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4.ステータス

 スリーサイズを健人に知られたショックを引きずっている時間は今の私にはない。

 そんな時間があるなら一分一秒でも多く健人対策に費やさなくては細やかな平穏はあっという間に崩れるだろう。

 既に手遅れかも知れない現実を考えないようにしてレンゾルがいる部屋へ向かう。手にはついさっき入手した健人の鑑定結果を記載した紙と異世界人対応の虎の巻、三十六項目を握りしめて。


 レベル 78

 適性 勇者

 魔法属性 全属性

 スキル 鑑定 探索 交信

 加護 女神セイルスの寵愛


「レベルだけ見れば既に上位冒険者を凌駕するか」

「これに経験と実力が加われば頼もしい存在になると思います」


 これはギルドの職員としての素直な気持ちです。というか頼もしい存在になってもらわなければ困る。


「この女神の寵愛という加護は?」

「えーと。転移後も女神が特に気にかけて見守ることを約束した者に送られる加護で、彼が持っている【交信】というスキルで月に最大二度女神と話ができるようですね。女神セイルス様は戦の神としても有名です」


 三十六項目の参照欄を捲り該当の加護を探すと過去の転移者でも貰っていた人がいたみたい。とっても詳しく書かれている。似たようなスキルで女神のお気に入りというのもあった。こちらは月に一度女神と会話ができるとある。寵愛とお気に入りって意味同じじゃないのかな。

 人ならざる者の考えなんて私には理解できない次元だから神なりに何か区分があるのかも知れない。


「恩恵としてレベルが上がりやすくスキル獲得も容易とあるので、スキルはこれからどんどん増えると思います」

「鑑定持ちなら採取依頼は簡単にこなしてもらえるな」


 レンゾルの手元には営業でもぎ取ってきた依頼が多数あった。依頼は待っていてもやってこない。ギルドマスターとはいえ部屋でふんぞり返っている暇はない。ギルド同士で成績を争っているから自らも営業に出なければならないのだ。なんて世知辛い。


「……レンゾルさん」

「お、この依頼健人にどうだ?西の森で薬草採取。報酬も割りといいぞ」

「そろそろ現実を見ましょうよ」


 健人のステータスが書かれた紙をレンゾルの目の前に突きだして現実世界に呼び戻す。私だってできるなら現実から目を背けたい。でもギルドマスターがそれをやったらダメでしょ。


「彼、勇者でした」

「勇者だな」

「参照欄を読み上げますか?」

「流石に分かる」


 両手で頭を抱えるレンゾルの顔は一気に老け込んで見えた。きっと私も三十歳くらいは老け込んでいるんじゃないかな。鏡を見るのが怖い。


「健人は今何をしてる?」

「このままでは危なすぎるので三十六項目に従ってマーカスさんを付けて訓練場で力の制御から教え込んでます」

「グッジョブ……」


 親指を立てて誉めてくれるがその親指に力が籠っていない。


「しかし、勇者か……とうとう来たか」


 焦燥感がこもる低い声。レンゾルの気持ちは分からなくもない。

 誰もが憧れる響きの良い職業。異世界転移者にのみ出現する職業で、この世界の男達がなりたくて堪らないチート職業なんだけど、勇者が出現する意味を正しく知る私達には笑えない話なのよね。


「約百年ぶりの勇者か……どれ、俺が直接」

「あ、レンゾルさん。それダメです。ちゃんと三十六項目読んでいます?ここ見てください」


 すかさず該当ページを開いて渡す。


[実力を確認するなどと称して興味半分に自分との戦いを嗾け、皆の前で無様を晒すギルドマスター達がいる。勝率は一割未満でそれもほぼ辛勝かまぐれ、最悪なのは勝ちを譲られたことに気づかない。ギルドの士気が下がる恐れがあるので自分の上司がバカをやりそうなときはきちんと諫めましょう。※バカをしでかす傾向が強い上司特性と負けパターンは五十九ページ参照]


「ね?」


 レンゾルは凍り付いた表情で本を返してくれた。

 特性としてはレンゾルのように多少腕に自信がある者が多いみたい。現場から叩き上げで来た人達だね。要は自らも冒険者をしていた人達だ。

 気持ちは分かるけどやっぱり無謀だよね。

 冷や汗をかいているレンゾルは思い留まってくれたようだ。まだ脳みそ全てが筋肉になっていなかったようで安心した。


「遅かれ早かれ健人には国が介入するぞ」


 そりゃそうでしょう。言われなくても分かります。

 勇者が出現したということは遠くない未来で魔王が復活することが確定なのだ。国に内緒にしておくなんて無理。

 多分健人のステータスには私と同様に偽装がかけられている。勇者のステータスはこんな生易しものではないことが三十六項目の参照欄と照らせば明らかなのだ。

 それでも職業を偽らず勇者であることを見せてくれたのは有難い。

 私達もこれから魔王対策ができるからね。いくら勇者とはいえ、この世界を彼一人に託すのは良くない。微力ながら私達も精一杯バックアップするつもりだ。

 幸い健人は勇者であることを嫌がっている素振りはない。

 もしかすると女神と相談の上で決めてきたのかもしれない。

 ただ、健人の態度からするに彼は勇者であることを隠して生活をし、いざというときに華々しく自分が勇者であることを明かそうとしていたのではないだろうか。 

 私に正直に明かしたのはスリーサイズを覗いた罪悪感からかも?そう思えばスリーサイズを知られたことも報われる。そういうことにしておこう。


「俺は国の転移者支援課に行って伝えてくる。お前にはこれな」


 部屋の隅にある書棚から取り出された分厚い本。片手で投げてよこしたレンゾルは私を殺そうとしているのかな?最早鈍器だよ。

 そんな鈍器をこれまた片手でキャッチした私。何度も言うけど私って結構凄いのだ。これまで私の凄さをお見せ出来ていないことは不本意ですが。

 くるりと手首を回して渡された本の表紙を見る。

「【別冊 異世界転移者固有適性 勇者の扱いについての八項目】?」

 私は思いっきり鈍器をレンゾルに投げ返した。


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