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創世のアルケミスト~前世の記憶を持つ私は崩壊した日本で成り上がる~  作者: 止流うず
二章・後『七歳から始める大規模プロジェクト責任者』
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062 東京都地下下水ダンジョン その6


「なんでもお申し付けください!!」

 筋肉質なおじさんが私に低姿勢で話しかけてくるのは普通に緊張する。

「えー、あー、そうですね。とりあえず、ここでは静かに行動してください」

 天井を指差して「上に人がいると気づかれてしまうので」と付け加える。

 は、と声を抑えた兵たちは私に向かって敬礼のようなものをしてくる。たぶん神国独自の敬礼方法なんだろうな。

(しかし、礼儀正しい……)

 さすが獅子宮(レオ)様の部下といったところか、巨蟹宮(キャンサー)様の使徒様よりよっぽど礼節を弁えているように見えた。

(それとも巨蟹宮様が最後に言った、私の言葉が巨蟹宮様の言葉を同じ、という言葉が効いているのだろうか……?)

 静かになった兵たちを私は数えてみる。一人、二人、三人……六人。六名の兵士が私が使える人間というわけか。

(多いようで少ないな……まぁこれ以上来られても拠点に入り切らなかっただろうが)

 部屋は拡張したがそれでも狭い。

 土の地面。各所に取りつけられた電灯。人間が多く、閉所恐怖症の人間ならば発狂しかねない場所だ。

「それで、ユーリ様、我々は何をすれば?」

 ユーリ様? 子供に敬称を使うのか。さすがに、とも思ったがこれで私の指示通りに動いてくれるなら好都合か。

 だが兵……兵か。そうか、私は彼らの名前すら知らないのか。

「そうですね。まずは皆さん、それぞれ自己紹介をお願いします」

 はい、と頷いた兵たちは(ちなみに彼らは鉄の鎧の上から神国兵共通のフード付きローブを羽織っている)えっちらおっちらと狭い通路を行き来すると整列して一人ずつ自己紹介をしてくれる。

「鍛冶師のカガチと申します。今回の生産スキル部隊のリーダーをやらせていただきます」

「縫製のホセです。ローブの生産は任せてください」

「薬毒師のイド・ポイズンマン。毒物なら私にどうぞ」

「要塞建築家のベトンです。拠点の整備はお任せを」

「機械技師のメカチャ……スキルを使う仕事はないと思うけど命令があったので来ました。雑用係として使ってください」

「料理長のクッカーです。倉庫のものは自由に使っても大丈夫ですか?」

 見事にスキルがバラバラ、というか。縫製のホセさん以外は全員職業スキル、SR以上のレアスキルだと思われた。

(結構、期待されてるな……)

 適切なスキルを持った人間を獅子宮様は連れてきたのだ。そしてそれを私に任せた。


 ――気を引き締めていこう。


 獅子宮様はきっと無能を許さない。失望されないように気をつけなくては。

「錬金術のユーリです。枢機卿猊下に命じられて貴方たちに指導をします。よろしくお願いします」

 私が頭を下げれば、一斉に敬礼を返される。上下関係を叩き込まれている。体育会系のノリだ。怖い。

「ええと……皆さんには……」

 期待、というより値踏みされている視線、のような気がする。

 敬意を払われているが、無能だと断じられればすぐに見切りを付けられてしまうだろう。

(さて、じゃあ何をしようか)

