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106 転生者会議 その9


 獣人を懐かせるのに必要なのは食料だ。

 ただしその場合、質の低い食料ではなく、質の高い食料が必要になる。


 ――つまり高レアリティの食料アイテムだ。


 自国で食料を生産すればいい各国がわざわざ神国から食料を輸入するのはそういう理由がある。

 何しろ人間が食べられる量は有限だ。

 貴重な忠誠値上げのタイミングで下手なものを食べさせると他で補わなければならない。

 それは損なのでとにかくいいものを食べさせておこうと考えるわけだ。

(他国は軍事などに注力してたみたいだからな……)

 他に何もできないからと食料に関するテーブルに資源を集中していた神国が異常なわけだ。

 ただし良いものを食べさせるのは反乱されると困る人員にだけだ。

 だから神国も質の良い食べ物は輸出用や幹部用で、国内の一般国民にはそこまで待遇を良くしていない。

(まぁそれでも他国よりは良いみたいだが……)

 おかげで(・・・・)諜報が楽に進められている。

 今月からようやく始められた諜報で入ってくるニャンタジーランド内の情勢はガタガタだった。

 我々が何もしなくてもあと一年以内に自壊しそうなぐらいに追い込まれている。

 ただしどうにも反クロ様派の勢いが強すぎるのでおそらく、王国の工作が入っているのだろうが。

(ただ、うちとしてはそれはまずい)

 神門幕府がどうやっているかはわからないが、攻めるにも守るにも将の数は重要だ。

 うちでは十二天座がいるが、二ヶ国を支配するならニャンタジーランドの十二剣獣はぜひとも確保したい。

 幹部が少ないとそれだけでやらなければならない仕事は多くなる。

 もう少し余裕があると思って悠長に懐柔策をしていたが、もう少しこちらも外交に力を入れる必要があるのだろうか?

「それで、ユーリくんはどうやったの? なんかニャンタジーランドの人たちと仲良くなってたけど」

 SNSで待機している十二天座の方々に今回は特に収穫なしだと報告した私は、寝ようとしている処女宮(ヴァルゴ)様に向かって懐から肉の塊を出してみせた。

羊の実(バロメッツ)のハムです。白羊宮(アリエス)様に用意して貰った輸出用の最高級品ですが」

「うわ、えー。すごいじゃん。それ、私がお願いしても売ってくれない奴だよ? ね、ねぇ、一口食べていい?」

「もう寝る時間ですよ。それに、ああ、やっぱり」

 ボロボロと机に置いたハムが崩れていく。あちら(・・・)で食べさせたからだ。アイテムが持つ概念(・・)がチャット空間で消費(・・)されたから、こちらで本体が世界に溶けていっている。


 ――あの場所は一体なんなんだ?


