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笑わず姫と盗まれた林檎飴ーザシャ③ー



***



ザシャはその靴を掲げるように持ち上げ、じっと眺めた。

靴の布地には松葉色の糸で草が、薔薇色の糸で花が刺繍されている。

同じような靴が、街の靴屋の店頭に飾られているのをザシャは知っていた。細かく刺繍されている分、一般的な若い娘の履物としてはやや高価な品だということも。

こんな靴、ザシャのようなみすぼらしいみなりの子供が持っているには相応しくない。売ろうにも、それこそ盗品と疑われて自警団に突き出されてしまうにきまっている。

そんな簡単なことに気づかず『落とした』と言い張るあたり、あのやたら綺麗な顔の女は随分と世間知らずらしい。

(変な(ひと)だったな……)

出会ったばかりの、しかも銀髪のザシャ達に同情するなんて。

クスリと、ザシャは小さく小さく笑う。

誰かに心配されるなんて初めてでくすぐったかったが、悪くなかった。

エルゼが横から身を乗り出した。

「きれいな靴だねえ、ザシャ」

幼くともやはり女の子だ。こういう品には興味があるらしい。

ザシャは頷いた。

「うん。そうだな」

「履いてみたら?ザシャ」

「え?」

戸惑うザシャに、靴には興味がなさそうだったヨナタンまでが賛同する。

「履きなよ。きっと似合うよ」

「……似合うわけないじゃん」

ザシャは鼻で笑った。

ボサボサの短い髪に、汚い上衣と擦りきれた外套。丈が短い脚衣は膝の部分に大きな穴があいていた。

誰もザシャを女だとは思わないだろう。――――――こうする以外に、ザシャは自分を守る方法を思いつかなかった。

ザシャを『魔族』と罵り、ことあるごとに殴ってきた孤児院の院長は、痩せた老人だった。

ザシャを奴隷のようにこきつかっていた院長は、けれどザシャが成長し、体が丸みを帯びるにつれて妙にザシャに優しくなった。何故なのか、ザシャに分からなかった。分かったのは、院長がザシャの眠っていた寝台に潜り込んで来た夜だ。

耳元で院長は囁いた。

『お前みたいな髪の娘、まともに嫁にいけはしない』と。『だから』と。

――――――どうして、銀髪だからというだけで、ここまでされなければいけないのか。

どうして殴られ罵られ、その上尊厳さえ奪われなければならないのか。

ザシャは無我夢中で暴れた。

院長に噛みつき、引っ掻き、最後には大事なところを蹴り上げてやった。

こんな孤児院(ところ)にはもういられない。

けれど、同じ銀髪のヨナタンとエルゼのことが気にかかった。ザシャが逃げれば、あの子達が代わりに殴られるかもしれない。特にエルゼは女の子だ。いつかザシャと同じような目にあったら……。

