クリスマスイブの夜~《不思議のゲート》をこえて
「ふはあ・・・」
クロは眠たそうに寝床から起きあがってきました。
今日はオオカミの遠吠えは聞こえてきません。
それに、真っ暗な空には頼りなさそうな三日月が浮かんでいます。
クロはいつも小川の方に行きますが、今日は反対の方を歩いていきます。
行く途中で何度も猫たちに会いました。
(・・ああ、できれば会いたくないんだけど・・・)
猫たちはクロを、不思議そうに見ていました。
***
クロはやっと《不思議なゲート》につきました。
「ふう」
クロはホッとしました。
(大丈夫、ここまで来れば)
クロは前足を《不思議なゲート》から一歩出そうとしました。
「ちょっと待ったあ!!!」
クロは不機嫌な顔をして後ろを振り向きました。
そこには、猫の中でもかなりの長老のオウがいました。
「なんですか?」
「なんですか?って・・・なんで平気な顔で言えるのよ・・?あなた、知らないわけじゃないでしょうね?このゲートから出たら、あなたは人間に見えるようになるのよ?危険な人間よ??」
「大丈夫、私から手を出さなきゃ何もしてこないもの」
「はあ?そういう問題じゃないの!あなただって分かるでしょう?あなた、小さいころ人間に傷つけられたこと、忘れてしまったの?」
クロはオウの言葉でうつむきました。
(忘れてないよ・・・)
***
クロはもともと《あっち側》で生活をしていました。
というか、《あっち側》の人間の家で飼われていた猫でした。
あの時は今のようにいちいち夜に起きて、自分でエサを取らなくても、人間からエサをもらっていたので、たいして困っていませんでした。
なのに・・・・
その人間は急にいなくなってしまいました。
一人で村を歩いていたところ、村の子供に見つかって何度もさわられました。
クロはパニックになり、誰これかまわず、ひっかきました。
その後、クロは気を失いました。
そして、人間がクロを傷つけているところ、オウに助けられたのです。
***
「パニックにならなければいいんです・・・人間はなんでもかんでもさわりたくなるんだよ」
クロはオウを見ました。
「それにね・・・、私はただあの村に戻って、生活したいっていうわけじゃないから。ちゃんと、目的があるの」
クロはそう言って、《不思議なゲート》をこえました。
オウはそれを見て、口をポカンとあけて、固まってしまいました。
クロは後ろを振り返りました。
「オウ、じゃあ明日の朝、また会いましょう・・・。メリークリスマス!」
クロはそう言って、雪の中を進んでいきました。
「・・・・・メリークリスマス・・・って?」
取り残されたオウは、ポツリと言いました。