第2話 八つ当たりさせて頂きましょう
はい、こんにちは。
ルーク・エクリュ(六歳)です。
最近はミーシェをこの手に入れるため、剣の稽古に勤しんでいます。
今年はエディタ王国国立学園初等科に所属することになりますので、王子(第三王子と第一王女)達に顔見せになります。
王子達は我が両親の養女の息子に当たりますので……一応、叔父(僕)と甥っ子、姪っ子の関係に当たるのでしょうか。
面倒なので親戚ってことにしておきます。
と、いう訳で王宮に母上と共にきました。
真っ白な王宮はとても綺麗で、母上達はお庭でお茶会。
僕達は温室でお茶会らしいです。
はっきり言いましょう。
面倒くさいです。
もう既に母上とは別れて、温室にいるのですが……まぁ、視線がうざったい。
ただでさえ息苦しいタキシードのような服装なのに、面倒です。
煌びやかなドレスを着た少女達の熱視線を受けて……辟易とします。
ミーシェだったら喜んでなんですけどね。
あ、ミーシェは一年経っただけでその美貌が桁違いになりました。
もう天使ですよ、天使。
ふわっと笑った瞬間の可愛さときたらもうそれは……。
「王太子殿下、王女殿下のご到着です」
と、ミーシェのことを考えていたら王子達がきたようですね。
皆が一斉に頭を下げる。
「頭を上げてくれ」
そう言われてゆっくりと頭を上げた先にいたのは……。
いやぁ、まさかここまで王族様然としてる奴だったとは。
白い王族の服を着た金髪に翡翠の瞳の王子と、琥珀色のふわふわロングに翡翠の瞳を持つ、赤いドレスを着た美少女。
綺麗といえば綺麗なんでしょうけど……。
ミーシェの方が断然いいですね。
「わたしはセイジ・エン・エディタ。皆より一歳年上だが、余り堅苦しくしないでくれ。今日は顔見せにきてくれたこと、感謝する」
「わたくしはアミル・リュナ・エディタ。皆さんと同い年になりますわ。よろしくお願い致します」
二人が挨拶すると同時に皆ももう一度頭を下げる。
こうして、爵位が高い人達から挨拶が始まった。
まぁ、侯爵家は上からの方が早いので直ぐに順番ですけど。
「お初にお目にかかります。エクリュ侯爵が長男、ルーク・エクリュと申します。以後お見知り置きを」
「あぁ、初めましてだな。一応、親戚だというのに初めて会うのがこの歳とは」
「初めまして、ルーク様。どうぞアミルとお呼びくださいませ‼︎」
セイジ様は苦笑しながら、アミル姫はキラキラとした顔で言ってくる。
まぁ、会う価値ありませんでしたしね。
この人達に会うくらいならミーシェに会いに行った方が幸せですし。
というか、本当に時間があればミーシェに会いに行ってたので。
「では、挨拶が済みましたので失礼します」
「いやいやいや、待ってくれ。せっかくなんだ、もう少し話して……」
「僕の後にも挨拶をする人がおりますゆえ。ご了承下さい」
有無を言わさぬ笑みを浮かべ、終わりにしろよ?と暗に告げてやる。
僕の本気に押されたのか、セイジ様は「あっ…あぁ……」と頷いてくれたのだが。
「嫌ですわ‼︎もう少しお話ししたいです‼︎」
アミル姫が駄目だったんです。
いや、挨拶というのは大事なんですよ?
お前はこの顔見せを潰す気なんですか?
僕は怒気を漏らさないようにするのが限界で……ゆっくりと微笑んで、黙り込んでいた。
「アミル、後で話をすればいいだろう?他の子達から挨拶を受けなくては」
「少しぐらい遅れても大丈夫じゃ……」
「アミル」
セイジ様が怒ったように言うと、やっと彼女は「……分かりましたわ…」と渋々了承してくれた。
僕は「失礼します」とだけ告げて、振り返る。
その瞬間、僕の顔は少し酷かったようで。
僕の顔を見た子達がビクッ‼︎と身体を震わせていた。
……おっと、駄目ですね。
僕は笑顔を貼り付けて、それを誤魔化す。
少し人が少なめな場所に立ち、溜息を吐く。
うん、あの姫君は切り捨てですね。
王族としての振る舞いがよくない。
ミーシェは最近、身分相応の振る舞いをしつつもそれを笠に着ることなく優しい少女に育った。
使用人達にも感謝を忘れず、いつも笑顔を浮かべていて……はぁ、会いたい。
「ルーク様っ‼︎」
………ミーシェのことを思っていたら、思考がトリップしていたみたいです。
いつの間にか挨拶が終わったみたいで、目の前にはアミル姫。
……………は?
「………なんですか?」
「あのっ、お話をしましょう⁉︎」
「いえ、それは少しどうかと。アミル姫は女性とお話しした方が……」
「でも、折角お会いできたのに……」
僕は鈍感ではありませんから、彼女が向けている視線が好意に満ち溢れているのが簡単に分かります。
顔、ですかね。
「親戚なんですから‼︎いいじゃないですか‼︎」
アミル姫が俺に手を伸ばそうとして……。
「触れないで下さいますか?」
自分でも驚くほどに冷たい声が出た。
温室なのに、その場の空気が凍るようで。
僕はゆっくりと微笑んだ。
「貴方は姫君です。軽々しく男性に触れようとしてはなりません」
そんな風に言ってますけど、それは単なる建前です。
僕に触れていい女性はミーシェだけだから。
だから、お前に触れて欲しくないんですよ。
「分かりましたか?」
「…………あ…」
アミル姫はガクガクと震えながら、泣き顔になる。
僕は笑顔を貼り付けて、もう一度口を開こうとした……ら。
『ルーク‼︎何か来るよ‼︎』
「っ‼︎」
精霊達が騒ぎ出したので、僕は風の精霊術を使ってこの温室の索敵をした。
温室にある薔薇の生垣に隠れるようにしている大人が三人。
「そこかっ‼︎」
僕は敵に向かって腕を振るうと、パキンッ‼︎と氷の鎖を空中から生み出して生垣を貫いた。
「ぎゃあっ⁉︎」
「ぐあっ⁉︎」
「ぐっ⁉︎」
無事に拘束したことを確認して、僕は腕を手前に引く。
それと同時に生垣から三人の男が現れて、子供達は悲鳴をあげる。
不審者だな、と判断した僕は精霊達に頼んで父上に連絡をすることにした。
(父上に連絡を。温室にて不審人物を三人発見。事情聴取しておくと伝えて下さい)
『分かった‼︎』
僕はにっこりと微笑んで、彼らに問うた。
「初めまして。貴方達はどなたですか?」
「なんだ…このガキっ……」
『こいつら、姫を拉致するとか言ってたよ‼︎』
「ふぅん、拉致犯ですか」
「「「っ⁉︎」」」
男達の顔に衝撃が走ります。
まぁ、何も言ってないのに事情が分かったら怖いですよね。
それだけ精霊達はチートなんですから、仕方ないですよね?
「流石にこの場は駄目ですかね。軍部に行きますか」
僕は風を使って、男達の身体を浮かばせる。
皆を怖がらせないように僕は頭を下げて、微笑んだ。
「では、不審者を始末して参りますので。皆さんは顔見せをお続け下さい」
皆さんが怖がっているのは一目瞭然ですが、フォローする気はありません。
まぁ、そこはセイジ様が頑張って下さるでしょう。
実を言うと、姫に触られそうになって少しイライラしてたんです。
八つ当たりさせて頂きましょうか。