二人を連れて、ザシャは孤児院を逃げ出した。

髪を切り、民家の庭先に干してあった男の服をくすねて着こむ。

女と言うことが、銀髪ということと同じくらいに生きるためには邪魔だった。

けれど、街のごみ箱を漁り店頭から食べ物をくすねる日々をおくる中で、着飾って歩く同じ年頃の娘を見て、羨ましくなかったわけではない。

店に並ぶ美しい髪飾りを、華やかな靴を、欲しいと思わなかったわけではない。

「似合うよー。ザシャ可愛いもん」

「可愛いもん」

ヨナタンとエルゼは、『ねー』と顔を見合わせる。

その様子こそが可愛いらしくて、ザシャは吹き出した。

「……じゃあ、ちょっとだけ……」

足にこびりついた泥を外套の裾で拭う。それから、ザシャは息を殺すようにして、そっと足を靴の中へと滑らせた。

「ザシャ。とっても素敵!」

「うん!似合うよ。ザシャ」

エルゼが飛び上がり、ヨナタンも手を叩く。

けれど、靴は見るからにザシャの足には大きすぎた。これではまともに歩けやしないだろう。

それでも、ザシャは嬉しかった。心が踊った。

いつか、自分もこんな靴が似合う美しい娘になれるだろうか。なりたい、とそんな希望を抱いたのは、生まれて初めてかもしれない。

けれど、そのささやかな希望はすぐに打ち砕かれた。

水車小屋の古い木の扉が、前触れもなく開かれる。

そこにいたのは、数人の大人だった。逆光で顔が見えないが、先頭にいるのは見知らぬ中年の女で、後ろに先程ザシャを追いかけて来た男が見える。

「……ザシャ」

「ザシャア……」

怯えてすがってきたヨナタンとエルゼを背に庇い、ザシャは後ずさった。

「やっぱり!」

女が、顔を忌々しげに歪ませる。

「随分と使ってないはずなのに時々話し声がすると思ったんだよ!よりによって魔族くずれの浮浪児の溜まり場になってたなんて!」

――――――『魔族くずれ』とは、銀髪に対する蔑称だ。

そう呼ばれると、ザシャは身がすくむ。孤児院の院長にもよく『魔族くずれ』と殴られたからだ。

男の一人が、食べ残していたパンを踏み潰す。

「ただでさえ不景気だってのに毎日毎日店の商品くすねやがって……!自警団に突き出してやるから覚悟しろよ!魔族くずれ!!」

痛いほどに睨み付けられ、ザシャは身を縮ませた。

(……これから、どうなるんだろう)

軽犯罪に対する刑罰は、大抵が鞭打ちと決まっている。

広場で背中に鞭打たれる罪人を見たことが何度があるが、どんな屈強な男でも、その痛みに悲鳴をあげていた。

きっと自分もあんなふうに鞭打たれるのだ。

そう思うと恐怖で涙が出そうだったが、ザシャは必死に歯を食い縛った。ヨナタンとエルゼをこれ以上不安にさせたくない。

(この子達は見逃してもらえないかな……)

小さいし、直接盗みを働いたわけではない。お願いすれば、きっとこの男達も……。

けれど、ザシャが思っているより世界は残酷だった。

「――――――いや、待て」

考え込むように腕組みをしていた髭面の男が、仄暗い笑みを口に浮かべた。

「珍しい銀髪だぜ?利用しねえ手はねえ」

他の男達は首を傾げる。

「どういうことだ?」

「少し前から、街に聖騎士団が駐留してるだろ?」

最近、国のいたるところで魔族が目撃されてるらしい。聖騎士団は各所の要請に応じて、討伐を目的に魔族の探索をしているのだ。

この地方でも真偽は不明ながら魔族の目撃談があり、怯えた領主が王城に聖騎士団の派遣を要請したのだという。

その聖騎士団が何故話に出てきたのか。嫌な予感に、ザシャの心臓は鼓動を早めた。

髭面の男が、仲間を見渡す。

「こいつらを聖騎士団に引き渡そう」

「………魔族くずれを?」

仲間達は『何故?』という風に互いの顔を見合わせる。

中年の女だけが、髭面の男の意図するところを理解し、喜色満面に賛成した。

「そいつはいいね!魔族を捕まえれば褒賞金がたんまりもらえるはずだ!」

ザシャは眉をひそめた。

(俺は魔族じゃない……!)

銀髪でも、魔族くずれと呼ばれていても、それだけだ。魔法を使えるわけでも誰かに危害を加えたわけでもない。

男達のなかにも同じように思った者がいたらしく、彼は難色をしめす。

「だが、こいつらは魔族じゃないぞ。目を見ればすぐバレる。それに聖騎士団につかまった魔族は……」

――――――火炙りだ。

ザシャは手の震えを押さえきれなかった。

(まさか……)

