンピースの背中のファスナーを降ろしはじめた。
やがてパサリと床に落ちるワンピース。
異性の前ではじめて下着姿を見られているのかと思うと身体が微かに硬直していくのがわかった。
アレックスが唇を放して口を開いた。
「ベッドにいこう」
パトリシアはアレックスの両手に抱きかかえられてベッドに運ばれた。
ベッドに横たえられる下着姿のパトリシア。
アレックスが脇に入ってきて、ブラが外されショーツが引き降ろされた。
パトリシアは生まれたままの裸の自分に注がれる熱い視線を感じていた。
「いいんだね?」
アレックスはやさしくささやいた。
「わたしのこと、好きですか?」
「ああ、誰よりもね」
その言葉に答えるように、パトリシアは黙って目を伏せるのだった。
パトリシアが宿舎に戻ったのは、八時の門限から三時間も遅れた午後十一時であった。 パトリシアを出迎えた寮長は言った。
「あなたが門限を遅れるなんてはじめてね」
「はい」
「正直に言って頂戴。彼と一緒だったのね?」
寮長は毅然とした表情をしてはいたが、その声はやさしかった。
「はい……」
「わかったわ。今回は特別に許してあげる。でもこれっきりよ」
優等生で何かにつけて、寮長の手助けをしてくれていたパトリシアだからこその配慮であったのだろう。
「今回ははじめてだからしようがないかもしれないけど。今後も女性が門限を破らなければならないような立場に追いやることになっても少しも省みない男性は、きっぱりとわかれなさいね。そんな奴は、女性の身体だけが目的なんだから」
「わかりました」
自室に引き込んだパトリシアは、今日の出来事を思い起こしていた。
アレックス・ランドール。
自分の処女を捧げた男性として、一生忘れることはないだろう。
「結婚したいな……」
パトリシアは、将来の夢を思い描いていた。愛する人と結婚して一緒に暮らし、子供を産んで育てるという、ごく普通の女性なら誰でも願うことであった。士官学校において席次首席という優秀な成績を持つ彼女も、一人の男性の前ではただの女性でしかないことを。いつかきっとその希望がかなうことを祈りつつ眠りに入るパトリシアでった。
翌日。
アレックスに顔を見られると恥ずかしいという思いで、何となく士官学校に出るのがためらわれたが、行かないわけにはいかなかった。
その日の授業を終えて早速いつものように第一作戦資料室へ向かう。
「パトリシア!」
突然、アレックスの叱責が飛んだ。
昨日の思いが込み上げてきて、アレックスとの話しを上の空で聞いていたのであった。
「は、はい」
「念のために言っておくが、僕は公私混同はしたくない。休日とかには君と恋人でありたいし一緒にいたいと思うが、公務にあるときはあくまで指揮官と副官の、或は先輩と後輩のそれ以上ではない。そこのところを間違えないでくれたまえ」
「す、すみません」
アレックスの強い口調に、自分の甘えにも似た考えがあったのを反省した。
パトリシアは気分を切り替えるように深呼吸をした。
アレックスはやさしく見守るように微笑んでいた。
「どう、大丈夫かい」
「はい、すみませんでした。もう大丈夫です」
「よし……早速はじめるよ」
「はい」
「例のコンピューター技師の選定は済んだかい」
「情報処理部のレイティ・コズミックが適任かと思います。彼は、コンピューターウィルスのワクチンを開発するのが専門ですが、逆も得意で、誰にも発見されないようなウィルスを開発し忍び込ませることができると自慢しています」
「レイティか……次の会議には彼を呼んでおいてくれないか」
「わかりました」
「よし。今日はこれくらいにしようか」
「はい」
「じゃあ、帰りは送るから喫茶店にでも寄ろうか」
「え?」
「だからさ。これからの時間は公務を離れた私の時間だよ。恋人同士に戻る時間さ」
といってパトリシアの頬に軽くキスをして、その肩を抱いてエスコートしてゆく。
「切り替わりが早いのね」
「何事も、公私はきっちりと区別しなくてはね」




