笑わず姫と魔法使いの真名
静まり返った家の中。暖炉の前に、スピーゲルとアルトゥールはテーブルを挟んで向かい合う。
パチパチと、暖炉の火が爆ぜる。
空気が時に鋼より重くなることを、生まれて初めてスピーゲルは知った。
チラリと、横目で辺りを見回す。
(ベーゼンは?)
姿が見えないところを見ると、箒の姿に戻って何処かの物置に姿をかくしているのだろう。都合が悪い時や、気に食わない来客、または警戒している際に、ベーゼンはよくそうするのだ。
つまり、ベーゼンの助けは期待できない。
そもそもアルトゥールをいたく気に入っているベーゼンが、この状況でスピーゲルを援護してくれるとは思えないが。
「……お」
沈黙に耐えられなくなり、スピーゲルは立ち上がる。
「お茶でも、い、淹れましょうか」
「いりませんわ」
「は、はい」
ピシャリと言われ、スピーゲルはまた急いで椅子に畏まった。
「……」
「……」
おそるおそる盗み見ると、アルトゥールはテーブルの一点を見つめていた。
それが泣くのを我慢しているように見え、スピーゲルの胸は罪悪感に軋む。
「あ、あの……」
スピーゲルは頭を下げた。
「す、すみませんでし……」
「何を謝っていますの?」
スピーゲルの謝罪を、アルトゥールは無表情で遮った。
「わたくしの記憶を消そうとしていたこと?それともわたくしの前から姿をけそうとしていたこと?とりあえず謝っておこうという安易な謝罪なら結構ですわ。いりませんわ」
「……」
スピーゲルはもはや黙するより他ない。
深く長く、アルトゥールが息を吐く。
「つまり、スピーゲルはわたくしのことが好きなんですわよね?」
「……っ」
当の本人に心の内を指摘され、スピーゲルは狼狽えて奥歯を噛み締めた。
「そうなんですわよね?」
再度確認され、何か言わねばと焦るも口の中が乾いて容易に発声できない。
「……は……は、い……」
必死の思いで唇から押し出したのは、虫の音より小さな掠れ声だった。
アルトゥールが、また深く嘆息する。
それにすら怯えて、スピーゲルは肩を揺らした。
「好きなのに、傍にいられないとか記憶を消すとか……意味がわかりませんわ。スピーゲルはわたくしよりずっと頭がいいのだと思っていたけれど、一周回って馬鹿なんですの?」
投槍なアルトゥールの言い方に、スピーゲルはテーブルに置いた手を握り締めた。
「あ、あなたは……わかってないんだ」
スピーゲルだって、出来るものならアルトゥールの傍にいたい。したくてアルトゥールの記憶を消そうとしているわけではない。
アルトゥールを想うその気持ちのままに行動できたら、どんなにか心が楽になるだろう。
(けれど……っ)
駄目なのだ。
魔族と呼ばれるスピーゲルと一緒にいて、アルトゥールがどんな苦しみを味わうか。
それを考えると、体がすくむ。
気持ちが、一歩引いてしまう。
「僕の傍に……いるということがどういうことか。あ、あなたはわかってないから……だから」
「スピーゲルはいつもそうですわ」
アルトゥールは立ち上がると、テーブルの向こうからスピーゲルを見下ろした。
アルトゥールは静かな表情だったが、その目を見れば、押さえきれない怒りが彼女の身のうちに渦巻いていることは明らかだった。
「勝手に『分かってもらえるはずない』と諦めて、線を引いて、その内側にわたくしをいれてくれない」
同じようなことを、以前にも言われた気がする。 聖騎士団に追われて、運河に落ちた時だ。
『スピーゲルは結局端から全部諦めて、理解して貰う努力を怠ってるだけですわ!』
あの時も、彼女は怒っていた。ーーーー今ほどではないけれど。
「どうせ、わたくしは賢くもないし、教養もありませんわ。魔法も剣も使えないし、権力も持ってない!あなたに守られるだけで何も……っ何も出来ない!」
蒼い目が溶けるように潤み、金剛石のような透明な雫が白い頬を雨のように流れ落ちる。