生まれてすぐに捨てられ、『魔族くずれ』と罵られて殴られ蹴られてきた。人間扱いなんて、されたことはない。

それでも、褒賞金の為に魔族と偽って聖騎士団に引き渡されるなんて、いくらなんでもそこまでザシャの命が軽んじられて良いはずがない。

すぐに誰かが『やめよう』と言うはずだ。さっさと自警団に突き出して、鞭打ちされればいい、と。

けれど髭面の男は平然と言った。

「魔法で色を変えてるとでも言ったらいいだろう?上手くすりゃ大金が手にはいるんだぜ。それに、こいつらが火炙りにされたところで俺達が損することがあるか?」

――――――仲間達は、迷いながらも頷いた。

「まあ、そうだな」

「よし。決まりだ」

あまりにも簡単に決まった自らの運命に、ザシャは唖然とするしかない。

ザシャが銀髪でさえなければ、聖騎士団に突き出すなんて話にはならなかっただろう。

ザシャが銀髪でさえなければ、きっとザシャに同情して、盗みも見て見ぬふりしてくれたかもしれない。

ザシャが銀髪でさえなければ―――――そもそも、ザシャは親に捨てられることも盗みをはたらく必要もなく、髪を伸ばして三つ編みにして街を堂々と歩いていただろうに。

どうして、銀髪というだけで。

どうして――――。

「ザシャ―――!!」

エルゼの悲鳴に、ザシャは我に返った。

男達が、ザシャ達に手を伸ばしてくる。

「触るな!!」

ザシャは必死に男達の手を振り払うが、相手はザシャより体が大きな上に大人数だ

「大人しくしろ。魔族くずれ」

髭面の男が、ザシャの腕を強く掴んだ。

ヨナタンも、エルゼも、次々と男達の手に絡めとられる。二人の泣き叫ぶ声に、ザシャの焦りと絶望が急速に加速する。

「離せ――――!!」

ザシャは叫んだ。暴れた。

ヨナタンとエルゼだけでも逃がしてやらなければ。

「助けて!誰か……」

誰か、とは誰だ。誰が助けてくれると言うのだ。

誰も助けてはくれない。誰も―――――。

絶望に潤む目が、床に転がる靴をとらえた。

靴をくれた、あの無愛想な女。そして追われるザシャを助けてくれた外套の男。

ザシャ達の銀髪を見ても、蔑まなかった人は初めてだった。

あの二人なら、助けてくれるだろうか。

また、助けてくれるだろうか。

「……っ!」

彼らを呼ぼうと息を吸い込み、けれどザシャは気がづいた。

名前を、彼らに聞いていない。

「ぐずぐずするな!!」

髭面の男の平手が、ザシャの頬を打った。




***




建物のかげから、アルトゥールとスピーゲルはそっと様子を窺った。

小さな靴屋のその隣にはこれまた小さな雑貨屋があり、その店先で銀の甲冑をつけた騎士が店主と談笑している。

輝く甲冑の肩には、獅子を象った王家の紋章が彫られてある。

「……聖騎士」

王城から遠く離れたこんな街にまで、真偽不明の『魔族』の噂に翻弄されて派遣されてくるなんて……。

「ご苦労なことですわね」

国王直属の聖騎士団なんてもてはやされてはいるが、つまりは(てい)のいい『パシり』である。

「……困りましたね……これじゃ靴屋に近づけない」

途方にくれるスピーゲルをアルトゥールは見上げる。ちなみに、『歩かない』と言う約束で、ようやくアルトゥールは自分の足で立つことをスピーゲルに許されていた。

「だから、靴なら買わなくていいですわ」 

実は、この街の靴屋を訪ねるのは二件目だ。一件めの靴屋は大通りにあり、そこにはここよりももっと多人数の聖騎士がうろついていた。

外套をかぶって大人しくしていればスピーゲルの髪の色がバレることはないだろうが、やはり近づかないに越したことはない。

「お腹もすきましたし、今日はもう帰りましょう?」

これ幸いと話を都合よくまとめようとしたアルトゥールに、スピーゲルが眉を寄せて目を細める。

「靴を履かないなら僕の腕からずっとおりられませんが、かまいませんか?」

「……どうしてそうなりますの」

大の大人が横抱きにされる様は、なかなかに目立つ。ここに来るまでにも道行く人にひやかすような目でジロジロと見られ、穴があったら入りたいという心境をアルトゥールは心行くまであじわった。

