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054 七歳 その19


 今日も今日とて自由時間を使って私は地下で作業をしている。

「このぐらいか」

 隷属化したスライムを観察しながら私は手元の羊皮紙に目を落とした。

 進化の種類はわからなかった。結局、強酸スライムと汚染スライムしか作れていない。

 スライムの数も五十匹にまで増やしたが、変化はなかった。

「たぶん環境依存なのかもしれないな……」

 もう少し増やそうと思えば増やせたが、スライムの数はここまでにしていた。

 もちろん隷属化はできる。だが、私一人で管理できる最大数がこんなもの、というのが五十で止めた理由だった。

 ダンジョンを這い回らせても、第一階層だけだと餌が足りなくなるしな。

 ただやはり雑用を任せられる人材が欲しかった。

「もう少し錬金術用の設備があれば、ホムンクルスが作れるらしいんだがな……」

 錬金術師や錬金術のスキル持ちは『ホムンクルス作成』というアビリティを取得できるらしい。

 らしい(・・・)、だ。聞いた話だからな。


 ――人工生命体(ホムンクルス)


 『使い魔』とは別の存在。使い捨てるには向いていないが、錬金術の補助をしてくれるそこそこ賢い生物らしい。

 これは錬金術スキルでも結構高度なアビリティのうえ、神国では奥義や秘術に相当している。

 宝瓶宮様の本には書いていないが、宝瓶宮(アクエリウス)様が私を釣り上げるためのSNSでの会話で出てきたものだった。

 作成難易度が高いが、作成者の影響を多く受けることで様々な補助的な作業を行えるようになる、とのこと。

 ただ難点は、作成にはきちんとした設備と費用と日数がかかるので隷属モンスターほど気軽に作れないのと、素材に性能を依存することだろうか。

「錬金術ももうちょっとちゃんとやれば、性能の高いものが作れるらしいな……」

 ちゃんとやる、というのは作成補助用の設備を使う、ということだ。

 ちょっと複雑なものなら『蒸留器』『撹拌装置』、簡単なものなら『すり鉢』『ドライバー』『錬金用ナイフ』。そういったものだ。

 荷物になるし、成功率の上昇だけならエネルギー操作でなんとかなったから使っていなかったが、深く錬金術を理解するなら器具作りをやってみるべきだろうか?

「まぁ、それが何になるんだって話ではあるが……」

 簡単な作成補助ならこの前拾った『魔法使いの杖』でも可能だ。知能ステータスの補助だけだが、それでも補助には変わりがない。

(私が最優先で知りたいのはそういうことじゃないんだよな……)

 知りたいのはユニットと認識される方法だ。使徒となるための第一条件。

 隷属スライムを限界まで増やしたのも、モンスターである彼らで多少調べられればと思ったからでもある。

「スライムをやめて、ワニでも育てるか? だがワニはなぁ。ここだと圧倒的弱者だから育てるのがな……ううん?」

 ボス部屋で手に入れたワニの卵をスライム部屋のスライムたちに放り投げながら考える。

 定期的に入手できるようになったワニの卵だ。


 ――ボス部屋の巨大ワニは復活していた。


 三日に一匹というペースだろうか。ボス部屋の宝も同じく復活していた。

 巨大なダンジョンだからだろうか、ボス部屋はいくつかほかに見つけたので一日一回はボス部屋で戦闘をできるようになった。

 スライムを増やした。ボスを一日一回倒せるようになった。装備や脱獄用の道具も充実してきた。だが――。

「――停滞している」

 ボスを倒せるとか、錬金術を極めるとか、そういうことがしたいんじゃない。

 鋼鉄棒でスライムたちをぐいぐいと刺激しつつ、私は考える。


 ――横道に(・・・)それている(・・・・・)


 レベルを上げてもスライムを増やしても新しいアイテムを手に入れても目的に近づいている気配が全くなかった。

(インターフェース……あれを調べたい)

 ユニットと認識されるなら、どうしてもインターフェースに近づく必要がある。

 そしてそれを私が望むように操作するならプログラミング技術が必要だろうか?

 ならば、コンピューターを作るべきか。だが技術ツリーによるコンピューター製作はたぶん無理だ。この国のツリーはそこまで進めていない。前提技術を開発できていない。

 土でできた床を指で触りながら私は考える。

 頭上をランタンに入れた『炎』が淡く照らしてくる。

 何かが頭にちらついた。

「インターフェース……?」

 なんだ? インターフェース?

(似たようなものを毎日見ているような気がする)

 なんだったか、と考え、立ち上がる。

 屈伸し、腕を動かし、私に触れてこようとするスライムを鋼鉄棒で叩いて牽制し、痛めつけていないだろうかとHPを確認し、ああ(・・)そうか(・・・)、と思い至る。

「『鑑定ゴーグル』か」

 なるほど、そうか。これか。

 見ることができるということは、これが何らかの干渉を行っているか、物質や生物から放たれている何か(・・)を受け取っていることを示している。

(ただ、これは本当にただ見るだけならゴーグルだからな……)

 構造からどうやって受け取っているかを考えることはできない。というかこれは、どうやって表示してるんだ?

