潜入?
潜入()します。
当初の予定では折り返しくらいには差し掛かってるはずです。
拙くあろうが時間がかかろうが、完結までは描き切る所存です。
思いついたし書くのも読むのも手短に終わりそうだったからもう一つ書いてます。(もう書き終えそう)
ボンボンと爆発する音が反響している。目を覚ますと僕はふかふかで本革のシートに座っていた。車窓に移るは永遠と続く黄土色のトンネルだけだった。
「ようやく起きたか。抵抗しようとは思わないことだな。まあ、お前には特別製の手錠を付けてるから、抵抗しようにも魔法の類は使えないがな」
車内にはスーツの男が運転席に1人、俺の左隣に1人、そして俺の左隣にさっきの白いスーツの男が居た。
「売る気か?」
「どうだろうな。首領に気に入られたらなかなかいい暮らしができるぞ」
男だと打ち明ける選択肢も考えたが、身に及ぶ危険を考えるとリスクが大きいと結論に達した。それに、内部の動きを知れたなら、内外の両方のアプローチでアラタの妹さんの救出が出来るかもしれない。ここは一旦成り行きに身を任せることにした。車体後方では黒煙が吹き上げられ続けていた。
程なくして車が停車する。男たちに連れられるまま階段を上り、長い廊下を歩いていく。通り過ぎるドアには来賓室とプレートが貼られてるものがほとんどだった。地下を使った要人をここに通しているのだろう。今度は階段を下りていく。鉄骨むき出しの通路が続き、途中には警備室とみられる部屋が存在した。おそらく脱走者が現れたときのために透明張りにしてあるのだろう。中には小銃も数丁確認できた。突き当りを曲がると10部屋ほどの牢がそこにあった。
「お前には今日この場所で寝泊まりしてもらう。明日は首領の品定めがある。精々装いを正して準備しておくんだな」
そういうと白いスーツの男は僕を一番手前の牢に入れ鍵を閉めた。牢はコンクリートのような壁で仕切られており対面の牢以外にどんな人がいるのか確認することが出来なかった。その対面には、パッと見18歳くらいの、白のブラウスに赤のロングスカートを着た女の子が一人、光のあまり届かない隅の方で三角座りをしていた。疲れているのかこちらに見向きもしない。
「や、やあ君。お話ししないかい?」
「……なんでしょう」
ナンパの常套句のような言い回しになったが、女の子が顔をこちらに向け、牢の入り口付近にやってきた。鼈甲色の眼鏡に映る細い垂れ目。光に触れ、赤い三つ編みが輝く。
「君、もしかして……マナさん……?」
「そ、そうですけど。何故名前を?」
「僕はアラタと、君を助けに来たんだ!」
「お兄ちゃんが!? 兄は、兄は今どうなっているんですか!? まさか捕まったんじゃ」
「待って待って、安心して。アラタたちは捕まってないはずだよ」
「そ、そうですか。よかった……」
「僕はサクヤだ。よろしくね」
「はい、よろしくお願いします。それで、助けに来たあなたが何故檻に入れられているのでしょう?」
「いやそれはその……僕は単に攫われただけで……」
マナの頭上にはクエスチョンマークが無数に浮かんでいた。
「救出とは全く関係ない話で単に攫われただけ、ということですか?」
「はいそうです……面目ない……」
「分かりました」
「あ、質問なんですけど、僕たちがオークションにかけられる日程ってわかりますか?」
「それすら分からずに助けに来たんですか?」
「ごめんなさい……」
「……明日は首領による品定めがあり、残されたものでカタログ用の撮影が行われるとのことです。オークション自体は今から6日後だそうです」
「ありがとうございます……!」
聞いたはいいものの、続けて何を言っていいのか分からなくなってしまった。少しの沈黙の後、マナが口を開く。
「救出というのは、私だけなのですか?」
「…………パレドマーケット周辺は沼地だし、もしこの建物から脱出できたとしても全員で逃げ切るというのは難しいと思う。地下を通るには警備を掻い潜る必要があるし、あまり現実的だとは思えない」
「そうですか……」
奥の牢のほうからすすり泣く声が聞こえてきた。話を聞いていたのだろう。人道的ではないと分かっていても、叶えられない希望を抱かせるよりましだと思い、こう言うほかになかった。マナはまた部屋の隅に戻り、三角座りを始めてしまった。しばらくすると、コツコツと音が響いてき、黒いスーツの男がやってきた。
「就寝時間だ。寝ろ」
それだけを伝えると男は帰っていった。牢を照らしていた光が消える。特段今出来ることはないが、コルネの品定めで気に入られることが出来たら、現状より出来ることが増えるだろう。チャンスがあるなら掴みにいかねばならない。明日に備えてしっかりと睡眠を取ることにした。
