8.お金が集まってくる
1.元の建物を魔法で粉々にする
2.土魔法で家の基礎を作る
3.土魔法で家の壁を作る
4.土魔法と火魔法で……
5.土魔法と水魔法で……
・・・
・・・
最短工期二日。この世界での家の建て方。
土地を均す工程もあるけど今回は必要なくて、最短でできました。
大工とは!?
ずっとその様子を見ていた健人はこれなら俺にもできそうだって言っていたけど、うん、多分できるよ、間違いなく。
全属性の魔法使えるんだからね。高いお金掛けて人に頼むより良い家ができたかも知れないよ。
ガンさんなんて最初の掛け声だけであとはずっとお酒飲んで座っていたし。魔法でどうにもできないものもあるからそれに対応はしていたけどそれだって数回程度。そのいざというときに酔っぱらっていて半分は使い物にならなかった。
ガンさん、本当に棟梁なの?
雑貨屋さん家族は商業地区の一等地に店を構えることができたそうだ。
すごく土地代が高いはずなのに。あんなにのほほんとした利益度返しの商売でどうやって資金を捻出したのかと思っていたけど、そこはね。目の前にいる常識外れな人が絡んでおりましたよ。
健人の新居にて事情聴取を行う。
「お前の家にずっといてやってもいいけども」
「なんで上から目線なのかな?あなたに決定権があるような言い方は止めてよ」
「俺もこの世界で生きていくってなれば自分の家が欲しいけどお前から離れたくないし、とは言えずっと世話になるのも男のプライドが許さない」
腕を組んで真面目な顔をしているけど言っていることが残念だよ。
「それで俺は思いついたんだ。お前の隣に住もうって」
「もう、バカッ!そのドヤ顔がむかつく!それで雑貨屋さんに資金提供するからって商業地区に移転させてここを譲ってもらったわけ?」
健人は満足そうに頷いた。
「すっげー喜ばれた」
「でしょうね!資金はどうしたのよ?」
「あ、これ」
ドドンッて感じで真新しいテーブルに出された革袋。パンパンに詰まっているのが十はある。重みでテーブルがギシギシいってるよ。
確認するのが怖かったけど恐る恐る袋の口を開いて、手が震えた。
「全部金貨じゃないの」
「それお前の分な」
「え!?」
まさかギルドの成果給!?こんなに貰えるの!?
「国からお前への精神的慰謝料に職務妨害の損害賠償料、隣国を属国にした恩賞金。あ、恩賞金はお前に一割、俺が九割な。で、竜人国からの迷惑料と、属国からは没収資産の一部を迷惑料として、エルフは金がないっていうから悪いけどエルフの秘薬で我慢してくれ。秘薬は時間が経過すると効果がなくなるから使いたいとき言って?すぐに出すから」
「わーん!!」
思わず両手で顔を覆ってしまった。
「そんなに嬉しいのか?くそ。もっと吊り上げれば良かった」
嬉しくて泣いているんじゃないわよ。何してくれたの!?
絶対私は国の要注意人物リスト名を連ねているわ。そっちは家に飾れないよ。
「隣の国潰しに……交渉に行ったとき同じ日本人に会ってさ、転移する前は弁護士やってたんだって。話をしたら交渉役を買って出てくれて、お陰で楽だったよ」
潰すって言おうとしたよね。はじめからそのつもりだったわけ?ダメだ、これも聞かなかったことにしよう。
その同郷の人は属国を滅ぼしたときに一緒にこちらに来たそうだ。ギルドマスターに引き合わせてこの国に保護してもらうことにしたんだって。
聞いていて頭が痛くなる。
三十六項目にもあったな。
[彼らの元には一気に莫大な資金が集まる傾向があり潤沢な資金を力にして不可能を可能にする無限の可能性がある。国が亡ぶ危険性もあるため金の使い方に注視する必要あり。※莫大な資金の集まり方パターンは八十五ページと勇者八項目二十二ページ参照]
[似た者が集まりやすくどれも個性的で有能な者が多い。集まって何かをすると厄介さが増すため注意が必要。交友関係はきちんと把握することが厄介ごとを増やさない基本。※交友関係の掛け合わせによる周囲への被害パターンは三十一ページ表の一参照]
私の分だけで革袋に十。健人はどれだけのお金を手にしているの?絶対この国よりお金持っているよね?孤児院に寄付させるだけじゃ使いきれないよ。
この勇者は最終的にどこに向かうのだろう。ゆくゆくは国でも興す?これも載っていた気がする。もう考えないぞ。
交友関係なんて把握しきれるものなのかな?私が動けない間レンゾルは何をしていたのだろう。半年くらい給料の三十パーセントカットをギルド本部にお願いしてやる。
「はあ。もう仕事に復帰するの、やめようかな」
だって、これだけお金あれば贅沢に暮らしたとしてもひ孫の代まで安泰だよ。実家に仕送りしても有り余るし。
「え!それって、つまり。あ、ちょっと待って。まだ準備が、指輪……」
なにやら健人が顔を赤くしてそわそわしている。なに?
