いけすかねぇ
サクヤがマナと合流し、化粧を終えコルネといざ対面ってとこからです。
長期の休みが終わってなかなか書く時間が取れなくなってきました。
けど女神転生する時間はかけがえないので適度にほかで時間を削ります。
「コルネ様、お連れいたしました」
「やあやあ淑女たち。待ってたよ待ってたよ~?」
銀色の派手なスーツを着た、太った金髪の男が僕たちに向かってくる。ワイシャツはパッツパツで、無理やり止められたボタンの隙間から腹毛が見えてしまっている。コルネは自分のちょび髭をつまみ、なぞりながら言葉を続ける。
「いやぁお待たせしたねぇごめんねぇ。あとちょっとだから我慢してね~」
部屋に入ってきた順に品定めを開始する。体をベタベタ触ったかと思えば次に移り、また終えたかと思えばその次は飛ばして違う人を触ったりと吟味している。僕の番が来るまでそう長くはなかった。肩や腕を撫でたり揉んだりしてくる。手を下に滑らせ腰つきを確認される。
「ん~?」
コルネは少し悩んだ様子を見せると、僕の股間にいきなり手を突っ込んできた。
「うわあっ!」
コルネは僕の顔を見るとニヤリと笑い、もう一度嘗め回すように体を見た。
「……面白いやつだな。よし、こいつにする」
コルネは僕の腕を引いてくる。
「こいつを部屋に案内してやれ」
スーツの男が僕に再び手錠をかけ、腕を引っ張り連れられる。階段を上り、無機質な奴隷棟から外に出る。奴隷棟の隣には朱と金で彩られた燦爛たる木造に瓦屋根の3重の塔が堂々と建っていた。外壁には行燈のような照明がいくつも設置されており、夜間はそれが塔を煌々と照らすのだろう。中も外観と変わらず派手の一言に尽き、壁紙手すり戸に椅子机、何から何まで装飾があしらわれていて目がチカチカしてくる。
「ここだ。迎えが来るまでこの部屋から出るな」
それだけ言い残して男は扉を閉め去っていった。通された部屋は六畳ほどの台形の部屋で、壁紙は黒、梁は金に染められている。逃亡防止のためか窓は無く、照明役は天井につるされたシャンデリアが担っていた。これだけ豪勢にもかかわらず家具はベッドと机、椅子のみで、他にはコルネの自伝が一冊。待つことおそらく早数十分、全くすることがない。しぶしぶ自伝を読み暇をつぶすことにした。
靴にこびりついた泥をはたき落とし、大きく一歩前進する。
「やっと到着だぜ。パレドマーケット」
「早速レズリーさんを探さないとですね!」
パレドマーケットは闇市の拠点、と言うイメージが強く残っていたから厳かな建物が並んでいるものなんだと思い込んでいたが、実際には露店が多く建物は古ぼけたものが多かった。熱心に露店の商品を目利きしている者、腕を組み人間観察する男、看板を持ち客引きをする露出度の高い女、たくさんの食べ物を抱え逃げる老けた男と包丁を持って追いかける太った女。何でもありの町なのかここは。
「たしか厩舎って言ってたよなぁ」
「どこにあるんでしょう……」
「とりあえず町を歩き回るか。何かマナとかサクヤ関連の情報が得られるかもしれん」
「アラタさんあれ美味しそうじゃないですか!」
「おめぇさっきせんど食べてただろうが」
「あ、これかわいい!」
「ただの観光だなもう……」
「これアラタさんに似合いそうだな~」
「え、ホントか……ってレディースじゃねぇか!」
「自分の性別に囚われずに自分の欲しいものを欲しいと言っていいんですよ」
「欲しかねぇんだよ」
「あ、あれ厩舎の看板じゃないですか?」
「急に話が戻るな……そうっぽいな。早速行くぞ」
「はーい!」