「あ、全部あげちゃったんだ……高いのに」

「悪い取引ではなかったですよ。彼らが扱いやすくなったので」

 隷属スライムの交配レポートを白羊宮様と共有したことで、『羊の実』の品種改良も進むようになった。

 牧畜の技術ツリーも進めているから羊の実の生産量も増えている。

 近畿連合との貿易が進めば他の品種も入ってくるかもしれないからそれで味を高めることができるかもしれないし、この方面に関しては心配はいらない。

 そういう意味で彼らを懐柔するのに最高級品を放出したことは損ではなかった。情報も仕入れることができたしな。

 一応、とってきた情報の確認(・・)はするが。

「それで会合の数、減ったんですか?」

「え? 何?」

情報共有(・・・・)とかの会合ですよ。技術交換とかの会合です」

 ニャンタジーランドも何もしていなかったわけではない。会合で神国と仲を深めつつ、護衛の者たちで技術交換の会合などを探した時期もあった。

 だが転生者会議がギスギスしていくにつれ、そういった会合は消えていったらしい、と聞いた。

「ああ、うん。なんかなくなったみたい。でも、そこまで役に立ったかっていうと微妙だよ?」

 処女宮様の情報選択に関しては期待していないからその発言に私は冷たい目を向けるだけにしておく。

「そんな目で見ないでよ。ええと、ほんと、無駄っていうか。よくわかんなかったし」

「はいはい。じゃあ私、さっきの全体会議の情報まとめちゃうんで。一旦失礼させていただきますね」

「えー。一緒に寝ようよー!!」

「終わったら伺います」

 ぺこりと頭を下げて私は処女宮様の寝室を出る。

 そのまま外に出て、待っていた護衛の人たちと一緒に巨蟹宮(キャンサー)様と磨羯宮(カプリコーン)様が待つ中央庁舎に向かっていく。



「やっぱ来ないじゃん……うそつき」


                ◇◆◇◆◇


「白羊宮様もいらっしゃったんですか」

「いたらまずかったかな?」

「いえ、そんなことは全然」

 もこもことした毛皮で作られた枢機卿服を来た、十五、六歳ぐらいの少女が白羊宮様だ。

 そばかすが微かに浮いていて幼く見えるところもあるが、処女宮様よりは精神が成熟している方だ。

「白羊宮様、前に紹介した油はどうでしたか?」

「あ、う、うん。ありがとう。ちょっと楽になった」

 牧畜と農業に勤しむ白羊宮の手は日々の作業で荒れていた。

 そんな彼女に私がプレゼントしたのはスライムからとれた粘液と各種ハーブを使って錬金した手荒れに効く油だ。

 作業によってはそういったものの臭いを動物が嫌がるとも聞いたので、その辺りはきちんと実験して調べてから贈っていた。

「本当に助かって、あの、その、また送ってくれると助かります」

「はい。なくなる時期に送りますね」

 ごほん、という咳払いの声に私はこの小さな部屋に集まっているメンツを見る。

 呼んでいないメンツがいるな。


 ――双魚宮(ピスケス)様、天秤宮(リブラ)様、金牛宮(タウロス)様だ。


 さて、秘密会合のはずのこの会議になぜ白羊宮様も含めて四人の部外者がいるのか。

 磨羯宮様を見れば首を横に振られる。では巨蟹宮様か、とそちらを見ればまた首を横に振られた。

(なんとなく予想はつくが……)

 私は床を軽く足で叩く。この建物にエネルギーを流したのだ。

 『地質学』には範囲も精度も負けるが何も錬金(・・・・)しない(・・・)ことで周囲の素材の精査を行うのである。

 見様見真似スキルなのと、精査の際に、集中状態(トランス)に入る必要があるので無防備になって脳にも負担が入るが、そういうことも『錬金術』はできる。

 そして私は天井を見た。

天蠍宮(スコルピオ)様、ですか」

 わざわざ通路を作ったのか、天井を見て指摘すれば慌てたような気配がする。

 場に集った人々の微かな驚きは気にしない。

「皆様……場所、変えますか?」

 わざわざ少人数の会合のために小さな部屋をとったのに、こうして人が集まったならもう少し大きな部屋が必要だろう。

 頷いた方々に向けて私は「使えそうな部屋を調べてきます」と頭を下げるのだった。


                ◇◆◇◆◇


「結局会議じゃないか」

 呆れた表情の宝瓶宮(アクエリウス)様が会議場に入室してくる。その背後には筋肉質な彼女の使徒が二人、ついてきていた。

 もはや隠し立てする必要もないし、全員集めるならそれぞれの使徒もいた方がいいだろうと私は十二天座の皆様方に頭を下げて使徒の方も呼んで貰うことにした。

 こういった会議に処女宮様の使徒の私がいて、他の使徒様がいなければ嫉妬や反感を覚えられる。

 ただ、他国の動向を全員が把握しておくのは良い事かといえばそんなことはないと言い切れるが(誰もが効率的に考えられるわけではない)、適正というのは私にもわからない。

 とにかく母数を増やして国外のことに目を向けられる人材を増やせる機会があるなら、あった方がいいだろう。

 正直、私一人で頭を捻っていても足りない(・・・・)のだ。多くの人々の意見は必要だった。

「意外じゃったな……」

「何がでしょうか?」

 天秤宮様、老人の姿をした枢機卿猊下は隣に立っている私を椅子の上から見下ろしながらそんな事を言う。

「処女宮の使徒ユーリよ。お主は処女宮を傀儡にして、この国を操りたかったのではないのか?」

「いえ、そんなことは全く。正直なところ手も頭も足りませんので、こういった場が開けるのは嬉しく思っています」

 本音だ。私はこんな国全く欲しくない。

 私やキリルの生存がかかっていなかったらもっと自由に好き勝手生きていただろう。

「真実を言っておるな」

 『天秤宮』の権能には嘘を看破するものがある。それで私の本音を見たのだろう。

(くだらないことをする……)

 天下だの国家だのの巨大なものを動かす感覚には確かに快楽が伴うだろう。

 だが私にとっては苦痛の方が大きかった。

 この神国が日本を統一できる国で、その先にあらゆるものを好きにできる権力があるならそういうこともあるだろうが、実際は死にかけの国に鞭をうって、なんとか延命に奔走しているに過ぎないからだ。

 私は、ぞろぞろと入ってくる十二天座たちを見ながら内心のみでため息をつく。

(十二剣獣を手に入れたとして、そういった人材は来るのだろうか?)

 来てほしい。切実に。

 もっと人がいないと、私の脳が過労死する。



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