「トイレなら我慢しないで行ったら?」
「違うし!」
せっかく新居が完成したというのに健人は私の家に泊まっている。広くて一人でいるのが寂しいとのこと。チラチラと私の様子を窺がってくるのは自惚れる訳では無いが私に一緒に住んで欲しいのだろう。
これだけ隠さない好意を見せられれば私も満更ではない。
それにあれだけ迷惑かけられて精神を壊す寸前までいったのに本人に嫌いって言えないのだから嫌いではないと思う。でも恋愛として考えると少々問題がありまして。私の考えすぎかな。
恋愛は魔王の脅威が去ってからゆっくり考えますかね。問題を先送りにしただけだけど。
勇者である健人がこの世界に出現したということは近い未来で魔王が復活するということ。どれくらいで復活するかを文献や勇者八項目で調べたら勇者が現れてから半年以内には姿を現すことが分かった。
勇者のレベルの上がり具合が高い理由は魔王復活まであまり悠長な時間がないということだろう。
健人の最新ステータスを確認させてもらったけど。
レベル 188
適性 勇者
魔法属性 全属性
スキル 鑑定 探索 交信 身体強化 自動回復 生命変換 マジックバック
加護 女神セイルスの寵愛
見せてくれるスキルが増えているわね。それでも全部ではないのだろうけどまぁいいわ。
それにしてもレベルの上げ幅がえげつないですね。この短期間で百十も上るって。
「ねぇ、レベルの上限てあるの?」
「どうだろ。女神は何も言ってなかったけど」
今まで確認されている中で一番レベルが高かったのは二百年ほど前にいた勇者のレベル248。一番低くて206。
うーん。今の健人で188かぁ。全力の二割で森の地形を変えたのは一ヵ月前。その時のレベルは78。健人が言う勇者限定の転移者特典で普通のレベル78より強いことを考慮してもなぁ。
「けーんと?」
「んー何?」
甘えた声で健人を呼ぶとデレっとした顔で私を見る。勇者を手懐けるってなんか優越感?快感に似たような気持ちが湧いて‥‥‥やめよう、変態になってしまうわ。
「あなたレベル偽装しているでしょ?」
「!!」
決定だね。ビクッてなったよ。あからさまに。
「今さらレベル隠す必要ないでしょ?正直に見せてよ」
「いや、そうなんだけどさ」
ここにきて躊躇う理由なんてないでしょうに。何が引っかかるのかしらね。
「あのね。分かっていると思うけどこっちには今までの勇者に関するデータがあるのよ。それに照らしてみれば健人のレベルには違和感があるの」
窘めるように言うと健人は恥ずかしそうに俯きながら言った。
「あまりに人外じみたレベルだからお前に距離置かれたらどうしようとか考え、て……」
なにそれー!!いじらしい。
不覚にもときめいてしまった!
そんな事今さら気にするとは思ってもみなかったわ。
でもそうか。人外じみたレベルなのね。先に心の準備ができていれば顔に出すことはないと思う。それに。
「魔王って大体五十年周期で誕生するのは知ってる?」
「女神に聞いた。それが今回百年近く経っても誕生しないから次はかなり強い魔王が誕生するっても言ってた」
過去にも長く魔王が誕生しなかったことはある。でも誤差としては十年くらいだった。それが今回はかれこれ五十年過ぎようとしているのだ。
「それもあって俺のレベルはかなり上がりやすくなっている。そうしないと間に合わないって」
「そこまで神様が融通利かせられるなら、魔王なんてこの世界に出現させないようにできないのかしらね」
「俺を転移させてくれた女神は補佐でこの世界を創造した創造神じゃないからそこまでの手心は加えられないって」
おっと。ここで新情報きましたよ。創造神!色んな神様がいるんだから創造神がいて当然よね。それなのに図書館の本にも虎の巻にも載っていない創造神。健人の口から出なければ気にすることも無かった。それっておかしくない?気になるわね。
「その創造神の名前教えて」
「え?お前、自分がいる世界の創造神知らないのか?」
健人は驚いているけど知らないのは私だけではない。
「皆知らないと思うよ?本にも載っていないし創造神を祀る神殿もないしね」
「マジか……教えていいのかな、これ」
普段あまり見ない真面目な顔で健人は悩んでいた。創造神が知られていないという不可思議な現象が意図的なものであるなら教えるべきではないよね。
でも私は知りたい。
「じゃあ、交換条件」
「何と?」
「私もステータスを偽装しているからその偽装の一部を解放して見せるわ。全部は見せられないけど見る価値があるくらいには偽装をといてあげる」
「!!」
「そうすれば多分健人も本当のレベルを見せる気になると思うし」
私の本当のステータスを晒すのはちょっと危険だけど、健人なら大丈夫だよね。なんといっても闇落ちするくらい私のことがす……好きなんだから。
「分かった」
健人は決心したようだ。
なら私も腹をくくりましょう。
「はい、見てもいいよ」
レベル 202
適性 聖魔法士
魔法属性 聖 水 風 土
スキル 鑑定 料理 浄化 ×× ××
加護 ×××××××の××
「レベル202……」
「どう?引いた?」
首を傾げると、健人は笑みを浮かべた。
「いや、むしろますますお前のことが好きになった」
ふぁー!!
健人の感覚ってどうなってるのかな。強い女の人が好き?でもこれ魔法士としてのレベルだから体は貧弱な普通の乙女なんだよ。
「お前も転移者なのか?」
「そう思うよね。でも私はこの世界で生まれ育った生粋のベルドランド人よ。ただごめん。まだちょっと教えられないこともあるから追求は無しで」
「分かった。それは俺も同じだから責める訳ないだろ。でもレベル教えてくれてサンキューな。嬉しい」
おお!笑顔が眩しいよ健人。
ニカッと歯を見せて笑う健人はよく見るとこの世界に来たときよりも日焼けして精悍な体つきになっていた。勇者の貫禄も付いてきたかな。
「じゃあ、俺のレベルもな」
健人がほんの数秒目を閉じた。
「見てもいいぞ」
レベル298
間違いなく歴代最高でしょう。
ここまで読んでくださりありがとうございます。