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潜入!

潜入します。

ポケモン原神メガテンと、いろいろハマってしまって辛い。

昨日スダマ6体に背後取られて先行ワンキルされました。これが現代遊戯王かぁ。

 水滴が自重で落下し、ぽたぽたと音を立て水面に波紋を描く。油、洗剤、糞尿、すべてが混ざった臭いに体が条件反射をおこし、何度もさらさらとした唾液がこみあげてくる。道を照らすはレズリーのランタンとカナが生み出した灯だけ。にも関わらず、レズリーは迷うことなくスタスタと歩き俺たちを先導している。


「一応もう一度確認を取っておくぞ」


レズリーが真っ直ぐ前を向いたまま確認する。


「奴隷棟の牢がある部屋に直接つながっている扉を開けたら、まずはアラタとカナちゃんは君の妹とお仲間探しを。アラタはその後看守がいないか通路の確認。管理者のトラヤはこの時期出張しているし警備は薄いはずだが、帰ってこられてたら厄介だからこの夜間に完遂させるぞ。もしどちらかが居なかったらカナちゃんはさっき手渡した経路図通りに進んで先に厩舎に戻っておいてくれ。俺とアラタは塔の裏手を登って屋上から侵入を試みる。大丈夫か?」


「おう」


「……あい」


横にいるカナが鼻にかかった声で答える。何故か体をくの字に曲げながら灯を前方に掲げ、空いた手で鼻を摘まんでいる。


「鼻を摘まむのは分かるがなんでそんな体を曲げてんだ……?」


「あしもとぃえやすいかなって。ごぇんなさいはなすのもきついです」


「そ、そうか。すまんな」


カツカツと乾いた靴の音が何度も反響する。いざ決戦の地へ……いや争いは起きない方がいいんだが、着々と近づくにつれ鼓動が早まる。前例をなぞるわけにはいかない。ましてやカナ、サクヤ、レズリーを巻き添えにするわけにはいかない。必ず成功させなければならない。情を捨てて、淡々と任務をこなす。人を殺すわけではない。傭兵時代と比べりゃさほどきつくない任務だ。安心しろ。


「着いたぞ」


立ち止まったレズリー。不意の一言で、気づくのに遅れ危うくぶつかりそうになる。レズリーの前方には階段があり、続く先に小さな扉が照らされていた。ついにこの時が来た。右手を強く握りしめ、胸を強く打つ。


「よし、行こう」


レズリーにランタンを貰い、前に立ち、ギギギっと小さな扉を開き中に入る。奴隷棟は奥に見える通路の角から漏れいずる微かな明かりを除き、排水路と変わらぬほど真っ暗だった。足元を照らし、壁を伝いながら牢を探す。ランタンを掲げると、すぐそばの牢に、赤茶色の髪の女が座り込んでいるのを視認できた。


「あなたは……? た、助けて! お願いここから出して!」


「シー! 静かにしろ……! 見張りが来るだろ……!」


「やだ! 家に帰りたい! もうこんなの嫌!」


必至になだめるが言うことをまるで聞かない。その声を聞き、次第に辺りがざわざわとし始めた。


「そ、その声……お兄さん?」


怒りともとれる叫び声の隙間、薄暗い明かりの方からか細い声が聞こえてくる。聞き馴染みのあるマナの声だ。ランタンで壁伝いに一列、一部屋一部屋照らしながらマナの存在を確認する。仄暗いランタンが赤い髪を照らす。一番奥の牢に、そこにマナはいた。


「兄さん……! やっぱり兄さんだ……!」


「ひとまず無事でよかった……本当に良かった……」


「この人がマナさんか?」


「ああそうだ、間違いない」


確認を取るとレズリーは懐からピッキング道具を取り出し、カチャカチャと鍵穴をいじくり始める。


「サクヤ君はどこにいるんでしょう……?」


俺が調べていたのと対面の列を調べ終えたカナが素朴で重大な疑問を投げかける。


「そ、そうだ、サクヤさんはコルネに連れていかれて……」


「まさか処分されたんじゃ」


「いや、そうじゃなくて、その、お気に入りになったみたいで……」


「「「えぇ……」」」


何故なのか。どうしてなのだろうか。よりにもよってそっちがなのか。いやまあ、マナが無事だったことは喜ばしいんだが、サクヤの方が薄汚れたお眼鏡にかなっちまうのは少々複雑だな……。確認を終えた俺は通路の角で見張り役に着いた。電灯の1つが不定期に点滅しいてる以外、通路に異常はなく、人影もない。カナはレズリーの手元を照らし解錠を手伝っている。その間も騒ぎの方は一向に止む気配を見せない。