「当たり前でしょう?怪我でもしたらどうするんですか。あなたは魔法が効かない特異体質で……」

またいつものが始まった。アルトゥールは大きくため息をつき、肩をすくめる。

「それはもう何度も聞き……」

道の向こうから、従騎士らしい少年が血相を変えて走ってきた。その様子に、アルトゥールは言葉を途切れさせる。

従騎士らしい少年は雑貨屋の前にいた聖騎士達に何かしらを伝え、それを聞いた聖騎士達は少年と同じように顔色を変えて走り出した。

「……何かあったみたいですわね」

「……そうですね」

街のそこらじゅうにいた聖騎士達が、街の中心の方へ向かって次々と走っていく。

それを見ていた人々は不安げに、ひそひそと顔を寄せあっていた。なかには騎士達を追いかけていく者もいる。

その不穏な様子に、アルトゥールは眉をひそめた。

「ただごとじゃないですわね……」

「……嫌な予感がする」

まるで一人言のようにスピーゲルが呟く。

「それは……」

どういうことだとスピーゲルに尋ねるより先に、アルトゥールは彼に素早く抱き上げられた。

「スピーゲル!?」

「つかまっていてください」

走り出すスピーゲルの横顔が僅かに強張っている。アルトゥールは何も言わず、彼の首に腕を回した。

靴屋の前を通りすぎ角を曲がる。

街の大通りに出ると、その先に人垣ができているのが見えた。その人垣が更に人を呼び、続々と人々が集まってくる。

「……何かしら」

「……」

スピーゲルは答えず、人の波に乗るようにして道を進む。

街の人々の声が、聞くともなしに聞こえた。

「まさか、本当に?」

「どうせ偽物だろう?」

「水車小屋に隠れていたんですって」

心臓が、ドクリと震えた。

今、水車小屋と言ったか。

「スピーゲル……」

不安を必死に押し殺し、アルトゥールはスピーゲルの横顔を窺う。

「……すいません。通してください」

スピーゲルはアルトゥールには応えずに前にいた二人連れに声をかけ、さらに前へ前へと急ぐ。

「すいません。通ります。すいません」

「……スピーゲル!!あれ!!」

人垣が割れた先に見えた光景に、アルトゥールは声をあげた。

屈強な聖騎士達の足元に、縛り上げられた少年らしき人物が転がっている。

頬や目元は青く腫れ上がり、唇は切れて血を流し、もとの顔がどんなものだったのかすら分からない。

けれど、その髪。

鈍く光る銀髪。

「……ザシャ……っ」

噛み締めるように、スピーゲルが唸った。

ザシャは倒れたままピクリとも動かない。その彼女にすがるように、後ろ手に縛られた子供が二人泣き叫んでいた。―――――ヨナタンとエルゼだ。

「ああ、恐ろしい。この街に魔族がいたなんて……!」

「ちょうど聖騎士団がいてよかった。早いとこ火炙りにしてもらおう」

アルトゥールとスピーゲルの後ろにいた老夫婦が苦々しげに言うのに、その息子らしい若い男が首を傾げる。

「でも、ここから見ると目が赤くないように見える。ただの魔族くずれの子供じゃないのかな?」

「馬鹿だね。魔法で色を変えてるにきまってるだろ。本当に子供がどうかも怪しいもんだ」

「――――『魔族』じゃありませんわ!」

アルトゥールは思わず声をあげた。

「ザシャもヨナタンもエルゼも、銀髪なだけのただの子供ですわ!それなのに……」

どうして『魔族』として聖騎士団に捕まってしまったのだろう。

突然話にはいってきたアルトゥールに、老夫婦は顔を見合わせた。

「……ただの子供?」

「でも、そうなら聖騎士団が捕まえるはずないさ。捕まってるってことは本物の魔族なんだろうよ」

けれど、魔族であるかないかを聖騎士団が見分けられるとはアルトゥールは思えなかった。聖騎士団などと持ち上げられているが、彼らに魔族を見分けるような特別な力があるわけではないのだ。しかも、今の団員は皆若く、魔族狩りを経験したことがない。本物の『魔族』を見た者すらいないのだ。