「だからって!だからって馬鹿にしないで欲しいですわ!分かるはずないからと決めつけないで欲しいですわ!」
「ば、馬鹿になんてしてません!僕はただ……」
スピーゲルは立ち上がった。
勢いで椅子が傾ぎ、床の上に音をたてて転がる。
「僕はあなたに幸せになって欲しくて……っ!」
自由に行きたい場所に行って、食べたいものを食べて、顔を隠すことも名前を偽ることも息を潜めることもなく、太陽の下で誰かと声をあげて笑い合うーーそれがどんなに幸せなことであるのか分からないほどに、幸せでいて欲しい。
でも、スピーゲルが隣にいたら、それは出来なくなってしまう。
「勝手にわたくしの幸せを決めないで!!」
アルトゥールの悲鳴のような訴えに、スピーゲルは瞠目する。
心臓を、矢に貫かれたような衝撃だった。
アルトゥールの顎から滴る涙が、ポタポタとテーブルに水たまりをつくる。
「わたくしの為だなんて言いながら、スピーゲルはわたくしを侮ってるだけなんですわ!」
「それは……っだから、それは違います!」
何をどう反論すべきかーー思考がもつれて舌がろくに動かない。
「アルトゥール、僕は……」
「わたくしは、ただスピーゲルがいてくれればそれでいいのに!!」
アルトゥールはそう叫ぶと、身を翻した。
「アルトゥール!」
制止しようと伸ばしたスピーゲルの手は虚しく空振りし、アルトゥールは階段を駆け上がってしまった。
扉が勢いよく閉まり、また静寂が訪れる。
暖炉にくべてあった薪が、ばきりと音をたてて燃え崩れた。
呆然と、スピーゲルは立ち尽くす。
『わたくしを侮っているだけなんですわ』
耳の奥で、アルトゥールに言われた言葉がこだました。
それは違うーーそう答えはしたが、本当にそうだろうか。 (……そのとおり、なのかもしれない)
アルトゥールの言ったとおり、自分はアルトゥールを侮っていたのかもしれない。
スピーゲルの隣を歩く人生は、アルトゥールにとって楽なものではないだろう。
顔を隠し、人と目があわないように俯いて、正体がバレないかビクビクと怯える日々。
アルトゥールは、いつか耐えきれなくなるにきまっている。そうスピーゲルは心のどこかで決めつけていた。
(僕は……怖かったんだ)
耐えきれなくなったアルトゥールが
ーーーー離れていってしまうことが。
「結局、自分が傷つくことを怖がっていただけか……」
自嘲が、唇から零れる。
手に入れることで、いつか失うのが怖かった。
いつ失うかと日々怯えるよりは、失って絶望に打ちのめされるよりは、いっそ手にしない方がいいと思っていた。
アルトゥールの幸せのためだなんて、聞こえのいい言い訳だ。
スピーゲルは、ただ逃げていただけなのだ。アルトゥールと正面から向き合うことから。
「……卑怯だな。僕は……」
両手で、スピーゲルは顔を覆った。
銀色の髪が、視界の端で流れて揺れる。
ーーーー誰もが、スピーゲルの髪を見て、目を見て、恐れ蔑み逃げていく。
“穢らわしい魔族”“血濡れた一族”
誰も、スピーゲルの言うことになど耳をかさない。頭から信じない。言葉など、何の意味もなさない。
気持ちは、届かないことが当たり前だった。
自分のことを分かってもらいたいと努力するどころか、分かって欲しいと期待することすらしなかった。
誰に、どう思われようとかまわない。傷つこうが、苦しかろうが、仕方がない。飲み込むしかない。
そんなふうに諦めながら、スピーゲルは生きてきた。
今更それを変えるなんて、どうすればいいのか分からない。
(このまま……)
彼女に魔法をかけてしまおう。
そろそろ、名前も魂に定着したはずだ。
予定より少し早いが、元々こんなふうに彼女と暮らすのは雪が降る頃までと考えていたのだ。
雪が降る頃には、例の計画が動き出す。そうしたら、アルトゥールの記憶を魔法で消して、エメリッヒに預けようと。
それでいい。
全部、諦めればいいだけのこと。簡単ではないか。
そうしたら、これまでどおりだ。
