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144 二ヶ国防衛戦 その15


「……そうですか、寄生には成功したものの、レアメタルを複数消費したと」

 戦車の寄生に成功したとの報告は入ったものの、やはりそう上手い話はなかったようだ。

「レアメタルも五個使いました……履帯に、砲塔、機銃に、給弾装置と内部の様々な装置の支配にそれぞれ」

「使ったのはレベル40の『レガシィメタル』ですよね?」

「は、はい。申し訳ありませんユーリ様」

 もともとの戦車のレベルは60ほどだったが、レベル40を複数使うのか。

 私は申し訳無さそうな顔をして私を見てくる『魔物使い』の兵に大丈夫だと言葉を掛ける。

「いえ、なんらかの問題が起きることは予想していましたから」

 隷属させられただけでも御の字だろう。

 亡霊戦車(リビングタンク)は、偵察鼠(ストーカーマウス)やマジックターミナルのような一つの目的で運用されるものとは違うようだった。

 複雑な機構を持つ殺人機械には相応のレアメタルが必要ならしい。

「偵察鼠用にレアメタルはだいぶ多めに持ってきましたが、目標捕獲数をかなり下回りそうですね。そうですね、とりあえずレアメタルは使い切って構いません。神国が知らない殺人機械を一体ずつ、それと亡霊戦車をあるだけのレアメタルを使って確保してください」

 『魔物使い』と『機械技師』の兵たちに指示を出せば彼らは緊張した雰囲気で頷いてくれる。

 そして彼らには円環法が使える兵士たちを三組ほど付けておく。うまく使ってほしいところだ。

「焦らないように、確実に、安全にやってください。この方法は危険と隣合わせということを忘れないように」

 殺人戦車の捕獲に失敗すればこちらが全滅しかねないことを忘れてはならない。


 ――危ない橋を渡っている自覚はある。


 下手をすれば攻撃目標がこちらに向きかねない。連合軍を殲滅するだけなら必要のない行為。

 だが、今回は良い機会だ。

 私の予想では次の大規模襲撃は前回のものより敵の種類が増えているはずだった。

 次の大規模襲撃のときのために、敵のデータをなるべく収集しておきたかった。

「それと捕獲できた戦車には我々のものだとわかるように色を塗っておいてください。そうですね、側面に処女宮(ヴァルゴ)様の顔でも塗っておいてください。わかりやすい」

 ええー、と文句の声があがった。宝瓶宮(アクエリウス)様の兵からだ。

 宝瓶宮様から借りてきた兵の割合は多いので、彼らが不満をあらわせばわかりやすい。

「わかりました。宝瓶宮様の顔でいいですよ」

 こだわりはないので許可を出せば歓声が上がる。わかりやすい方たちだ。

 指示を出し終えたので……――インターフェースを見て、私は殺人機械に君主がいることを確信(・・)した。

引いたな(・・・・)……地下の我々を警戒したか)

 戦車が地下に落とされ(・・・・)、撃破された時点でこの廃ビル地帯が罠だと気づいた殺人機械側が、旧八王子領域から送る殺人機械の増援を止めたのだ。

 もっとも今来てる分はそのまま連合軍の壊滅に使うらしいが。

(そこは心配していなかった。引けるわけがない)

 このまま撤退したらそのまま連合軍の追撃を受け、ただ逃げるよりも損害が大きくなる。

 一度始まった戦争が簡単に止められない理由がそれだ。開戦したならどちらかを屈服させるまで戦争は終わらない。

 そして殺人機械と人間の戦いだから、今回はどちらかが壊滅するまで止まらないだろう。


 ――とはいえ、これで無制限に殺人機械が投入されることを防げた。


 私にとっての最悪は無制限に殺人機械が投入され続けることだ。

 戦争が私のコントロールを離れ、上の廃ビル地帯を完全に占拠されること。

 だがそれは防げた。

 そして、(ないとは思っていたが)幸運にも殺人機械が損害を覚悟してそのまま撤退することも避けられた。

 連合軍には壊滅してもらわなければならない。殺人機械どもにはもう少し頑張ってもらわなければ……。

 帝国軍は実質無力化し、魔法王国軍にも打撃は与えたが、まだまだ彼らは元気だ。

(……しかし、最善には程遠いか……)

 私にとっての最善は、殺人機械側がアホみたいに殺人ドローンや清掃機械などの雑兵を炎魔様にぶつけて、そのまま大きく数を無駄に減らすことだった。

 だがそこまでアホではないようで、亡霊戦車などの炎魔様でも一撃では倒せなさそうな強力な個体が見え隠れするようになっている。

(まぁ、相手に頭があればこんなものだよな)

