攫われ体質
ベヒモス撃退してピルト到着です。
4から始まる良いタイトルが思いつかなかったわけじゃ決して、決してそんなわけしかありません。
ここで謝罪です。サクヤの前に度々現れている女の子の描写が足りず、あたかも裸体の女の子がサクヤの前に現れているかのようになっていました。
白いワンピースに黒髪で長髪の女の子です。
石造りの家々の中を抜けた先にクスノキさんの家はあった。長らく家を空けていたのだろうか、石畳の道は雑草に隠れてしまっており、奥に見える納屋の軒先は一部朽ち果ててしまっていた。年季の入った木造の二階建ての家に僕たちはお邪魔する。
「振舞ってやるっつっても荷馬車の中の分しか食材はねぇんだけどな」
「んー……保存の利く肉類ばっかりですね……」
「どうせなら買い出しするか?」
「でもアラタ、妹さんの救出が」
「嬢ちゃんの顔を見てみろよ」
疲労困憊で休息が必要そう……というより肉だけでは物足りない、という顔をしていた。
「沼地は体力の消耗が激しい。あんだけでけぇ氷をバンバンうってたんだ。ここはいいもん食って休憩させてやらねぇと」
本当にそういう顔してるのか? あの顔は今日の献立を考えてる顔じゃないのか?
「確かではないが、普段通りならあと一週間前後は時間はあるはずだ」
カナと小話をしながら聞き耳を立てていたようで、クスノキさんが話に入ってきた。
「……じゃあ今日はここで休憩していこうか。カナ、何食べたい?」
「ん~私は何でもいいんですけど……」
「何でもいいが一番困るんだぞー」
「オカンか。俺はちょっと食っちまったから、あっさりしたサラダが食いてぇな」
「それなら生ハムがあるからそれを使おう。玉ねぎは余った分があるからあとは……レタスとパプリカを買い足そう」
「ハイハイ! じゃあ照り焼きチキンが食べたいです!」
「じゃあってどっから話が繋がってたんだよ……」
「じゃあ逆に照り焼きチキンバーガー……?」
「米の対義語はパンじゃねぇぞ。ていうかお前、さっき俺よりがっついて食ってたじゃねぇか!」
「はて……?」
カナは顎に人指し指を当て顔を傾ける。
「はて……? じゃねえんだよっ、太るぞ」
「太らないです~それに痩せ型より健康的な体系の方が男受けがいいってネクロノミコンにも書いてました~」
「死者の書にんなこと書いてるわけねえだろ俺でも知ってるわ!」
「で、結局ご飯にする? それともパン?」
「ご飯でお願いします!」
「付け合わせ用の味噌汁とか他の買い出しもしようか」
荷物を置いて外に出る。
「八百屋はこの道を真っ直ぐ行って2本目を右だ。残りの買い出しは……アラタ、ついてこい。」
「はいはい」
「じゃあカナ、早速行こうか」
「はい!」
買い出しが終わり、調理が始まる。アラタが出汁取りを任され、クスノキさんと僕で鶏肉の厚みを均等にし、片栗粉をまぶす下準備をしていた。
「私は何をしましょう!?」
「じょ、嬢ちゃんはサラダの準備をしてくれるか?」
「了解しました!」
クスノキさんはどうやらカナの扱い方を覚えてきたらしい。コンロに火をともし、いざ焼かんとフライパンんに油をひいていた時に、シンクの方からガシャンと大きな音が立つ。
「……まな板を洗ってたら手が滑っちゃいました!」
全身びしゃびしゃになり呆然としていたカナが、開き直ってそう言う。
「タ、タオルなら脱衣所に何枚か残ってたはずだ。戸棚を開けて勝手に使ってくれ」
「はい! ありがとうございます!」
「…………もはや何を任せていいのかが分からん……」
「クスノキ、あの天然ドジは誰も止められねえんだ……」
「「「いただきます!」」」
クスノキさんは一人黙々と食べ始める。
「ん~肉汁がすごい! 美味しい~」
「食いっぷりを見てたらさっき食べたはずなのに俺まで腹減ってきたわ……」
「昔から美味しそうに食べるねってよく言われるんですよー!」
微笑ましく思いながら箸を進める。ふと窓辺を見ると、何度か僕の前に現れ消えた、見覚えあるあの女の子が通り過ぎていったのを見た気がした。
「……ごめんちょっと外見てくる。皆は食べてて」
記憶を取り戻す鍵かもしれない存在をみすみす逃すわけにはいかない。
「お、おいサクヤ!」
「行っちゃった……何かあったんでしょうか?」
「わかんねえけど……」
「…………私、見てきますね!」
「お、おい。ほっといてもいいんじゃないかって行っちゃった……聞いてねえや……」
「アラタ、おめぇも大変だな」
「おう……」
この先は町はずれの田園だが、さっきの女の子らしき姿は見えない。左か! 道を左に曲がり辺りを見回す。……いた! 距離はかなり遠い。女の子が角に差し掛かり、視界から消えてしまった。ここで見失うわけにはいかない。死に物狂いで追いかける。息を切らしながら角を曲がり再び視界に捉える。人通りの少ない直線の道。見失う要素もない。あと少し。あと少し。女の子までもう目前となり、肩に手を差し伸べようとすると、存在に気付いたのか女の子が振り返る。
「……何か用ですか?」
サクヤ君、全然見つからない……どこ行っちゃったんだろう……。うう、お腹減ったなぁ。見つけたらサクヤ君の照り焼きチキンを分けてもらおう。にしてもどこに行っちゃったのか……あ、いた!
「サクヤ君……ってあの女の子は誰!? どんな関係なの!? サクヤ君ってロリコンなのかな……頑張れば私もロリって言い張れるよね! ……逃げかえっちゃったよ? 知り合いじゃないのに声かけたの? もしかしてサクヤ君ってちょっと危ない人だったりする? ……ってあのサクヤ君に近づいてる白いスーツの男、見覚えあるよな……えええええ!? サクヤ君殴られちゃったよ!? 保護者登場!? ……殴るのに使ったアレってもしかして、銃……思い出した! 路地裏の裏であった、いかつい男だ! でもなんであいつが……とにかく助けに行かなくちゃ」
曲がり角でサクヤを観察していたこの僅か10秒で起こった多くの出来事にあっけを取られながらも、サクヤ君を助けるため走り出した。男はサクヤ君の脇を抱えて右手の路地裏に連れて行こうとしてる。
「待ちなさい!」
大気中の水分を一点に集め、男を拘束しようと試みた。しかし、男まであと数mというところで水球が破裂してしまう。
「くそっ、なんだコイツ」
男はサクヤ君を路地裏に引きずり、消えていってしまった。
「ま、待って!」
急いで路地裏の前まで走り様子を確認するが、誰もいない。路地を抜け奥の通りに出ても、それらしき姿はない。見失った。どうしよう……サクヤ君が……サクヤ君が……ま、まずは皆に伝えなきゃ!急いで来た道を戻る。
「み、みんなどうしよう! サクヤ君がカンタナにいた白いスーツの男に攫われちゃった!」
「お、おいおいおいまたかよ!?」
「そいつはどこへ行った」
「わかんない……路地裏に入ったっきり見失っちゃって……」
「はぁ……十中八九組織のやつだ。この町にも地下は通っている。そこから運んだに違いない」
「は、はやく助けないと……」
「そ、そうだな。急いで準備するぞ」
「まて、もうそろそろ夕方だ。今から行くと夜は魔物、朝方は霧で危ない」
「そうか……」
数瞬静かになった食卓に、腹の音が響く。
「……私も心配だけど、とりあえず今はご飯をたべよう……!」
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