アルトゥールがこの家にくる前の生活に戻るだけ。
(でも……)
ゆっくり、顔を覆っていた手を下ろす。
テーブルに、アルトゥールの涙が一滴落ちていた。
『わたくしは、ただスピーゲルがいてくれればそれでいいのに!!』
暖炉の揺れる光に反射するそれを、スピーゲルは見つめた。
「…………僕だって、あなたがいてくれればいい……」
そう、思うなら。彼女がそう思ってくれるなら……。
見下ろした手を、スピーゲルは固く握り締めた。
***
暗い部屋の隅で、アルトゥールは膝を抱えて座り込む。
「う……っふぇ……ぇっ」
嗚咽に、肩が揺れた。
後から後から涙が押し寄せてきて、顔も手も、雨にうたれたようにびっしょりと濡れている。
(ザシャが言ったとおりでしたわ……)
言いたくても、言えない。
それなら一発殴ってでも口を割らせるつもりだったのに、それで解決するのだと思っていたのに、まさかスピーゲルが、アルトゥールの記憶を消そうとしていたなんて。
(悔しい……っ)
スピーゲルは、何も言わない。
全部諦めて、飲み込んでしまう。
アルトゥールのことも、スピーゲルは諦めるつもりなのだ。
諦めてしまえるのだ。
「う……っぅうう……ひっく」
ギィ、と扉が軋む。
闇色の床に、戸口の形の淡い光が差し込んだ。
「き、来ちゃだめですわ!!」
スピーゲルの気配に、アルトゥールは怯えた。
絶え間なく込み上げる嗚咽に、喉が震えてうまく喋れない。
「ま、魔法をかけるのでしょう?わ、わたくしから……記憶を消してしまうのでしょう?」
それだけは嫌だった。
記憶だけは取り上げないで欲しい。
この家でスピーゲルと過ごした日々の思い出は、アルトゥールにとっては宝石にもかえがたい大切なものだ。
「十、数えます」
聞こえてきたスピーゲルの声は、不思議と凪いでいた。
(…………十?)
彼が何を言い始めたのか理解が出来ず、アルトゥールは怯えながらも振り返る。
「ス、スピーゲル?」
スピーゲルは、部屋の入り口に立っていた。
そして暗がりの中、真っすぐアルトゥールを見つめている。
静かで、けれど強い眼差しに、アルトゥールは何も言えなくなる。
眼差しと同じように静かな、けれど強い声で、スピーゲルは話し始めた。
「僕は……こんな髪と目で、そのせいであなたにも本来味あわなくていいつらい思いをさせてしまう。あなたはいつかそれに嫌気がさして、僕から離れて行くにきまってる」
アルトゥールは顔を顰め、首を振った。
「そんなこと……っ!」
何故決めつけるのだ。そう言って怒ろうとしたアルトゥールだったが、スピーゲルの言葉に制される。
「だから、十数えます」
「え?」
十歩。
アルトゥールが蹲る場所から、スピーゲルの立つ場所まで、丁度十歩。
「十数える間に、僕のそういう人生に付き合う覚悟を決めてください。それができないなら、少しでも不安があるのなら、この部屋から走って逃げてください。僕は追いかけない。けれど、十数える間にこの部屋からあなたが出て行かないなら、僕はもう容赦しません」
笑うと、驚くほど優しく溶ける赤い目は、今は怖いほどに真剣だった。
魔族と呼ばれるに相応しい鋭い眼差しに、アルトゥールは貫かれて動けない。
「ーーーー今後、死ぬ以外に僕から逃れるすべはないと、覚悟してください」
ドクドクと、血が全身を回る音がする。
(……何て)
何て卑怯なんだろう。
逃げろと言っておきながら、彼は期待しているのだ。アルトゥールが、留まることを。
「……一」
スピーゲルが、足を踏み出した。
「ニ…………」
数えながら、彼は一歩ずつ、アルトゥールに近づいてくる。
「三…………」
スピーゲルは、試しているのだ。
アルトゥールが逃げないか、それだけの覚悟があるか、試して、確かめてーー。
「四…………」
そうしないと、彼は怖くてアルトゥールに近づく事すら出来ないのだろう。
「五…………」
ゆっくり近づいてくるスピーゲルに、アルトゥールは呼吸を忘れた。