 レンズ部分に謎がある? 素材はなんだった?

(『レアメタル』か? 特別な素材はレアメタルぐらいだぞこれは)

 魔法チップにも入ってたよなレアメタル。還元して手に入れられたのがそれだ。

「え? あれ? レアメタルってなんだ?」

 考えて怖くなってくる。

 レアメタルの定義って確か、埋蔵量がどうとか、産業的にどうとかが基準だったはずだ。

 それがこの崩壊した文明の世界で希少(レア)だのなんだのとおかしくないか?

 価値を定める基準がないなら鉄もレアメタルもただの金属でしかないはずだ。


 名前:鉄

 属性:鉱物 レア度:E

 説明:硬い金属。様々な用途に使われる

 効果:使用することで味方ユニットの硬度を一時的に+10する


 名前:レアメタル

 属性:鉱物 レア度:C

 説明:機械モンスターの体内から産出される希少鉱物

 効果:使用することで味方ユニットの知能を一時的に+30する


「……わからない……」

 機械モンスターから産出? それだけなのか? そもそもこれは、なんだ?

 手のひらに乗る程度の小さな金属片を見ながら私は考える。ニッケルとかゲルマニウムとかそういうのじゃないのかこれ?

 っていうか、この、なんだこれ? 見てると混乱してくる。色合いが常に変化しているのだ。じぃっと見つめていれば、生き物のようにうねうねとしているようにも見えてくる。気持ち悪い。

拡大鏡(ルーペ)とか作るか? たぶんガラスで作れるはずだが」

 顕微鏡はレシピがわからない。いや、仕組みはわかる。光の屈折を利用してなんやかんやして作るんだったはずだ。

「ただ、それだとたぶんわからない気がする」

 勘だが、そういうアプローチではこれの本質を捉えることはできない、と思う。

 きちんとしたアイテム(・・・・)観測(・・)する必要がある。

 私が肉眼ではインターフェースを見られないように、地球にもともとあった法則では捉えられない。そういうものの気がしてならない。

「もちろん、やる必要はあるが……」

 あれこれと否定したが、データは必要だ。ただ作るとなると……。

「ちゃんとした仕組みなんて覚えてないんだよな……自由工作キットみたいなので子供の頃に作ったきりだもんなぁ」

 そもそも文系コースだぞ私。理系みたいなことをさせないでほしい。

 っていうか、もうなんか馬鹿らしくなってくる。

 これの正体を知ってどうする? 知ったところでなんになる? レアメタルがなんなんだよ。

「やるけどさ」

 やるしかないんだけどさ。今のところ、これを調べるしかないわけだし。

 私はため息をつくと、錬金術を励起状態にしてエネルギーを集中させる。


 ――あんまりやりたくないが。


 とりあえず今できる手段で調べて見る。

 前回、魔導素子を調べたときのことを思い出す。

 あれぐらいの深度に潜らないとたぶんレアメタルの深いところまではわからないが。

「……嫌だな。ああ、本当に嫌だな……」

 私は意識を『レアメタル』に集中し――


                ◇◆◇◆◇


 ――手のひらが溶ける感触で目が覚めた。

「ッ――!!」

 目を開けば目の前にスライムがいた。私の指先にふるふると身体を擦りつけてきている。


 ――恐らくは、親愛(・・)の行動。


「甘噛みをするな!!」

 指先を即座にスライムから引き抜いてスライム部屋に常備してある軽傷治癒ポーションを飲み干す。

 指がほとんど溶けかけていた。

「はぁッ、はぁッ、はぁッ」

 心臓がドクドクと鳴っている。

「戻っていなさい」

 鋼鉄棒で私の傍でふるふると身体を揺らしている強酸スライムを位置を低く作ってあるスライム部屋に落とした。

 べちゃんと水っぽい音を立ててスライム部屋に落ちたスライムはそのままスライムたちのところに戻っていく。

「気を失っていたか……」

 一緒にスライムに飲まれていたのか、半ば溶けかけたレアメタルを見下ろす。


 ――調べて、弾かれた(・・・・)


 その衝撃で私は気絶していた。

(調べるのに権限(・・)がいる?)

 そういう拒絶の仕方をされた。

 私は手の中のレアメタルを見下ろす。

 錬金術の励起で私のSPが注がれたのか、不気味な胎動(・・)をしている『レアメタル』。

 たぶんこれは、生きている(・・・・・)

 情報を得られなかったが、この変化で思いついたことがあった。

「……やってみるか……」

 吐き気をこらえて私はアイテムを保存している部屋に向かう。

 やってみたいことがあった。

 おそらく、ここまで弱っている(・・・・・)なら大丈夫だろう。



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