来た方角とは真反対の入り口付近に厩舎はあった。赤い屋根に木製の平屋で、一階建て、高さはない建物だが敷地面積はかなり広い。厩舎前のテラスには机と椅子がそれぞれ1つずつ。遠くからでも目立つその黄色で俺たちを道案内してくれた大きな看板では、鉄錆びた風見鶏が元気に仕事をしていた。……けど馬の管理に風向きを知る必要はあるのか? 看板に負けず劣らず大きくそびえる門の外に舗装された道が続いていた。
「すみませーん、レズリーさんはいますかー?」
「……誰だ?」
奥から銀髪でオールバックの男が出てくる。白いシャツにベージュのパンツ。背は高く、筋肉が隆々なわけではないが、腕に走る浮き出た血管が日常的に運動していますよー、と語りかけてくる。
「この町に詳しいとクスノキさんから紹介されました!」
「……帰ってくれ」
「おい待ってくれ! 話くらい」
「商品を取り返しに来たってだろ。俺はもうその依頼は受けないことにしているんだ」
「何でなんですか……?」
「お前たちには関係のないことだ」
「てめぇ……」
唇を噛みしめ、反射的に上ってきた粗雑な言葉をグッと飲み込む。
「俺の妹と、お人好しにも妹を助けようとした奴の人生がかかってるんだよ!」
「無理だ」
「出来る限りの報酬はさせてもらう……だから!」
「そういうことを言っているんじゃない」
レズリーは少し深く息を吸い込み、ゆっくりと吐き出した。厩舎前のテラスに置かれていた椅子を引き、腰を掛け、深く座りなおすと足を組み、前かがみで頬杖をついた。
「……元々俺はここに住んでいたんだ。親が元々この厩舎を経営していたんだけど、厳しい両親でな。少ない小遣いじゃ好きにものを買えないからって、少々闇の深い仕事の手伝いをして小銭稼ぎとかしてたなぁ……。将来の夢が見つからなかった俺は旅して好き放題に生きれるのが楽しそうってだけで冒険者になろうと決意して町を出たんだ。親には人助けがしたいだの云々言って出たが、ある日母が急逝したって手紙が届いた。人のために真剣になれる立派な息子に育って本当に良かった、っていつも言っていたらしい。それを読みながら母に思いを馳せてると、母のありがたみを感じると同時になんて自分がどうしようもなく情けない存在なんだと気づいてな。せめてもの恩返しに母が思い描いていた理想の息子に近づいてやろうと思った。そんな時だ。クスノキさん達の依頼を受けたときはやる気に満ち溢れていたよ。なんせ人助けの依頼だ。まだ何もしちゃいないのに、人助けをする俺かっけぇなぁって陶酔すらしてた」
腰をもぞもぞと動かし姿勢を正す。組むのを止め、両足をべたりと地につけると、レズリーの顔は見る見るうちに暗くなっていった。
「けどよ、目的地に近づくにつれ、その日が近づくにつれ考えてしまったんだよ。もしバレたらとか、バレずに済もうとももし怪しまれて目をつけられたらとか、俺が迂闊にも手を出そうとした事の重大さを理解し始めてしまった。酔いから醒めてきたんだ。けどひたむきに歩を進めるクスノキさん達を見てると情が移ってしまってね。今更引くに引けないよなって。毎日毎日逃げたい気持ちと葛藤したよ。当日を迎えるのが本当に怖かった」
レズリーから落ち着きが無くなっていく。わなわなと震える両手でこぶしを握り膝の上に押し付けた。
「潜入して娘さんを助け出した。そこまでは良かったんだ。捕らえられてる他の奴らが皆助けて助けてって叫びだして、息子さんも助けようって言いだして、警備が来てもうどうしようもない、無理だと思った俺はクスノキさんだけでもと思って排水路の扉を閉めて逃げ出した。鉄っぽい味の固唾、汗ばんだ手で触れた扉の感触、アンモニア臭とともに漂う錆びた臭い、半泣きになりながら鉄格子を叩く奴らと叫声、全部が脳裏に焼き付いて離れない。予定通り、予定通りに一人だけ助けてたら皆無事で済んだんだ。結局俺は誰も助けられなかった。母の思い描いた立派な息子にはなれなかったんだ……俺にはもう、あそこに行く勇気がない。無理だ」