 弱すぎて連合軍が突破してしまえば意味がないから、これで良いと言えば良いのだが……さて、このあとは、亡霊戦車などの強力な個体の数をこちらで調整してやって、連合軍と殺人機械が双方数を減らしていく形にしていけばいいだろう。

(投入された全ての亡霊戦車を確保できればよかったが……無理か)

 レアメタルの上位種であるレガシィメタルの数が足りないから全てを捕獲することはできない。

 捕まえられなかった分は撃破し、ドロップアイテムの回収に回すか……。

 このあとがどうにかなるかわからない以上、撤退の準備も進めなければならないから、あとで隷属させるために置いておく、ということも難しい。


 ――まだまだ油断はできない。


 ここから大きな動きがあって、我々が何もかも置いて逃げ出さなければならないということも有りえるのだから。

 しかしまだまだ多いな……双方の数が相応に減るまではあまりちょっかいを出さない方がいいか。

 この辺の調整も難しそうだ。

(それと、次はこの手段は使えないということも報告書に書いておかないとな)

 この戦術を誰かが調子に乗って、多用したら困る。

 今回はうまくいったが、連合軍はともかく殺人機械側は次の大規模襲撃で地下対策をとってくるはずだ。

 亡霊戦車の喪失(ロスト)地点から殺人機械側の君主は、地下に我々がいることを理解したはずだ。

 これに関しては対応策として『浮遊』や『飛行』のスキルや『地中探査』などのスキルで防いでくると思われる。

 もしくは地下ダンジョンで見た掘削蚯蚓(トンネルワーム)のような個体を投入してくるか、だ。

(地下での行動がバレたことを、私は損だとは思っていない)

 この対策のために奴らはリソースと時間を使う。

 その間にこちらは何か新しいことを考えればいいのだ。

 今回はこれで十分に成果を出せたのだから、この成果を使って新しいことを考えるのだ。

(立ち止まってはいけない)

 前世で元同僚が隙間産業に目をつけて年商億の会社を経営したことを思い出す。

 同じブラック企業にいながら、金を溜めたら会社を見切ってさっさと退職した彼と、エナドリ飲みながら安月給でこき使われる私のどこが違うのかを考えたこともあった。


 ――それは現状に甘んじていたか否かの違いだ。


 スライムも、地下捕獲も、ただの技術だ。

 こちらがそれを多用すれば相手は必ずそれに対策をしてくる。

 いつか通じなくなるときがくる。そのときに対応できるように多くの手札を持ち、様々なことを学ばなければならない。

 常に新しいことを考え続けろ。今使っている技術など、いずれ時代遅れになる代物。

 この世界が戦乱に突入した以上、最先端(・・・)でいなければ、生き残れないのだ。

(でなければ、次は我々が何もわからず殺される(・・・・)番だ……)

 特に、魔法王国の炎魔様。

 彼女を首都アマチカに近づけさせてはならない。


 ――地図の上では、炎魔様の必殺技によって、大量の殺人機械が蒸発するところだった。


 あれを都市に向かって放たれれば、国民全てが殺されるだろう。


                ◇◆◇◆◇


「帝国軍長槍部隊に砲弾がぶちこまれました! 防陣の一部が瓦解しかけています!!」

「使徒フラメア! 三百率いて援護!!」

「はい炎魔様! そこの! ついてきて!!」

 兵が駆けていくのを横目にしながら、エチゼン魔法王国の十二魔元帥たる炎魔は、頬を流れる汗を拭った。

 魔法の威力増幅器たる専用魔杖『プロメテウス』を強く握り、体内のSPを、装備とスキルによる自動発動(パッシブ)効果で回復させながら火炎魔法を敵に向かって放ち続ける。


 ――敵の勢いが止まらない。


 頑丈奴隷部隊はすでに半数が死傷し、背後の帝国軍は柱たる十二龍師を失い、ほとんど機能を停止している。

 機能を停止……そう、数は残っているし、強いことは強いが、中心たる柱が欠けているために打撃力を失っている。

 もう彼らができることはなにもない。せいぜいが炎魔たちが正面突破するだけの時間稼ぎしか期待できない。

(こんなにもッ! 魔法を放つことが辛いなんてッ!!)

