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創世のアルケミスト~前世の記憶を持つ私は崩壊した日本で成り上がる~  作者: 止流うず
二章・後『七歳から始める大規模プロジェクト責任者』
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084 東京都地下下水ダンジョン その28


 爆音が聞こえてくる。だが聞こえてくる銃声はまだらで、こちらの攻撃がうまく敵に効いていることを示していた。

 外の様子はわからないが、入ってくる報告から推測して、攻撃は順調だった。

 獅子宮(レオ)様と巨蟹宮(キャンサー)様、磨羯宮(カプリコーン)様の部隊は連携して敵施設を攻めている。

 そこには、どういう理由が戦闘に参加し大活躍しているらしい双児宮(ジェミニ)様の存在まであるらしい。

 もはや勝利は目前で、私も途中までは様々な後方支援に奔走していたが、襲撃もあったし、疲れているだろうからと指揮を生き残っていた宝瓶宮様の使徒様の一人に交代して人の少なくなった指揮所の片隅で横になっていた。

 責任者としてもう少し頑張るべきという意識もあったが、勝利が目前となって気が抜けてしまっている。

 指揮所に作ったワニ革を張った土のソファーに横になっていれば、遠目にアキラという女性に土埃にまみれているのが見え――いや、私は、私は……。

 私は、恐る恐る、視界の隅で存在を主張(ポップアップ)しているそれ(・・)に意識で触れそうになって――。

「――ユーリ様?」


 ――誰かに肩を揺すられて正気に戻る。


「ああ、貴方は……」

「ユーリ様、ようやく戻ってこれました。どうやら敵拠点が落ちたようで、あまり人が居すぎても邪魔になるからと戻されました。はっはっは」

 ここの警備もありますがと巨蟹宮様の使徒、シザース様は横になっている私の隣に座った。

「ユーリ様、難しい顔をされていましたのでお声を掛けさせていただきましたが、何かありましたか?」

「ああ、いえ、助かりました」

 気になるが、あれは今触るべきではないと私は思っている。

 調べるなら、周囲に誰もいない場所で調べるべきだろう。

 さて、私もさすがに横になったままでは、と立ち上がろうとすればシザース様に「休んでいてください」と抑えられ、横になったまま彼と話すことになった。

 彼は、突然ぺこりと頭を下げてくる。

「すみませんでした。ユーリ様」

「え、ええと……」

「私が離れている間にここが襲われてしまったと聞きました」

「ああ、それですか」

「はい。巨蟹宮様からユーリ様の守護を仰せつかったのに果たせず申し訳ありません」

 大きな巨体の彼がそうやると、七歳児の私には威圧しているように見えるが本人は本気で謝っているらしい。

 それにあれはこの人の責任ではない。責任というなら、私の責任だ。

「いえ、あれは私の失敗です。敵の策を一つ見破った程度で敵の限界がそれだけだと思ってしまった。敵は所詮、殺人機械のように頭の悪い集団だと無意識に考えてしまった。敵を見誤った私の能力不足です」

 知能の高さを知っていたはずだったのに。マジックターミナルを装備したり、レベルの概念を知っていたりと敵も様々な戦術を使ってくると知っていたはずなのに。

 なぜ地下から攻めてくるだけだと考えてしまったのか。

「一つ見破っただけでも……いえ、そうですね。それは、その、ユーリ様も人の子、ということでしょうか?」

「なんですかそれは。私は人間ですよ。正真正銘、七歳の子供です」

 私は苦笑いをすれば大真面目な顔をして私を見るシザース様。その唇が微かに動く。小さな声だがそんなわけがない、と言っているように聞こえた。

 ああ、この人まで……。


 ――貴方は、使徒様でしょう? この国を背負って立つ側の人でしょう?


 七歳児に、なんて顔をしているんだよ。

「ユーリ様。今回、我々は、神国は貴方に救われました」

 そこまで言われて、私はゆっくりと身体を起こす。

 どうにも彼は思い違いをしているような気がする。正さなければ(・・・・・・)、と思う。

「はい。いいえ、シザース様。私も神国の一員です。まだ子供の、七歳ですが。私が、私の住む国を守るために私のできることをしただけです。私一人では何もできなかった。私は危機を伝えただけ、あとは巨蟹宮様や獅子宮様たちの尽力あっての――」