 私を含めて生産職が七人もいれば大抵のことはできる。

 が、まずはアレ(・・)か。

「では皆さん、まずは床に座ってください」

 私は錬金術を励起状態にして、彼らの背後に回る。

 素材も有限だからな。スキルエネルギーの使い方を覚えてもらおう。


                ◇◆◇◆◇


 スキルエネルギーを理解させたあとは貯め込んでいる素材を使って生産スキルを一度使わせた。

 そして改めて全員の前に立った私は、彼ら一人一人に指示を出していく。

「まず拠点の拡張と防音加工を行います。要塞建築家のベトンさんはこの地下拠点を広げてください」

 この拠点の地図を羊皮紙に書いて、拡張すべき空間を書き足したものをベトンさんに手渡す。

「了解、ユーリさんに教授頂いた新しい私のスキルを見てやってくだせぇ!!」

 ベトンさんは兵隊らしい筋肉質な身体をのしのしと動かし、壁に手を当て『掘削』のスキルを使っていく。

 ボコボコと土の壁に穴が次々と空いていく。

 私がやっている錬金の還元と似た感じだが、建築家の『掘削』は、掘ったときに土の中からランダムで鉱石や宝石素材を掘り当てられるらしい。

 そして掘り出された土は次々と圧縮された土の塊になって部屋の隅に積み重ねられていく。これもまたあとで使うらしい。

 錬金以外のスキル詳細を私はそこまで知らないから正直ここから指導できることなど一つもない。

 が、作戦の全体像を知っているのは私と巨蟹宮様だけなので偉そうに腕を組みつつ、皆に指示を出していく。

「鍛冶師のカガチさんはベトンさんが使う分の鉄骨を生産してください。鉄が足りなかったら下の鉄橋を削って使ってください」

 作成したダンジョンの地図を見せ、場所を考えて削るように指示をしておく。スライムも護衛につける。

 了解、と頷いたカガチさんは倉庫を確認したあとに、出口からダンジョンに降りていく。

「縫製のホセさんはワニの革を使って、ベトンさんが使う革素材に加工してください。地面に敷いたり、壁に貼り付けると少しですが吸音効果になるらしいので」

 防音加工をどうすればいいのか相談すればアビリティでそういうものも作れるとベトンさんは教えてくれた。

 要塞建築家はそういったアビリティを覚えられるらしい。錬金術はなんでもできる万能ゆえに、そういった特化製作はなんらかの工夫をしないと行うことができない。

 そういった意味では普通に羨ましいと思えるスキルだ。

(やっぱりRスキルよりSRの方が性能が高いんだよな……)

 前世の下駄がある状態で出世しておかないと同年代の子供たちが大人になったときにあっという間に追い抜かれそうで怖い。

 ホセさんが倉庫に向かうのに合わせて、私は残った三人に向き合う。

「料理長のクッカーさんは枢機卿猊下たちの分を含めた皆さんの食事を用意をしつつ、保存食を生産してください」

 了解、と倉庫に向かうクッカーさん。ぶっちゃけこの人に関してはマジで他に指示することがない。料理アイテムは回復薬代わりにも使えるのでいなくてはならない人材だが、素材がないと料理人に関しては何もできないからだ。

(いっそのこと料理系の技術ツリーを進めるか?)

 インターフェースがないから詳しいことはわからないが、それでもある程度は覚えている。

(うん。調理系の技術ツリー、処女宮(ヴァルゴ)様の使徒をやっていたときに見たがそこまで複雑なものはなかったしな)

 オーブンや包丁なんかの素材を変えて生産するだけでもツリー技術は進んだはずだ。

(ただ、料理系ツリーに関しては牧畜系ツリーの進捗に合わせて進めた方がいいんだよな。あれは)

 高レベルの動物系の肉素材や野菜素材を安定して供給できる環境を整えなければ、料理の安定供給はできない。

 料理は剣や盾のように長く使えるものではなく、一度食べればなくなるからだ。

 だから一年に一回手に入るかどうかの肉系素材などのレシピのために技術を進めるよりも、他の技術ツリーの技術開発をした方がよく、そういう意味で料理系ツリーは神国ではあまり進んでいない。

(まぁ、白羊宮(アリエス)様の協力が必要だからいいか)

 この拠点に永住するわけでもないのだ。欲張っても仕方ない。

 私はさて、と残りの二人を見る。薬毒師のイド・ポイズンマンさんと機械技師のメカチャさん。

 兵隊らしく筋肉質な身体の二人は私をじっと見てくる。何を命じられるか不安に思っているのか、期待と不安に満ちた目だ。

「イドさんとメカチャさんは浄水設備を作成してください」

「浄水、設備ですか?」

 不思議そうに私に聞いてくるメカチャさんに私ははい、と頷いた。

「わざわざ水をここまで運んでくるのは大変ですから、地下の汚染水を引き込んで飲めるようにする設備を作ってください」

「は、はい……わか、りました……えぇ……浄水? えぇぇ……」

 ちなみに、浄水施設に関するレシピを私は知らない。メカチャさんもイドさんも同様だろう。


 ――これから見つけてもらうのだ。


 ぶつぶつと呟くメカチャさんの肩をイドさんが叩いて「とにかくやってみよう」と励ましている。

 かつて上司に無茶振りさせられた私を思い出して微笑ましくなってくる。

 できなくても仕方ない。パワハラだけはしないように気をつけよう。


 ――もっともそのまま飲める水までは期待していない。


 錬金スキルなりなんなりで『水』に変換できるまで汚染を取り除いた水さえできればいい。

 そこまで汚染が消えた水ならば薬毒師のイドさんでもいくつかのレシピを経由して『水』を作れるはずだからだ。

(何にせよ、水は必須だ)

 いつまでもポーションを水代わりに飲むわけにもいかない。これからはポーションを貯蓄して戦いに回さなければならない。

(最悪、天井に向かって掘り進み、牢に繋がっている水道管を利用するしかないが……)

 だが二階層の攻略にあたってここを攻略拠点にするならそれは悪手だ。

 これからここを利用する兵は増えていくだろう。

 数十人の兵が学舎の水を使えばさすがに私が牢の地下で何かをしているのが双児宮(ジェミニ)様にバレる。

 双児宮様と争うのはこれが終わってからだ。

「私も作業をしないとな……」

 アビリティによる生産物の性能上昇を考えれば錬金術スキル持ちの私が兵たちの作業に割り込むのは許されない。

 とはいえ、隷属の巻物作りやスライムのレベリングなど、私しかできないことは山のようにあるのだった。



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[一言] ノベルアップが先行してると書いてあっても2、3話だろう と思ってたら150話もあってびっくり。 行ってきます!
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