「……こっちはお前の話を聞きに来たわけじゃねぇんだよ」
唖然とした表情でレズリーがこっちを見てくる。
「ちょ、ちょっとアラタさん!? 言い方ってものが」
「長ったらしく悲劇ぶって自己中な話を語ってくれたが、お前に妹を救い出してほしいと頼みに来たわけじゃねぇんだよ。ただ単に侵入経路を聞きに来ただけだ。それ以上をお前なんかには求めていないし頼れもしない」
「お、お前ふざけるなよ!」
「突然大声を出してどうした? 自嘲は良くても人様は許せないのか。安請け合いしたけど責任持ちたくねぇなぁ結果必死に成長しようとしてみたけどやっぱ無理でした、でもしょうがないよね相手がアレであんな状況じゃ、どうか慰めてください、と言ってるようにしか俺には聞こえなかったが。」
「……うるさい、うるさいうるさいうるさい!」
自分の生い立ちをまくし立て語ったレズリーだったが、急に乏しい語彙力で俺の話を遮ってくる。
「俺は……俺は最大限努力したんだよ……道案内はしたし、クスノキさんだって助けた……ちょっと欲をかいて他の奴らまで助けようとするから……」
「第一お前はその場で何かしたのか? お前の口ぶりじゃ、逃げようとしてただけじゃねぇのか?」
視線を斜め下に落とし、口を利かなくなる。
「母親の理想像の息子に近づいてやろうと上から目線な物言いしたり、捕らえられてる人たちの事を奴らって言ったり、手伝いもせず逃げたことをさも自分の功績にしたりするところがいけすかねぇ。見張りするなりなんなり手伝えただろ。最大限努力したってのは出来ること全部やってから言え」
机に片肘をつかせ、ぶつぶつと呟いている。ひとしきり整理をつけたのか急に顔を上げ、涙ぐんだ目で俺の顔を見つめてきた。その目にもう怒気は感じられない。
「……クスノキさんの依頼を受けたのは手っ取り早く俺がいい奴になったんだと皆に自慢できるからだ。葛藤なんて言い方したが要するに、断り責任を持つことも、依頼を遂行する責任を持つこともしたくなかったからだ。クスノキさんを助けたんだと自分を擁護していたが、実際俺は排水路の扉から外には出ていない。実際に脳裏に焼き付いたのは足を踏み出すことすらできない、圧倒的に無力な俺だった……」
それだけ言い終えるとレズリーは頭をだらしなく垂らし、再び黙り込んでしまった。
「……なあカナ、これどう収拾つけりゃいい」
「話の落としどころも考えずめちゃくちゃ言ってたんですか!?」
「いやだって、うじうじうじうじしてて腹が立って……」
「案内ならさせていただきます。ただ、俺を連れて行ってください」
目を腕で擦りながらレズリーは立ち上がった。
「最大限の努力、やるなら今だと思ってます」
「努力せずとも俺が助け出すけどな」
「でもアラタさん鍵開けって出来るんですか?」
「え、いや、それはーあれだよ。看守からスッと」
「鍵開けなら任せてください。空いた時間に結構練習してたんで」
熱い視線が俺を貫く。さっきまで泣きべそをかいてた奴とは思えない眼差しをしていた。
「……分かった、任せよう。けどその敬語はなんか背筋がぞわっとするから止めてくれ」
「……ありがとう」
「一件落着だね! アラタ!」
「お前に言ったわけじゃねぇんだが……まあいいか」
「やっぱりちょっと気持ちわ……変なんでやめときますね~」
「お前今気持ち悪いって言いかけてたよな? いいのか? 泣くぞ?」
「みっともないんでやめてください~。さあさあ作戦会議しますよ!」
うじうじとした暗い空気が晴れる。ここからは有益な会議の時間だ。
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