まだかまだかと立ったまま膝を揺すり始めて随分と時間がたった。いや、今か今かと一人目の救出を持ち望むばかりに張り詰めすぎて俺の体内時計が狂っちまってるだけかもしれない。


ガチャリ。その音は唐突に響いた。


「よし、開いた」


キィーと軋んだ開閉音が耳に届く。一度視線を牢に向け、再び視線を通路に戻す。依然、気が抜けない。


「ありがとうございます……」


「よし。カナちゃんはさっきの通路を」


「あ、あの! ……他の人は助けられないんですか……?」


カナの言葉を聞き思わず見やる。俺が言わんとした事は、そっくりそのままレズリーが淡々と伝えてくれていた。


「……カナちゃん、分かるだろう? 一人牢から出すだけでこれほど時間がかかっているんだ。あと九人なんてとてもじゃないが時間がない。気付かれてしまう」


「でも……」


「私からもお願いします!」


助けを求め続けしわがれ始めた声をかき消す大声をあげ、マナはレズリーに頭を下げた。


「バカ、おいマナ!」


「我が儘だって分かってる。けど他の人を見捨てるような真似、マナはしたくない!」


「我が儘にも限度ってもんがあるんだぞマナ。お前がフラっと家を出てフラっと消えちまったせいで、捕まっちまったやつもいるんだ。俺はそいつを助けに行かなきゃいけねぇ。責任があるんだ、俺たちには」


「皆不安なんだよ! これからどうなるかが……私も同じだったから。兄さんたちは彼女たちにとっても希望なの! 見捨てるなんてそんな酷なこと……」


「感情論を持ち出して、これ以上話を続けてる暇はない。カナ、連れて行ってくれ」


「ア、アラタさん!」「兄さん!」


レズリーが右手で牢を一殴りする。


「静かにしろ……!」


押し殺しつつ全員に聞こえる程度の声でレズリーが言った。一瞬にして生まれた静寂に、カツっカツっと重く鳴る高い靴音と、漏れ出る吐息が響く。誰かがこっちに走ってきている。音をたてないよう慎重に刀を鞘から取り出し、抜き足差し足で定位置に戻る。カツカツカツカツっカツっカツ……足音が止んだ。待ち伏せが気付かれたのか? 分からない。しかし警戒は怠れない。垂直に構えた刀の峰をじっと見つめ、耳を研ぎ澄ます。


ガチャン!


強烈な光が後方から。電灯が灯されたのか。何故このタイミングで? まだ夜は深いはずだ。靴音が再び響き始める。カツカツカツ──


左足を右足のかかとの後ろに引き、刀身を頭上に持ち上げる。


「ッタァアアア゛!」


「っちょっ──」


ギィン!っと金属音が響き、鎖を断ち斬る。斬る反動で生まれた猶予で、相手の顔を認識した。


「──と待ってアラタ!」


すんでのところで刀を止める。斬りかかられたサクヤがそこで、腰を抜かし尻もちをついた。



「影が見えていたから誰かがいるというのは分かってたけど、よもや君に殺されようとは思わなかったよ……」


尾骨をさすりながら起き上がる。


「サクヤ君!?」


「す、すまん……けどお前、どうしてここに? それにその服」


「これかい? コルネの品定めのためわざわざ用意されたんだ。なかなか似合うだろう? その後何とか隠れて逃げ延びてきたよ……さあ、脱出しよう」


「マナはもう救出した。逃げるぞ」


「他の人は?」


「サクヤさん、君が逃げ出したことがもう気付かれてるかもしれないだろう。脱出が出来たとしても、町に警戒網をはられてしまえばこんな大所帯じゃ町を抜けられない」


「君がレズリーさん?」


「そうだ」


「ではレズリーさん。牢の事なら鍵があるから問題ない。もぬけのからの警備室で取ってきた。ライトもそこでね。次に脱出についてだが、全員逃げられるルートを知っている。私に任せてくれませんか?」