 炎魔はSP(ちから)を込めて魔法を放つ。杖の先から巨大な炎の塊が射出され、遠目に見える敵陣に着弾する。

 SSR『獄炎魔導士』のパッシブアビリディ『自動誘導』『範囲増大』『燃焼付与』によって殺人機械たちに炎が燃え広がっていく。

 今の一撃で五十体は倒しているし、今までの討伐数を数えれば軽くその百倍は倒しているが、だが、だが……。

 前衛の隙を縫って、狙撃された銃弾(スナイプショット)が飛んでくる。パッシブの『魔力装甲(エーテルアーマー)』が攻撃を弾くが、大きくSPが目減りした感触がある。

 そのSPも時間で回復するが、これが続けば炎魔の膨大なSPでさえも削られかねないし、何より――悲鳴が響く。

「何人死んだ!!」

「三名! 脳天を撃たれました! 即死です! 狙撃されています!!」

「場所特定、早く! 範囲魔法を叩き込む!!」


 ――そろそろ、耐えられなくなってきていた。


 報告が来る。狙撃手がいるだろう場所に炎魔は範囲魔法を放つ。だがやったという感触はない。無数の殺人機械を焼いたが、それだけだ。

 もうダメか、と息を吐く。

「……必殺技(メテオストライク)を使うわ……」

 出し惜しみする場合ではなかった。

 敵が減ったときに敵軍に穴を開けて、そこを突破するために温存していたが、今は敵陣に穴を開け、再編成を――くそッ、と炎魔は毒づいた。魔法を放つ速度が遅くなっていた。疲れている(・・・・・)

「人魔に伝令! 私が必殺技を叩き込んだら、すぐに防陣を組むように……」

「それでは突破が……!」

「突破なんかできる状態じゃないってわかってんでしょ!! まず休息を取れるように陣を作って!! その辺のビルで防衛ができるように、生産スキル持ちを連れてって、拠点にできるように工作をッ! さっさとしろ!!」

 怒鳴りつければ慌てて走り出す兵たち。

 まず安全なビルを探せるかわからないが、籠城するしかなかった。

 炎魔は自分の腕を見る、腕から焦げ付いたように煙が上がっていた。


 ――魔力で神経が焼けていた(・・・・・)


 大規模襲撃のときは休息をしながら撃っていたから、自分の限界がわからなかった。

 魔法を使いすぎている。腕が魔力でひりついている。

 このまま使いすぎれば、神経が魔力で焼ききれる。

 そのときは本国で静養しなければ治らないだろう。もちろんここでそんな暇はないが……。

 SPがあっても魔法を使えなくなるのはまずい。

 自分でこうなのだ。周囲の兵にも同じ症状の者はいるだろう。

 数時間、いや、数十分でいい、休めれば……と空を見て、雨が降ってくることに気づく。

「……運が、悪いね……」

 いや、この火照った頭にこの冷たさはちょうどいいと思いながら、とにかく必殺技をと、炎魔は隕石魔法を殺人機械たちに叩き込んだ。


 ――巨大な衝撃が地面を揺らし、炎魔は今日七回目のレベルアップを果たした。


 大規模襲撃のあとは、年に一回レベルアップすればよかったのに、ここに来ての大幅レベルアップである。

 そして、炎魔は呆然と敵陣を見た。

 炎魔が必殺技によって空けた空間に人魔の頑丈奴隷部隊がなだれ込んでいくのが見えたからだ。

 伝令が、この隙を使って、耐えるための陣形を組むと伝えたはずだ。

「勘弁してよ……」

 せめて戻って防陣を組んでくれ、と願いながら、炎魔は炎のように熱い息を吐いた。

 そしてそんな彼女の背後では、帝国軍の精鋭山岳歩兵部隊が亡霊戦車の登場によって壊滅の憂き目にあっていた。


 ――殺人機械投入数推定三万五千体。(うち二万体が連合軍によって破壊済み。援軍停止)

 ――七龍帝国・エチゼン魔法王国連合軍三万。(うち二万名が死亡。負傷多数。炎魔個人の殺人機械敵討伐数(キルスコア)は一万体)



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私のついったーです。
― 新着の感想 ―
[気になる点] 隷属した殺人機械のレベルは下がったりするのでしょうか?
[一言] 千葉にこだわらず、空白地を占拠すればいいのに、と思っていた時代が私にもありました。 空白地=モンスター側の君主が勝利した地域っぽいので、逆にヤバいって可能性が高いのですね。
[一言] どうやら、宝瓶宮様は部下から大いに慕われているようだ。 それも組織や上司に対する忠誠心というよりむしろ、サークルの姫とか、地下アイドルなどに対する男たちの熱狂に近いものを感じる。 外部の人…
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