牢を叩く甲高い音でたたき起こされる。
「お前ら起きろ。身支度を始めるぞ」
そういうとスーツを着た男は牢を1つずつ開けていき、女の子を他のスーツの男に付き添わせ外へ連れていく。
「お前も早く出ろ」
無言で従う。昨日来た通路を逆に戻り、階段を2階分上る。連れて行かれるままたどり着いたところは衣装室だった。部屋の中央におかっぱ姿でヒョウ柄のシャツを着た、オカマっぽい人が大声で話し出す。
「あんたたちに今からドレスを一着ずつ私が選んで渡すわ。前から順にやってきなさい」
順番はマナが最後尾で、その前が僕だ。ドレス選びの吟味の時間は思ったより短く、すぐに番が回ってきた。
「あなたはそうねぇ……紺……いや、暗めの青の顔をしているわ。はい、これね」
ドレスをもらうと付き添っていたスーツの男に脱衣所まで連れられる。脱衣スペースはカーテンで仕切られていた。
「脱げ。風呂に入ったらドレスを着ろ」
全身に脂汗が流れる。それは非常にまずい。風呂へ続く通路はそのカーテンの外で、通路を見渡せるように監視が1人、風呂の扉の前にも1人立っている。つまり単に風呂に行こうとすると、僕が男であることがばれてしまう。
「手をだせ。品定めが終わるまでは手錠を外す」
「ありがとうございます」
カーテンの中に避難する。しばらく思案に暮れるが、何も思いつかない。
「どうしたんですか?」
ドレス選びが終わったマナがやってきた。
「その……僕、男なんだよね」
マナは目を見開きながら僕を顔を見て、下に視線を落とし、もう一度顔を見る。すぐに後ろを向き、小さな声を震わせながら話し出す。
「な、何となく困ってることは分かりました……私が後ろに立って見えなくするので、あなたはあの、その、前を隠してください……あとその、着替えはみ、見ないでくださいね」
「み、見ないから大丈夫だよ」
急いで後ろに振り返り、お互い着替えを始める。しかし、人には大丈夫してと言ったものの、僕自身が全く大丈夫な状態でない。背後から衣擦れのが聞こえる。このカーテンで仕切られたえらく狭い空間の中で裸になりゆく女の子と二人っきりなのだ。いらぬ妄想ばかりしてしまう。
「あ、あの、もう大丈夫ですよ」
「う、うん」
バスタオルで腰を隠し振り返ると、バスタオルで前を隠し、髪をおろしたカナがいた。どことは言わないがなかなかに大きい。ごめんアラタ、妹さんをそんな目で見ちゃってごめん。ほんとごめん……。
「その、上半身も隠したほうがバレにくいと思います。じゃあ行きましょうか」
アドバイスに従い、全身を隠し、大事な部分を挟みながら僕を先頭にしてカーテンを抜ける。通路には未だ監視が二人。じろじろと体を眺められている。……なんとか監視の横を男であるとバレずに通り抜けられ、風呂場に入ることが出来た。緊張がゆるむ。角を曲がるとボックスタイプのシャワーユニットがずらりと2列並んでいる。奥の2つ並んだ場所しか空いていなかったため、手前側をマナに譲る。栓をひねり、水が温まるのを待っていると隣に入ったマナがぼそりと呟いた。
「……意外と大きいんですね」
「あっ」
お兄様。妹さんのお目を穢した僕をお許しください。
ドレスに着替え、メイク室に通された僕たちは、各自に支給された化粧道具で、顔を整えさせられた。下地とファンデーションを塗り、アイブロウで眉毛を整えていく。
「あ、あの、私ほとんどメイクしたことないんですけど、どうすればいいのでしょう?」
複雑そうな顔をしたマナが質問してくる。そりゃあまあ複雑だよね。相手が男だもん。
「そっか。下地はちゃんと塗れてるね。マナならそうだな……素材の持ち味で勝負しよう。ファンデーションは薄めにしてー……」
「す、すごい……私じゃないみたいです!」
「素材良いからすっごく可愛くなったね」
「そんな、お世辞はほどほどにしてください……!」
そういいながらも、まんざらでもなさそうな顔をしていた。
「すごい慣れた手つきでしたけど、化粧はよくなされるんですか?」
「……どうなんだろう、分かんない」
マナの頭上はキョトンとした顔でこちらを見つめてくる。
「記憶がなくてね。自分がどんな人間だったかも知らないんだ」
「そうなんですか……」
それ以上マナは深く尋ねてこなくなった。
「はーいじゃあそろそろ品定めの時間よぉ。ついてらっしゃい」
オカマの人が、入ってきた入り口とは反対側の扉に入っていく。ついにご対面だ。
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