第1話 外見と精神年齢がそぐわないのは今更でしょう?
僕とミーシェが出会ったのは産まれて間もなく。
精神が早熟ではありましたが、産まれた直後からという訳ではありません。
ですが、幼い僕はミーシェを見た瞬間、目を輝かせて……彼女の手を取りずっと離れなかったらしいです。
そこからは時間があればミーシェに会いにきて、可愛がって愛でて、慈しんで。
こうして僕のお姫様は、僕を愛してくれるようになりました。
こういうのを母上の前世の世界の言葉で言うと、ゲンジ計画(?)とか言うらしいですね。
まぁ、とにかく。
ミーシェは僕の天使でお姫様で、最愛です。
可愛いミーシェと、彼女の専属侍女と侍従を引き連れながら、応接室に戻ります。
ノックして入室の許可をもらってから入ると……そこには僕の両親とミーシェの両親がいて。
四人はいつも通りの苦笑顔で僕達を見ていました。
「ご挨拶もせずに申し訳ありませんでした、レティアント公爵。公爵夫人」
「君のミーシェ好きは今に始まった話じゃないから、別に気にしなくていい」
「そうですよ。気楽に話して下さい、ルーク君」
レティアント公爵のリオンおじ様とノエルおば様はクスクスと笑う。
父のルインも笑っているけど、母のシエラは若干苦笑気味だった。
「ルーク……貴方、ミーシェちゃんが好き過ぎじゃない?そんなにべったりしてると、重いって思われるわよ?」
「だ、そうですけど……ミーシェはこうやって君に構うのは嫌ですか?」
「かまってくれないほうがイヤだもん‼︎」
ミーシェは嫌々と駄々をこねるように僕の腕を強く抱き締めます。
あぁ、可愛い。
「だそうですよ、母上。というか母上がそれ言います?父上とイチャコラしてる癖に」
「…………………」
「ふふっ。シエラ、ルークに負けてるね?」
「ルインの所為でしょう⁉︎」
結婚して◯◯年目(年齢がバレるから秘密と言われています。取り敢えず、二桁らしいです)の両親は未だに新婚のようにラブラブです。
その内、弟か妹が増えるんじゃないでしょうか。
「相変わらず、ルーク君は見た目と精神年齢がそぐわないな」
「リオンおじ様、それは今更ですよ」
「それはそうだ」
僕のお爺様は、精霊王という神様みたいな人らしいです。
僕の精神が早熟なのは、それも一因だとは思いますが……多分、両親が原因の方が合っている気がするんですよね。
「ルーにぃ様。今回は、どれくらい一緒にいれるの?」
「うーん…それは父上達次第ですね」
「ミーシェ、ルーにぃ様といっしょにねたい‼︎」
「………………」
この子はたまに天然で爆弾を落とすのでびっくりします。
これを言質にして、将来、ミーシェをお嫁にもらえないですかね。
「ルーク君。添い寝は流石にミーシェの父であるオレが許さないぞ?」
「まだ五歳の子供ですよ?」
「君、精神年齢はもう大人並みだろう?」
「あれ?バレてましたか」
はい。
実はこそこそ隠れて勉学やらに励んだおかげで、高等学年相当の知識はあります。
母上の言葉を借りるなら、両親譲りのチート能力様々ですね。
それが分かっているからか、母上が溜息を漏らしました。
「最近、ルークが本当にチートキャラ過ぎて心配になってきたわ……」
「シエラ様がそう言うって相当ですよね?」
「だってね?この子、ルインと同じように自分の意志で精霊術使えるのよ?血の力って怖いわ」
「…………それ言ったら、私とリオン様の娘であるミーシェも大変なのですが」
あぁ、ちなみに。
僕の両親に負けず劣らず、ミーシェのご両親も凄まじい武勇伝(?)を残しておられます。
リオンおじ様は現在の竜皇様の弟君で……竜人と《月狼族》と言う一族の狼獣人のハーフ。
ノエルおば様は魔王と《精霊姫》(こちらの大陸では聖女と呼ぶそうです)の娘さんらしく、こちらもまぁ魔術という特殊な力が使えるらしいです。
そんな二人の子供であるミーシェは、それはもう強くて可愛くて。
先祖返り……つまりは、古代竜の力を使うことができるのです。
あ、ミーシェの可愛らしい美貌はこの二人からの遺伝ですよ。
「……ルーク」
「みなまで言われずとも分かっています。ミーシェは僕が守りますから」
多分、リオンおじ様達が危惧しているのはミーシェの力が、悪い大人達に利用されないかということなのでしょう。
でも、そんなことさせません。
「まぁ、それは信用している。なんだかんだと言って、君、ミーシェを嫁にもらえるように画策してるだろう?」
「あー……リオンおじ様は相変わらず人の心を読むのがお上手ですね?」
全然、悪びれる気もなく僕は答えました。
父上がまだ剣を教えるのは早いというので、お爺様に協力してもらって精霊術の練習はしています。
あ、精霊が人の世に過干渉することは許されておりませんが、僕から会いに行ってるのでセーフだと思ってます。
政治的な知識とかは書庫がありますし……まぁ、いかにミーシェを手に入れて、そして彼女を守るかを画策しているのは真実です。
「……いや、別にルーク君にお嫁に行くのはいいんだが……せめて成人してからにして欲しい」
「あら?いいんですか、リオン様。男親ってのは愛娘が嫁に行くのを嫌がるもんだと思ってました」
「いや……ルインとシエラ夫人の息子だし。問題ないだろ?多分、この世界で何よりも頼り甲斐のある旦那さんになると思うし」
「じゃあ、リオンおじ様のご期待に添えるよう頑張りますね。言質は頂きましたので」
「ミーシェが望むの前提だからな」
「勿論です」
やりました、これで親公認です。
珍しくテンションが上がっていたから、隣にいるミーシェが不思議そうにしていました。
「ルーにぃ様、どうしたの?」
「ん?ミーシェが僕のお嫁さんになりたいって望んでくれたら、僕のお嫁さんになっていいよって言ってくれたんです」
「ほんとう⁉︎ミーシェ、ルーにぃ様のお嫁さんになりたい‼︎いますぐなれる⁉︎」
「あと十一年、待ったらですね」
「いますぐがいい‼︎」
ミーシェは涙目になりながら懇願します。
あぁ、そこまで求めてもらえるなんてなんと幸せなんでしょうか。
「ミーシェ。十一年なんてあっという間です。その間に僕は君に相応しい男になりますから、ミーシェも一緒に成長しましょう?」
「いっしょに?」
「そう。両親達みたいに、ずっとラブラブな夫婦になりたくないですか?そのためには、ぼくとミーシェ、二人で頑張らなきゃ駄目なんです」
「……‼︎うん、なりたい‼︎ルーにぃ様のためにがんばる‼︎」
「なら僕もミーシェのために頑張ります」
その言葉にミーシェは花のような笑顔を浮かべてくれる。
あぁ、可愛くて可愛くて仕方ない。
ねぇ、ミーシェ?
