2人目の仲間 1
サクヤとカナの放浪が始まります。
いつか自分で挿絵とか入れられるようになりたいですね。
スピカ村を出発し、最寄り町であるカンタナに向かっている。半日歩けば到着できるそうだが、険しい山を越える必要があった。僕たちは今その山の下りに差し掛かっていた。
「町が見えてきましたよ! 頑張りましょう!」
「おう!」
「ちょっとごめんねー!」
後ろからそう叫ぶ声が聞こえる。振り向くのと同時に、膝丈のボロいマントを羽織った赤髪の男がカナにぶつかった。
「わっ!?」
「ごめんよー!」
「大丈夫!?」
「はい……って、ああ! ない!」
カナがさっきまで持っていたナカト写本が無くなっていた。
「さっきのやつか!」
男を追いかけて急いで駆け出すが、このままでは到底追いつくことが出来ない。足を止め地面に手を付ける。
「フリーズ!」
下り坂に長い氷の道を張り、すぐさま飛び乗る。屈みながら手をつき、氷の道を延長して男を追いかける。100m、90m、80m。どんどんと距離を縮めていく。男はちらちらとこちらを確認しながらも猛ダッシュで逃げている。男の左足の辺りに、角ばった布袋が見えた。40m、30m、20m。念のためナイフに手をかける。男まであと数mとなったところで、氷の道から勢いよく男にとびかかる。男は急に止まり踵を返し、マントの下から抜刀し斬りかかってきた。既の所でナイフを取り出し、剣を弾く。よろけて隙が出来た左横腹に膝蹴りを入れる。すぐさま着地し追撃する。順手でナイフを右から一振りするがバックステップで避けられてしまった。着地の隙に、透かさず左から二振りし、男の左脇腹に飛び込む。太ももに小さな切り傷を与え、男のマントの内側に入りこんだ。動きが鈍くなった男が、ステップを踏み再び逃げようとするが、それより早く角ばった布袋の紐を切ることに成功する。
「くそっ、覚えてろよ」
男は捨て台詞を吐くと胸元から何かを取り出し地面に叩きつけた。見る見るうちに煙が辺りに広がり飲み込まれる。目、鼻、喉にヒリヒリとした痺れが広がる。
「ブリーズ!」
カナの声が聞こえると、辺りを包んでいた煙がそよ風とともに晴れていった。
「大丈夫ですか!?」
「うん。なんとか」
咳き込みながら答える。
「そうだ、これ」
袋の中からカナの魔導書を取り出す。魔導書の他にはパンが一斤入っていた。
「……! ナカト写本、取り返してくれたんですね! ありがとうございます!」
「どういたしまして」
「それにしてもサクヤ君、魔法の使い方すごく上手くなりましたね!」
「そうかな!?」
「はい! あとさっきの氷で滑るやつ私もやりたい!」
「お、じゃあどっちが先に山を下りれるか競争だなー」
「負けませんよー!」
山の麓に着き、氷の道から飛び降りる。
「よーし一番!」
「サクヤ君どいてええええ!」
声の方を見やると、しりもちをつきながらこちらに向かって凄まじい勢いで滑ってくるカナが目前まで迫っていた。カナは魔法は上手だが、運動がてんでダメだ。氷の道の先は上向きになっていて、スキージャンプの要領で宙に飛ばされたカナの体が僕に降りかかる。
「ぐはっ……」
「いてて……だ、大丈夫ですか!?」
「大丈夫……多分……」
「はぁ……よかったー途中で体勢を崩しちゃって危ないところでした~」
「ご、ごめんカナ。どいてくれないと……ちょっと苦しい」
「あ、ごめんなさい!」
「ふう……何はともあれ到着だね」
「そうですね!」
僕たちの前に大きな門が聳え立っている。最初の目的地、カンタナに到着した。
「スピカ村とは違ってめちゃくちゃ広いなぁ……」
カンタナの街並みはスピカ村とは全く別のものだった。入ってすぐには噴水と鉄製のモニュメントがでかでかと置かれていた。道はレンガで舗装されており、道端には街路灯が等間隔に並んでいた。
「カンタナはこの地方のなかでは4番目に大きい町ですからね!」
「へぇそうなんだ! この大きさで4番なのか……」
「私が目指してる大都、エムリットはこの3倍広いですよ!」
「ま、まじか」