「貴方はッ! 貴方様はッ!!」

 熱意の籠もった視線で見つめられる。やめてくれ。私はそんな、救世主とかじゃない。

 疲れることもあれば、失敗することもある。背負いすぎてダメになった(・・・・・・)前世を教訓にしなければならない。


 ――人間一人が死力を尽くしたところで、できることなどたかがしれている。


 もし私が救国の英雄にされたとしても、できるのはほんの少しのことだけだろう。

 国を救うには一人二人救ったところで意味などないし、私も他人を救い続けて()り切れたくない。

 私は、私()救われたいのだ。

 私はシザース様のがっちりとした、武器を握り続けただろう男の手を握って言う。

「シザース様。皆で頑張りましょう。女神アマチカを、皆で支えましょう。私も、その一助になれればと誠心誠意頑張るつもりです」

「ユーリ、様……いえ――」

「シザース様、もっと気楽に話してください。最初みたいに拳を向けられるのは勘弁ですが、私は子供ですよ? 使徒様が子供相手にそのように振る舞っていては私は自分が特別だと勘違いしてしまいそうです」

 悩んだ様子のシザース様だったが、いえ、と首を振って、私に向かってぐっと顔を近づけてくる。やめてくれ。暑苦しい。一人の男として、顔を近づけるなら女の人がいい。

 そんなことを言えば、シザース様ははっとしたような顔で私に向かって居住まいを正してくる。

「あの、ユーリ様。私は巨蟹宮様の使徒なのでユーリ様にお仕えするのは無理ですが、何かあれば頼っていただきたい。これでも使徒の一人です。できることは人より多いと思っております。それを貴方様に拳を向けたことの償いとさせてください」

 それは、まぁ、助かるけれど。


 ――それ以上はお互いに言えることはなかった。


 だから私がシザース様とゆっくりしていれば、ふと、目の前でアキラと呼ばれる女性が立ち上がったのが見えた。

「あ、あ、あああああああああああああああああああああ!!」

 突然狂ったように駆け出していく彼女の姿に、私とシザース様はお互い顔を合わせてしまう。

「え、あ、って、まずい!」

 私もアキラを追って駆け出す。外はほぼ(・・)決着がついているが、まだ残敵は残っている。


 ――今、彼女に死なれると困るのだ。

 

 私が駆け出せば、シザース様も私を追いかけて駆け出す。

「おい! 止めろ! その女を!!」

 辺りで休んでいたり、荷物を運んでいる兵士にシザース様が呼びかければ、すぐにアキラは捕縛された。

 ばたばたと見苦しく動く様にあきれてしまうが、むしろなぜいきなり駆け出すのか。

「あのー、どうしたんですか? アキラさん?」

 私が彼女を見下ろしながら問いかければ、アキラはばたばたと暴れたまま叫ぶ。

「は、離せッ! 離してくれッ! か、回収しなくちゃ、ぼ、僕の、僕の、アイテムが」

「僕の? 神国の法では貴女にアイテム所持の権利はないはずですが」

「知らないよッ! 僕が集めたアイテムなんだッ!! 僕のスキルで手に入れたアイテムなんだッ!!」

 どういう意味だ? ドロップアイテムを譲ってくれとか、そういう話ではなさそうだが。

「ユーリ様、拘束して事情を聞きましょうか?」

 シザース様に問われ、私は逆にアキラを解放するように言う。

「いえ、少し気になります。そのアイテムとやらに案内してもらいましょう」

 そのアイテムにシステムを回避した謎があるのだろうか?

 拘束を解けば、アキラは一目散に駆け出していく。それを追っていく私たちに気づいても、まるでアイテムがなくなってしまうかのようにアキラは走っていく。

「しかし、遅いですね彼女。何のためにいたんですか?」

 レベルの低さ……いや、トレーニングとかしてないんだろうな。必死に走っているが、七歳児(わたし)の全力疾走より遅い。

 ただシザース様に問われても私は彼女の事情を知らない。

「いえ、処女宮様たちが連れてきたそうですが……」

「あの方のお連れ様ですか……ここは戦場だというのになんとも……ああ、いえ、処女宮様を批判したいわけではありません」

 それは聞かなかったことにする。

 だが、本当になんなのだろうか? 何のために、言っては悪いがあんな戦場では役にたたない人間をここにつれてきたのか。

 アキラがのたのたと走っていくのを私たちがゆっくり追いかけていけば、休んでいたり、治療を受けていた兵士もなんだなんだとどやどややってくる。

 その中には、一階層で素材回収をしていた宝瓶宮様の部隊もあった。

「ねぇ? どうしたの? ユーリ」

 ふと聞き覚えのある言葉に振り返れば、なぜか申し訳なさそうな顔をしたキリルが兵たちの中から私に呼びかけてくる。

 兵たちと仲良くなったのか、兵たちはキリルを私の隣に押し出し、キリルは戸惑いながらも小走りで私についてくる。

「キリル」

「うん」

 ぎゅっと手の平を握られた。

「来ちゃった」

 そうか、とだけ私は言った。

 どうしてか、心に平静が戻ってくる。

 私はなんとはなしに、がんばろうという気分になるのだった。



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