言質は頂きましたよ。
*****
さて。
ミーシェがおままごとをしたいとおねだりしてくれたので、僕とミーシェは彼女の部屋にやってきました。
可愛らしいパステルピンクを基調にした、派手ではなくそれでも可愛らしい部屋。
ミーシェにぴったりです。
「どんなおままごとをしたいのですか?」
「うんっとね……ルーにぃ様が旦那さまで、ミーシェがお嫁さんなの‼︎」
「夫婦ごっこですか?」
「うん‼︎」
「いいですよ、予行練習ですね」
夫婦ごっことなると、手本となるのは互いの両親の姿になります。
………流石に他所の家のイチャラブを聞くのは申し訳ないので、我が両親を犠牲にしましょう。
「じゃあ、ルーにぃ様‼︎お家に帰ってくるところから……」
「ミシェリア」
「うん?」
彼女の唇に指を添えて、微笑む。
柔らかい感触をふにふにと堪能しながら、耳元で囁いた。
「駄目ですよ。僕の妻ならちゃんと僕の名前を呼ばないと」
「なまえ……?」
「そう。君のお母様もお父様のことを名前で呼んでいるでしょう?さぁ、呼んで?僕の可愛いお嫁さん」
うん、四歳児相手に何してんだって感じかもしれませんが……小さい頃からの刷り込みが大事です。
悪い大人ですね、僕は。
………あ、まだ五歳ですけど。
「ルーク、様……?」
「はい、よくできました。いい子ですね、僕のミシェリア」
彼女の額に優しくキスをしてやると、ミーシェは頬を赤くして目を見開く。
そうしたら、ブワッ‼︎と彼女の頭から狼の耳が生えました。
ミーシェはクォーターで狼獣人の血を引いているので、普段は出ませんが感情が昂り過ぎると狼の耳が出てしまうそうです。
ケモミミをぴくぴくさせながら、唇をあわあわと震わせるその姿はとても可愛い。
「どうしました?」
「あのっ……なんか……ぎゅーってからだが熱くて、なんか……ぽわぽわして……」
「……………」
なんですか、この可愛い表現。
それに頬を押さえて、目を潤ませるあざとさもミーシェならば許せます。
僕は風の精霊術を使って、彼女の身体を支えながらお姫様抱っこで抱き上げました。
「きゃあ‼︎」と可愛らしい悲鳴と共に首に腕を回してくれたので、自然と互いの顔が近くなります。
キラキラとした彼女は、どこぞのお姫様より可愛いです。
「ふふっ。ミーシェ、可愛い」
「ルーク、様ぁ……」
「駄目ですよ、そんな蕩けた声を出したら。男は狼なんだから、襲われちゃいます」
こんなに可愛いんですから、他の男が放っておくはずがありません。
あぁ、心配になってきました。
「………お父様とお母様も、こんなふうにしてるの?」
「ん?」
「ぎゅーって熱くて、でもぽわぽわしてて。ドキドキするけど、ずっとこのままでいたくて……」
「……………」
「はなさないで……ルーク様……」
そう告げて、蕩けた顔で頬を擦り寄せるミーシェは……四歳児とは思えなくて。
へにゃぁ……と力の抜けた耳が、可愛くて。
まぁ、はい。
爆弾落としやがった‼︎
……………ごほん。
荒ぶりかけましたね。
うん、ごめんなさい。
調子乗りました、これは駄目です。
俺……ごほん、僕が我慢できません。
「ミーシェ」
「………うん…」
「ここから先はもう少し大人になったらしましょうね」
「………んぅ?」
「ミーシェが可愛くて、心配になります」
キョトンとするミーシェも可愛い……じゃなくて、ここから先は本当に危険です。
アレですね、天性の魔性というやつですね。
きっとこの子は将来、天然の傾国の美女になります。
絶対です。
あぁ、ちゃんと僕がミーシェを守らないと。
取り敢えず……。
「父上達みたいにイチャイチャするのは危険ですね」
なんとなく、家の両親が未だにイチャラブな理由が理解できた気がします。