老婦人は聖騎士の足元に倒れたザシャを眺め、いまいましげに口を尖らせる。

「まあ、ただの魔族くずれだとしても、いなくなってくれればせいせいするよ。奴等は店のものを盗むし、汚いからね」

「―――――親も仕事もない子供が食べるためには盗むしかないではありませんの!!」

声を荒げたアルトゥールに、老夫婦と息子はビックリして固まった

身を寄せあい、必死に生きようとしているザシャ達が悪く言われるなんて許せない。

アルトゥールはスピーゲルの腕から身を乗り出す。

「家も世話してくれる人もいなければ汚くもなりますわ!それを……」

「失礼」

激昂したアルトゥールの口を塞ぐように、スピーゲルがまた歩き始める。今度は人の波に逆らって――――つまり、ザシャ達に背を向けて。

「スピーゲル!?スピーゲルどこに行くんですの!?」

スピーゲルの肩越しに、ザシャ達の姿が見えなくなる。

「スピーゲル!!ザシャ達を助けなくては……!!」

アルトゥールはスピーゲルの胸を叩いた。けれど、スピーゲルは足を止めない。

「スピーゲル!!」

早くザシャ達を助けなくてはならない。『魔族』はすぐに火炙りだ。

エルゼの泣き叫ぶ声が遠くに聞こえ、アルトゥールは身震いした。

あんな小さな子供が、殺されていいはずがない。

「スピーゲル!早く助けに……」

「ここにいてください」

トン、とアルトゥールの足が地につく。

そこは、人垣から外れ大通りから裏通りへと続く細い路地裏だった。

薪が積まれたその陰に、スピーゲルはアルトゥールを押し込んだ。

「夜までには迎えに来ます。だからここから待っていてください」

「嫌ですわ!!」

アルトゥールは激しく首を振ってスピーゲルにしがみついた。

「わたくしも行きますわ!」

「――――――いい子だから」

スピーゲルの手が、アルトゥールの頭を微風のように撫でた。

煤色の外套がスピーゲルの頭から滑り落ち、彼の目が、鼻が、髪があらわになる。

柔らかに、スピーゲルが目元を緩める。

「待っていてください」

まるで淡く光るような微笑みに、アルトゥールは瞬きすら忘れて呆けた。

その一瞬の隙に、スピーゲルは肩に落ちた外套をかぶり直し走り出す。

「スピーゲル!!」

アルトゥールは慌てて後を追おうとしたが、足の裏に鋭い痛みを感じ、すぐに膝から落ちるようにしゃがみこむ。

「……痛……っ」

見ると、土踏まずに小さな枝が刺さっている。

抜かなくてはと頭では分かってはいるものの痛みに煽られた恐怖感が先に立ち、アルトゥールは躊躇した。

その時、悲鳴ともつかぬざわめきが街に響く。

「……スピーゲル……!」

痛みへの恐怖など、一瞬で頭から吹き飛んだ。

奥歯を噛んで小枝を引き抜き、アルトゥールは立ち上がる。足の傷を庇いながら路地裏から飛び出すと、悲鳴をあげて逃げてくる人々と肩がぶつかった。

逃げ惑う人々と、煙のように立ち上る土埃。

アルトゥールは息を飲んで立ち尽くした。

土埃のなかから姿をあらわしたのは、建物よりも大きく巨大化したジギスヴァルトだった。


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