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092 八歳 その3


「ダンジョン攻略をシステム化したおかげで兵士たちのレベルや、スライムの育成は万端、か……」

 とはいえ、この国に残っている常備兵はだいたい三千だ(大規模襲撃で万を越えていたのは兵士じゃない国民も強制的に徴兵するシステムが働いていたからだ)。

 スライムも育成マニュアルを作ってとにかく数を増やしているがまだまだ足りない。

 ちなみにこの三千は獅子宮(レオ)様と巨蟹宮(キャンサー)様の兵だ。

 人馬宮(サジタリウス)様や磨羯宮(カプリコーン)様たちも一応、神国では軍のカテゴリだが、彼らの部隊には平時は魔法研究や国内地図を作る仕事などがある。

 半農半士というか、まぁ、非常時の一歩手前で使える兵のような扱いだろう。

 だから彼らを戦争で消費(・・)するわけにはいかない。戦闘スキルではないレベルの高い軍人は(イコール)で優秀な内政要員だ。生きて国の発展に尽くしてもらう必要がある。

(兵士の武具は最新レシピの鋼鉄武器に更新した)

 廃都東京の本格的な探索はできないが、他国との戦争は一応できるようになった。


 ――勝てるわけではないが。


 戦闘では勝てるかもしれないが、戦争はただ勝って終わりではない。それではただ兵士が無駄に死ぬだけだ。

 神国が戦争で利益を出すには占領する必要がある。支配する必要がある。土地を奪ってそれを経営する必要がある。


 ――つまり人が必要なのだ。


 私は地図や資料を見て内心で頭を抱えている。

(二度の大規模襲撃で蹂躙された神国はやはり人口が少ない……)

 二度目の大規模襲撃は防衛に成功したが、それでも無傷ではなかった。

 それは仕方がないことだ。他国では入手の難しい鉄素材などが簡単に手に入る廃都東京はやはり強力なモンスターが多すぎる。

(人口を増やす方法か……)

 基本は、都市から溢れた人間を開拓にまわして利用可能な土地を増やす方法だろう。住む場所が増えれば人も増える。

 国に土地が余っているならば一番平和な方法だ。

(ただ神国には利用可能な土地が少ない)

 無理に都市を拡大したり、良い土地を開拓しようとすればどうしても殺人機械のテリトリーに入り込むことになる。

 そうして殺され人が減る。人は増えず、人が傷つくだけになる。

 一応、神国にも人口を増やすための努力のあとはあった。

 私が使徒になる前に試すだけ試した結果がそれだ。

 農村という括りの廃ビルを利用した村ビルや羊の実(バロメッツ)と呼ばれる牧畜用に改良された魔物などの牧場ビルなどがそれだ。

 ただ、その数は少ない。


 ――大規模襲撃のせいだ。


 ろくな防衛施設もなく、大規模襲撃を経験してしまったせいだ。

 村ビルの多くが無傷で乗り切れなかったし、そのまま潰されてしまったビルもあった。

(一応、首都内部への攻撃は防げたから学舎から卒業生が出て国民の数は増えるが……)

 ただし村ビルが攻撃されたせいで、新入生の数が減っている。

 なので、なんとか次の大規模襲撃が来る間に人口を増やさなければならない。

 その前に他国が攻めてくるかもしれないが……。

(やはり手っ取り早いのは他国をぶんどることだが)

 そのまま占領国の人口が我が国の人口になる。

 その分いくらか面倒はあるだろうが、それもなんとかする目算は立っている。

 他国の軍を見て思ったがやはり他国の土地のモンスターは弱い(・・)

 大規模襲撃も他国のものなら容易くしのげるだろう。

 神国の国民が村を作れる安全な土地を手に入れるなら他国を奪うのがいい。

 なるべくなら今年中に利用可能な土地が欲しい。


 ――欲を持ちすぎているか?


 いや、必要なことをするだけだ。欲ではない。

「それならやっぱり人間の兵士が欲しいな……」

「え? なに? ユーリくん何か言った?」

 ここは処女宮(ヴァルゴ)様の執務室での仕事なので、当然処女宮様がいる。

 ここは私が使徒に就任してようやく使うようになった、壊れたマンションを改築して作られた処女宮様に用意されていた専用の庁舎だ。

 枢機卿だから豪華な庁舎かといえば、そんなことはない。

 仕事が根本的になかった処女宮様に宛てがわれていた庁舎はこんな粗末なものだ。

 費用節約のために私が錬金術で掃除したが、人員も削減されているのか最初は掃除夫すらいなかったので、ついこの間まで蜘蛛の巣が張っていた場所だ。

 とはいえ仕事場は仕事場だ。人もそのうち増やすようにする。

 なので都内(・・)らしさが出るように、ワンルームマンションを借りて作った個人事務所の趣を感じるように私はコーディネートしていた。


 ――多少設備は違うが、こうして再現すると懐かしさがある。


「ユーリくん? 聞いてる?」

「ええ、聞いていますよ」

 目の前に次の会議の資料として作った答弁集を置いてあげた処女宮様はさっきまでうんうんと唸っていたが、私の呟きに反応して顔を上げていた。

 その顔には不満が多く現れている。答弁書の内容を記憶するのが本当に嫌なんだろう。最初は学校みたいで嫌だとごねていたし。

「他国を()るなら人間の兵士が必要です、と言いました」

「ねぇ、とるって言った? 降伏させるんじゃなかったの?」

「戦争はしませんよ。ただ見掛け倒しでも案山子の数は重要です。実際の占領作業もありますしね」

 うちが大変なので貴国をいただきます、と言って、はいどうぞ、とくれる国はない。

 降伏があったとしても、神国にくれてやるぐらいなら強い他国に渡す、という国の方が多いだろう。

 なのでこちらには戦力があることを示す必要がある。

 必要ならば滅ぼせることを示す必要がある。

(この国が宗教国家なのが痛いな……)