「本当に助かるんだな?」


アラタの真剣な眼差しが突き刺さる。


「信頼に足らないかい?」


「……任せたぞ」



「よし。手錠、外せた」


「全員そろました! さあさあ張り切っていきましょう!」


「急に元気になったなお前。ピクニックじゃねんだぞ」


「帰るまでが遠足ですからね!」


「遠足でもねんだがな……」


「レズリーさんは一緒に先頭を頼みます。アラタとカナちゃんは最後尾ね。さあそれじゃ行くよ!」


各々の力のこもった返事を聞き遂げ、足を前に。チカチカと光る蛍光灯、警備室、階段を過ぎ、来賓室のプレートで来た道順の確認をする。階段を下り、扉を開いた。先には黄土色のトンネル。一切のうねりなく続くそれは、ナトリウムランプの有無にかかわらず深く暗い印象を覚えさせる。


「ここのどこかに車があるはずなんだけど……」


「あれ、そうじゃないか?」


レズリーの指さす方には開かれたシャッターがあり、ガレージには確かに車両が3台見えた。


「それだ。急ごう。君たちはここで待ってて」


ヒールを脱いで駆け足で向かう。この際ドレスも邪魔ではあるが、好みであるので良しとしよう。ガレージには車3台のほかにバスも納車されていた。


「よしこのバスにしよう。レズリーさん、運転できますか?」


「昔車に乗せてもらったことはあるが……ものは試しだな。やってみる」


「脱走者です!」


ガレージの中に誰かいたらしい。3台のうち真ん中の車の裏にいた、胸元にトランシーバーを着けた整備服の男が、震えた手でハンドガン構え威嚇している。


「誰だお前ら!?」


「ごめんなさい。私たち急いでいるので」


右手で一方のピンヒールを強く握りしめ、もう一方を地面に放り投げる。短く強く息を吸い、前傾姿勢で男に駆け寄る。


「く、来るな!」


男が引き金に手をかけたところで左足を軸に体を時計回りに捻り回転し、正中線をはずす。すかさず鳴り響いた轟音が、ヒュンと音をたてながら空を切り、艶やかな髪に3つ、5mmの穴を開けた。回転の勢いは殺さぬままにボンネットに手をつきそこに重心を傾ける。軸足で強く地面を蹴り上げ、遠心力がかからぬよう膝を折り曲げボンネットを乗り越えた。回避運動を兼ねしゃがんで着地する。当の男は……どうやらジャムったみたいだ。


「じゃあね」


「くそっ!」


銃底で殴りかかろうと手をあげる男。それの脇と壁の隙間を抜け背後を取り、ヒールの付け根を首に当て、つま先とヒールの先を持ち、右に捻りを入れながら後ろに強く引く。かはっ。声にならない声を上げた男が、引く力に男の自重が加わり勢いよく倒れ行く。そっと右手を離し解放してやると事切れたように地面に伏した。


「ちゃんと武器も整備しないと」


「お前、見た目に寄らずなかなかやる奴なんだな……」


男の胸元やズボンのポケットをまさぐり探す。


「よし、キー見つけました。はい、レズリーさん。バスの方をお願いします」


「え、ああ、分かった」


ピンヒールを拾い上げ履きなおす。バンパーの右下、ドアコックの中にあるボタンを押してドアを開きレズリーとともにバス内に入る。運転席にとび入ったレズリーが、キーを差し込み、捻り、ボタンやらレバーやらあれやこれやを触りだした。ドアが開閉したり色々忙しい。試して試して数度目に、ブルルンとうなりを上げ、エンジンが動き始めた。


「よしよしよしよし! 早く逃げないと」


車体後方に移っていると、うなりを上げ急発進。突然の揺れに思わず転びかけた。支えるために手をついた座席にいそいそと座り、シートベルトを着用する。この荒さでは直線のトンネルでも事故するやもしれん……。ガレージの入り口に車体右側面を擦りながらも外に抜け、カナちゃんたちが乗り込みやすいように車をつけた。