「大マジ、です。ささ、いろいろ見て回りましょ! 久しぶりに来たからテンション上がっちゃうな~!」
「えっと時間は……4時か。念のため観光の前に宿を探そうか」
「それもそうですね。早く行っちゃいましょう!」
カナは小走りで案内図が貼られた掲示板を確認しに行った。
「あっちです!」
「シングルを二部屋かツイン、どっちがいい?」
「どっちにする?」
「ツインでお願いします!」
「じゃあ一部屋銅貨40枚ねー」
「はい」
「毎度あり! 部屋の鍵は金庫と共用だから無くさないでねー。晩御飯は8時から9時までだよ。ここで食べるならそれまでに帰ってくるといい」
「わかりました。ありがとうございます」
荷物を部屋に置き、宿屋を後にする。
「これからどうしよっか」
「情報屋に向かいましょう! そこならサクヤ君を知ってる人を探すことが出来ますし、お金稼ぎも出来ます!」
「お金稼ぎ? どうやって?」
「町中の人が情報屋に通して、依頼書を掲示板に貼っているんです! 害虫の駆除とか、荷馬車の護衛とかの依頼を遂行してあげたら、依頼主から見返りにお金をいただけるんです!」
「そんな便利なところが……!? 記憶の手掛かりのためにも! 早速いこう! さあ早く!」
「サクヤ君、今めっちゃお金の顔してますよ」
店に入るとカウンターに受付嬢が一人たたずんでいた。
「すみませーん。人探しの依頼をしたいんですけど」
「その方の写真などはお持ちですか?」
「ああいえ、この人です」
「……は?」
キョトンとした表情で僕を見つめる。
「そりゃそうなるだろカナ。実は僕記憶喪失になったみたいなんですけど、僕を知っている人に未だ出会えていないんです。もし僕を知っている人がいれば、記憶を取り戻す手掛かりになるんじゃないかと思って」
「そういうことでしたら写真を一枚撮らせていただきますね」
パシャリと一枚撮影される。
「ではこちらのペンで依頼文と報酬内容をお書きください。依頼の紹介料金として報酬の5%はこちらが受け取ることとなっています。あらかじめご理解のほどよろしくお願いいたします」
ペンと記入用紙をいただき、近くの机へ移る。
「どういうふうに書こうかなぁ」
「やっぱり簡潔にしたほうがいいですよね。"この顔に見覚えがあれば宿屋まで!"みたいな」
「なんか指名手配犯みたいにならないかなそれ」
「じゃあ、"スピカの丘で発見された発見されたサクヤ君(18) 発見当時はどろどろの白いシャツに黒のズボン お心当たりのある近親者の方は宿屋まで"」
「迷子じゃん。いや迷子だけどさ」
「どうしましょう! 悩みますね!」
「そうだなー。ここは分かりやすく、"記憶を失ってしまいました。どなたか私に見覚えがある方は宿屋へ"でどうだろう」
「いいですね! それにしましょう! 報酬は……銀貨2枚で」
「ごめんね僕なんかのためにお金使わせちゃって」
「いいんですよ。その代わり晩御飯のおかずをちょっと分けてください!」
「くっ……物によるな」
ペンと記入用紙と報酬の銀貨二枚を受付嬢に預け、掲示板の前に移る。
「私達でも出来る依頼はありませんかね~」
「これとかはどう? 庭の手入れで銀貨2枚」
「うーん……」
「これは? 一日皿洗い銀貨4枚」
「うーん……」
「これめっちゃいいじゃん! 部屋の片づけ金貨2枚!」
「地味です! もっとこう、興味をそそられるものがいい……あ! これどうです!? 新薬の被験者募集!」
「いや怖くない!? 絶対ヤバいって」
「金貨4枚」
「やろう。今すぐ向かおう。3番街の路地だな、よし行こうカナ」
「ちょろい……」
「何か言った?」
「いえいえお気になさらず~」
町外れの路地裏の裏。怪しい雰囲気が漂う。
「ここですね……」
「すみませーん。受注したものですがー」
中からドタバタと音が聞こえる。
「やあ、いらっしゃい 早速入って入って」
バーガンディのシャツに白衣を羽織った、中肉中背な中年の男が出迎えた。
「お邪魔します」
「いやぁこんなところまでご足労ありがとうね」
「早速ですけど新薬というのはどういう薬なんです?」