 神国には特定の仲の良い国が存在しない。

(教義がどうとかで他国とすぐぶつかるせいだろうな)

 外交はがんばっているが、それだけでは足りない。

 だから徴兵制をうまく整備して、外交で使えるカードを増やす必要がある。


 ――そこで話は戻る。


 現在神国の兵は外征ではなく、防衛に徹して身を守れる程度しかいない。

 とはいえ、兵士を増やせば内政に使える人間が減る。

(徴兵制を整える必要がある。兵士を増やす必要がある)

 人食いワニが喋れるようにならないかとワニの育成も試してはみたが、動物型モンスターをいくら鍛えたところでスライムと対して強さが変わらなかった。

 それなら世話の楽なスライムの方が増やすのが楽だ。

 獅子宮様の獅子型の使い魔はかっこいいが、特別に強いわけではない。いや、単体としては強いが、数が増えないから全体運用ができないので軍としての強さにはつながらないだけだが……。

 私がうんうんと悩んでいれば、処女宮様が思いついたように口を開いた。

「うーん、人間を増やすなら、帝国とか王国とかから輸入(・・)するとか?」

「輸入ってひどくないですか? え? っていうか人身売買とかやってるんですか?」

「違う違う。なんか、あっちの国だと人間型のモンスター? っていうかモンスターなのかな? 山賊とか盗賊とかが出るから、それを捕まえて人口の足しにできるらしいよ。うちも大規模襲撃で人口めちゃくちゃ減ったときに麦と交換したし」

「えぇ……それってどうなんです? 倫理的に」

「倫理って何? っていうか、能力値が低いから即戦力にはならないけど。人を増やすならそれがそういうのが簡単だと思うよ」

 えぇぇ……とドン引きしていれば「ねぇ、この漢字なんて書いてあるの?」と言われて私は処女宮様に渡した書類を読んであげる。ふりがなをできるだけ振ってあげてもやはり読めないのか。

「あの、この国の国民って、山賊とかから生まれたんですか?」

「え、いや、どうだろ? 私もよく知らないんだよね。十年前? 十二年前? かな。変なのに呼ばれて、街の原型だけはあって、そこに人が歩いてて、君は今日から君主だ! みたいな感じでやらされてるだけだし」

「初耳なんですけど……」

 じゃあ聖書の女神アマチカはなんなんだよ、貴女がやったんじゃないのか、と思いながら思考を遊ばせる。

「なんか世界五分前説みたいですね。それって」

「んー、なにそれ?」

「五分前に世界が生まれた、みたいな暴論ですよ。歴史も記憶も何もかも五分前に不思議な力で作られた! みたいな話です」

「……へー」

 すごい興味なさそうな顔をした処女宮様は「だったらさ、もとの日本で作ってくれればよかったのにね」なんて言って私が作った答弁書に目を落とした。

「まぁ、そうですね……どうやら転生させたりインターフェースを用意したりした何者かは私たちに何かをさせたいようですが……」

 アリスのお茶会やモンスター側の転生者を考えれば、殺し合いをさせたいのか。そんなゲームみたいなことをして誰に何の得があるのか。

「なんだっけ? 私に君主をやれって言ってた変なのも、なんか重要なことを言ってたような気もするけど忘れちゃったな」

 忘れるのかよ! と突っ込みたい気分にになりながら私は資料に目を落とした。

 処女宮様に文句を言ってもしょうがない。気になるならお茶会にいる他の君主に聞けばいい。

 きちんと教えてくれるかはわからないが……。

 騙されるかもしれないから複数の君主からの証言や処女宮様のうろ覚えの記憶との照合が必要だろう。

「とりあえず、人口を増やせるように交渉をするように、双魚宮(ピスケス)様に依頼してみましょう」

 とはいえ普通にやったら無理だろう。神国狙いの他国には神国に強くなってほしくないはずだ。最悪いくつかのレシピを吐き出してでも人を増やさなければならないが……あまり他国が強くなりすぎてもこちらが死ぬことになる。

(徳川家康みたいな状態にできればいいんだが……)

 徳川家康の手法。それは領土拡張欲の高い、戦争に強い国の属国となる方法だ。

 私たちも多くの敵を作って、多くの仕事をしなければならないが、うまくやれば勝ち馬に乗れる最善の方法でもある。

 だがこの国はそういう意味でも立地が悪い。

 東京の位置で徳川家康みたいなことをすれば私たちに先はない。帝国などの属国になった場合、神国は領土的に周囲に蓋をされて動けなくなる。

 最悪、最後は戦国時代の北条家みたいなことになるかもしれない。

(あんまり未来を考えすぎてもしょうがないんだが……)

 家康の手法を考えたが、信長みたいな奴が本当にいたら怖いし、先を見すぎても動けなくなるだろうな。



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[気になる点] >半民半農というか、まぁ、非常時の一歩手前で使える兵のような扱いだろう。 半農半士または半農半卒のことだと思われます。 前者は一般的な用法。後者は身分の比較的低い足軽の子孫に限定した…
[一言] 世界5分前説よりも信○の野望って言えばわかるんじゃね?ってなった あと箱庭ゲー
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