「急げ! 乗れ!」


カナが通路側の私の隣に、マナさんを窓側にしてアラタ達が前の座席に座った。全員が乗り込んだところで再び急発進。数名が思わず悲鳴をあげる。強いGも感じなくなり、胸をなでおろしかけたその時、後方からバスに向けて弾幕がはられた。


「おいおいおいマズいぞ」


前の席に座っていたアラタとマナが身を乗り出し確認する。


「マナ、お前は頭を下げとけ。被弾するかもしれん」


「しょうがないね……」


同じように身を乗り出し確認する。深呼吸。深呼吸。やれば出来ると自己暗示をかける。


「はぁっ!」


声を合図に、小銃を持った男たちの袖元が燃え上がる。


「やった出来た!」


「お前、意外になかなかえげつないことするな……」


「あれくらい服を脱いで地面に叩きつけたら鎮火するよ」


「弟子よ、腕をさらに上げましたね」


達観した雰囲気でにカナちゃんが言う。


「いえいえそれほどでも」


「それにしてもドレス似合ってますね! お化粧も綺麗……!」


「そう? ありがとうね」


「それサクヤ君が自分でお化粧しちゃったのよ」


「ええ!? 教えてください!」


「また今度ね」


「やった絶対ですからね忘れちゃだめですよ!」


顔は笑顔だが語調は激しく食い気味だった。ちょっと怖い。


「はーい」


会話に間が空く。返しが適当すぎたかなと顔をうかがうと、カナちゃんは私の太もも辺りをジロジロと眺めていた。


「なんかここ……え!? 血じゃないですか!? 大丈夫ですか!?」


「だ、大丈夫か!?」


アラタが前の席から再び身を乗り出してくる。マナさんも同じように乗り出し、口に手を当てあわあわしている。


「あ、ホントだ。でもどこも負傷してないよ?」


「怪我したときは痛くないんですよ!」


カナがドレスの裾を持ち、勢いよく翻す。


「わお、大胆……」


マナさんが声を漏らした。


「男なのに見てはいけないようなものを見た気分になる……なんだこれは……」


「興奮したの?」


「男に興奮するかバカ!」


ペタペタとひとしきり太ももを触り終え、カナちゃんがぼそりと呟く。


「あれ、どこもケガしてない……」


「だから怪我してないってー多分さっき格闘した相手のじゃないかなー」


「そ、そうですか……ならよかったです!」


そう言うとカナはそっとドレスの裾をもとに戻した。その後の車内では閑話が続いた。私実は車なんてものに乗るの初めてなんですよ、とはしゃぐカナちゃん。懐かしい気分だ。



「看板曰くここを登ればピルトらしい。ここでいいんだよな?」


数十mの鉄製の梯子がかけられている。おそらく来賓者用ではないのだろう。天井が見えないほど長い。


「おう。おっさんに挨拶してくるよ」


「よし。じゃあな。俺はこの子達を責任もって家まで届けてくるよ」


「頑張れよ。ありがとうな」


「……俺から言うはずが先に言われてしまったな。じゃあな」


「さようなら~皆さんお元気で!」


カナが手を振り別れを告げる。アラタは言葉ではなく握手で伝えた。


「ありがとうございました。では」


レズリーがバスに乗り込む。窓にはお辞儀する人や手を振っている皆が映っていた。今一度急発進には気を付けてほしいが……言わんこっちゃない。


「じゃあいこっか」


「はい!」


「おっさんに土産ごと話を持ち帰ってやらんとな」


「土産扱いしないで兄さん」


「あ、サクヤ君とアラタさんは先に上ってくださいね」


「んなこと分かってるよ……ってお前下から女物のパンツが丸見えなんだよ降りろ! 後に上れ!」


「かわいいでしょ。というか男には興奮なんかしないでしょ?」


「いやしねぇよ!? 断じてしねぇよ!?」


「アラタはあまのじゃくだなぁ」


「うっせぇバカ」


この梯子を登り切ってしまえば今日という……いや昨日か? まあどちらでもいい。この一連の出来事にピリオドが打たれてしまうのか。久々でなかなか有意義な一日だったのに。ちゃんと楽しんでくれたかな? ねぇどうだい、佐久田?

お読みいただきありがとうございました。

更新は不定期になります。

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