「興奮剤の一種だよ。一人分だけしか用意してないんだけど、どっちが飲む?」
「飲みたい!」
「お、君元気いいね。じゃあこれ。ぐいっといってみよう」
カナに青い液体が入った試験管を手渡した。
「ニシジマさんでしたっけ。どうして自分では試さないんです?」
「色々薬を自分で飲んで人体実験を重ねたから、僕で実験しても効果を保証するデータにはならないんだよね……どう?何か変化を感じたりする?」
「うーん……特にないです」
「そっか……この後用事があったりする?」
カナは懐中時計を確認する。
「そろそろ宿の晩御飯の時間なんで……」
「そうかそうか。じゃあ変化があってもなかっても、メモにするなりして様子の報告をお願いするね」
「分かりました!」
「それじゃあまた明日もよろしく」
「さようなら!」
カナと僕は一礼をして、ニシジマさんの研究室を出た。
「エビフライですよエビフライ!」
午後8時20分。僕たちは宿に帰り食事をとっていた。スピカ村周辺は海に面していないため、海産物は祝いの席でもないと見かけないものらしい。
「僕の分も食べるか?」
「え、いや、ダメ、うーん……2/3ください」
欲望に負けたか。
「薬の方はどう? 何ともない?」
「うーん……特に何もありませんね」
「そっか。何かあったら僕にも言ってくれよ」
「心配してくれてるんですか~?」
「当たり前だろ」
「ふふーん」
「な、何その反応」
「ふふふーん」
「どっかおかしくなったんじゃないのかー」
「ふっ」
「頼むからまともに会話してくれ!」
「そうだサクヤ君、明日は着替えを買いに行きませんか?」
「いいねそれ。着回しはきくけど、サキさんに繕ってもらったのもほとんどがボロボロになってきたし」
「サクヤ君は絶対さわやかな青のワンピースが似合うと思うんですよね~!」
「ぼ、僕は男だぞ!?」
「え~でも髪はロングでつやつやだし、顔は美形だし、体系も女の子っぽいから、女の子の服絶対似合うよ! ほら、イイダさんにも間違われてたじゃん!」
「それはそうだけど……スカートとかのヒラヒラしたのは絶対着ないからな!」
「なんならメイク道具とかも買い揃えちゃう~?」
「今度は話を聞いてくれ……っ」
晩御飯を取った後は部屋に戻り、日課の勉強会を開いた。今日は静電気のエネルギーを魔力で増幅させ、稲妻を発生させる魔法を勉強した。勉強会中カナは終始ニコニコしていた。別段薬による変化は見られない。何事もなく、夜が明けた。
「結局なんの効果もありませんでした」
「そっかー。もうちょっと催眠作用を強くしたほうがいいのかなぁ……ん? いやそうかそうか。次は独り身の被験者を探さないとな」
ニシジマさんは何やら恐ろしいことをぶつぶつと呟いている。
「あ、もう大丈夫だよ。情報屋の所で報酬は受け取ってね」
「はい! ありがとうございました!」
「カナちゃんだっけか。頑張ってね」
「は、はい……? ありあとうございます」
ドアを開き研究室を後にする。
「何もなくてよかったね」
「ニシジマさんには悪いけどね」
路地裏の裏の裏の方で怒号が放たれている。
「てめぇ今週分が払えねえようなら臓器売り飛ばすからな! 明後日までには用意しとけよこの野郎!」
鈍い打撃音の後に、唸り声が聞こえてくる。声の方から白と黒のスーツを着た二人組がやってくる。
「どけ」
白のスーツの男が我が物顔で命令してくる。
「……はい。すみません」
「兄貴、コイツ」
「……まだだ。行くぞ」
「へい兄貴」
「…………何あいつ。感じ悪い人だなぁ」
唸り声はまだ聞こえてくる。
「……見に行こうか」
僕たちは路地裏の更に奥へ進んでいく。ついに自然光は全く届かなくなり、僕たちの足元を照らすのは、何かの店から漏れいづる怪しげなオレンジの光だけだった。
「う゛……クソッ」
聞き覚えのある男の声。角を曲がるとそこにはつい先日、カナの魔導書を盗んだ赤髪の男がうなだれていた。
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