あと、五歩。
「六…………」
スピーゲルの銀の髪が、闇の中で揺れる。
「七………」
あと、三歩。
その僅か三歩が待ちきれない。
アルトゥールはふらりと立ち上がると、自ら手を伸ばし、スピーゲルに抱きついた。
背中にスピーゲルの腕が回り、二人を隔ていた距離が一瞬にして消えてなくなる。
「どうして、逃げないんですか……!」
アルトゥールの髪に顔を埋めて、スピーゲルは呻くように言った。
「僕は……僕は頭がおかしいんです。あなたのことが好きなのに、だから大切にしたいのに……あなたがいつか去っていくことを考えると、あなたを殺してしまいたくなる……っ!」
スピーゲルの腕に、力がこもる。
その強さに、アルトゥールは目眩がして目を閉じた。
(優しい人だと、思ってた)
けれど本当は、スピーゲルはズルい人なのかもしれない。
(ズルくて、臆病な、私の愛しい魔法使いーーーー)
目を開けると、アルトゥールは僅かにスピーゲルの胸を押し返し、すぐそこにある赤い目を見上げた。
「スピーゲル。忘れてしまいましたの?」
何を、と問いたげな表情のスピーゲルに、アルトゥールは微笑んだ。
「わたくし、そもそもあなたに殺される条件で、この家にきましたのよ?」
ーーーー直後に降ってきた深い口づけに、アルトゥールは瞼を閉じることで応えた。
その感覚を痛いと言えばいいのか、それとも熱いと言うべきなのか、アルトゥールには分からなかった。
元より、難しいことを考えるのは苦手なのだ。
ーーーー大丈夫か。苦しくないか。
あまりにもしつこく幾度も尋ねてくるスピーゲルを黙らせるためにアルトゥールは銀の髪を鷲掴みにして、思いっきり引っ張ってやった。
痛い、と彼の頭が落ちてくる。
丁度何かに掴まりたかったアルトゥールは、筋肉質な肩に両腕を絡ませ、それを引き寄せた。
そうすると、耳元に彼の息遣いを感じることができた。
乱れた呼吸に、心臓が痺れる。
アルトゥールは懇願した。もっと強く抱き締めて欲しい、と。
だってそれは、雪のようだから。
触れれば、きっと溶けてなくなってしまうから。
だから、ずっとアルトゥールはそれに触れられなかった。
いつも窓から、誰かにそれが降り注ぐのを羨み眺めているしかなかった。
けれどーーー。
指に、白銀の髪が絡まる。
もっと、降ればいい。
降り積もればいい。
握り締めても、簡単に溶けてしまわないように。
だから……ねえ?
指に力を込めると、彼は眉間に皺を寄せた。
背中に食い込んだ爪が、痛かったのかもしれない。
ーーー知りませんからね。
少し怒っているように見えたが、生え際に降ってきた唇は泣きたいほどに優しかった。
全身にかかっていた温もりの重みが増す。
スピーゲルの背中から流れた髪に覆われ、アルトゥールの視界は白銀に染まった。
ーーーー翌朝。
戸口から庭に出たアルトゥールは、一面の雪景色に感嘆の声をあげた。
「まあ!雪ですわ!」
確かに昨夜は妙に冷えたが、まさか雪が降っているとは思わなかった。
まっさらな新雪に足を踏みいれる。
すると、足跡が忠実についてきた。
「今年は随分早いですね」
スピーゲルが、アルトゥールに続いて家から出てきた。
長い銀髪は結っていない。結紐が昨夜どこかにいってしまって、どうしても見つからないのだ。
「収穫。昨日のうちに終わってよかった」
安堵するスピーゲルの息が白く染まる。
彼は朝日を反射する雪景色を眩しげに眺めると、落ちてくる不揃いの髪をかき上げた。
「アルトゥール」
「何ですの?」
アルトゥールが振り向くと、スピーゲルは雪の中に跪いていた。
「スピーゲル?」
指先で、スピーゲルは雪の中に字を連ねる。
スピーゲルの一族のつかう字だ。
アルトゥールは首を捻った。
「何て書いたんですの?」
「『ルラシィオン』と読みます」
スピーゲルが口にしたのは、聞き慣れない発音だった。
いつも魔法を使うときに唱える呪文とどこか似通っていたので、アルトゥールはそれがスピーゲルの一族の言葉なのだろうと察しをつける。
「どういう意味ですの?」
「切れない関係。絆。転じて『永遠』という意味があります」
「永遠……」
その響きに、アルトゥールは何か特別なものを感じた。
(えい、えん……)
触れられないもの。
目に見えないもの。
だから、手に入れるのはとても難しいもの。
それを何と呼ぶのか、アルトゥールは知らなかった。
けれど、それはもしかしてーーーー。
「『ルラシィオン』ーーーー僕の真名です」
スピーゲルの言葉に、アルトゥールは思考の波から顔を上げた。
「……え?」
スピーゲルの一族にとって、神聖とされる真名を名乗ることは、命を捧げるに等しい行為のはずだ。
けれど、スピーゲルは一切躊躇しなかった。
跪いたままアルトゥールを真っ直ぐに見上げると、スピーゲルは微笑んだ。
「我が名は『ルラシィオン』。アルトゥール。あなたに真名を捧げます」
母親譲りの小さなアルトゥールの手を、スピーゲルの大きくて温かい手が包む。
「僕と生涯を供にしてくれますか?」
「…………っ!!」
想像したことはある。
アヒムに想像しろと促されて、求婚の真似事をする彼に、スピーゲルの姿を重ねた。
その時の想像は、たかが空想の産物だと看過できないほどにアルトゥールの脳みそを蕩かしたが、けれど所詮想像。
現実のもつ破壊力には遠く及ばない。
嬉しい。
嬉しくて、嬉しくてーーーー言葉が出てこない。
口をパクパクさせるアルトゥールに、スピーゲルが笑いながら言った。
「何も言えないなら、頷いてください」
アルトゥールを見上げて、スピーゲルは精悍な顔で微笑む。 「頷いて?アルトゥール」
「…………っ」
ーーーーそんな顔で求婚されて、『否』という罰当たりは何処にもいない。
耳まで真っ赤にさせて、アルトゥールは頷いた。
何度も何度も頷いた。
するとーーーー。
「やったあーーーーぁああ!!」
納屋の影からアヒムやベーゼン、ツヴァイク、ライス、アスト、それにエラやザシャ達と、通常の大きさに戻ったジギスヴァルトまでもが飛び出してきて、アルトゥールとスピーゲルは仰天した。
「ア、アヒム!?エメリッヒの城に帰ったんじゃ!?」
「帰ったと見せかけて崖下の家に泊まったー!マジ埃っぽかったー!雪降るのは予想外!薪残っててよかった!」
「スピーゲル様!姫君様!」
駆け寄ってきたベーゼンが目に涙をためて、スピーゲルとアルトゥールの手をとる。
「ようございました!本当にようございました!アーベル様が生きておられたらどんなにお喜びになるか……!うう……っ」
嗚咽を堪えきれず、ベーゼンは遂に声をあげて泣き始める。
「ベ、ベーゼン!?」
「な、泣かないでですわ!」
慌てるアルトゥールとスピーゲルを、ヨナタンとエルゼが見上げて笑った。
「おめでとー!スピーゲル!」
「おめでとー!お姫様」
そして二人は『せーの』という掛け声と同時に、その両手に掬い持っていた雪を空へと投げ上げた。
キラキラと、雪の粒が朝日に輝く。
それはまるで、新郎新婦の門出を祝う祝福の花弁のようだった。
光の中をジギスヴァルトが飛び回り、エラやザシャが笑う。
おとぎ話のような美しくて完璧な光景に、アルトゥールは呆然とした。
これほどに、この世界は輝いていただろうか。
これほど、この世界は優しかっただろうか。
アルトゥールとスピーゲルは、二人揃って呆然とその光景に見入る。
そして、自然と目を見合わせーーーー同時に微笑んだ。
〈第二部終了〉
この一文を末尾に入れるかどうか真剣に迷いました。↓
「えんだああああああああああ!!」
「ぃあああーーーーあああああ!!」
「おるぅぇえいらああブユウウ!!」
ツヴァイク達が熱唱する謎の歌が、広い空に響き渡った。
第二部終了です。
2週間ほど連載停止いたしますので
ヨロシクおねがいします。
2021.4.13 修正しました。(内容変更ありません。)




