第15話 ……………くそっ……やっぱり普通には終わらなかったかっ……‼︎
ギャグりました。
後悔はしていない。
よろしくね‼︎
そうして迎えた結婚式の日ーーー。
もう既に、興奮し過ぎて倒れそうです。
「どう、ですか?」
新婦の控え室。
恥ずかしそうに微笑むミーシェが纏っているのは、母上が着て……ノエルおば様も着たあのウェディングドレス。
自分達の両親が着たからミーシェも着たいと言って、ドレスはこれを使用することになりましたが……これはまさにミーシェのために存在するウェディングドレスと言っても過言ではありません。
可愛い。
とんでもなく可愛くて、美しくて……そんな陳腐な言葉しか出ません。
「ルーク様?」
「本当に女神です。とっても綺麗で、今すぐ二人っきりになりたい」
「………えへっ……」
ふにゃりと笑うミーシェはもう言葉にし難いくらいに最高で。
あぁ……幸せ過ぎて恐いですね。
この幸せが壊れたら……きっと僕も、壊れちゃいます。
「…………ルーク様?」
「……ミーシェ、幸せにします」
「……一緒に、幸せになりましょう?」
………ミーシェは優しく微笑んで僕の手を掴んでくれる。
………分かっているのかもしれませんね。
………………僕という存在が揺らぐことが。
父上にも、母上にも言ったことがありませんが、僕という存在は特殊です。
精霊の血なのか、《穢れの王》の力なのか。
僕は時々、僕という存在が希薄になる。
僕という人格が、消え掛ける。
巨大過ぎる力に飲まれかける、とも言えますね。
きっと、僕が消えたら……そこに残るのは、破滅を導く化物でしょう。
だけど、ミーシェと触れ合っている時は。
ミーシェの温もりを感じて、その存在を愛おしいと思っている時は……僕は僕らしくいられる。
ルークという存在は揺るがない。
ミーシェが、僕という存在を繋ぎ止めるための枷になってくれている。
愛の力は偉大だと言いますけど、まさにその通りだと思います。
「ミーシェ、これからよろしくお願いしますね」
「はい」
僕達は神の前で誓う前に、優しくキスをしました。
*****
結婚式は互いに誓いの言葉を紡ぎ、無事に終わりました。
貴族的な事情で、婚約パーティー同じく参加者は多いですけどね。
どうせしてることは一緒なのでそこら辺は再び割愛です。
そして……披露宴。
目の前には号泣してるシゥロとククリがいました。
「おめでとうございますぅ、お嬢様‼︎」
「幸せになるんだぞ⁉︎」
親より泣く幼馴染って……。
まぁ、そんだけミーシェのことを思ってるってことですよね。
「うわぁ……凄い泣いてる……」
「相変わらずだね」
大人になったロイゼルとサリュ(互いを呼び捨てにする程度には親しくなりました)は、苦笑しながらこちらに歩いて来る。
そして、嬉しそうな顔で笑いました。
「結婚おめでとう、ルーク」
「おめでとうございます、ルーク。ミシェリア様」
「ありがとう、ロイゼル。サリュ」
「ありがとうございます、お二人とも」
あの日からなんだかんだと共に地獄(笑)の訓練を乗り越えてきた二人です。
二人も感慨深いモノがあるのか、とても頷きまくってます。
「ロイゼル、サリュ。これからが本番ですから……よろしくお願いしますよ」
「おぅ。じゃなきゃ、あのクレイジーワールドを乗り越えた意味がない」
「ですね。もう何も言うまい」
一瞬、遠い目をする二人。
ミーシェはそんな二人を見てクスクスと楽しそうに笑いました。
「男の友情、ってヤツですね」
「………かもしれませんね」
………ちょっと照れますけど。
少し照れくさくて、目を逸らした瞬間ーーー。
真顔になりました。
『おぉぉぉぉう………ルークが……ルークが結婚とか、時間が経つのは早ーーー』
「なんでまたアンタがいるんだ、クソ親父っっっ‼︎」
父上に殴られて、フライアウェイするお祖父様。
……………くそっ……やっぱり普通には終わらなかったかっ……‼︎
ゴロンゴロンっと転がり、ガバッと起き上がるお祖父様。
うわぁ、打たれ強い。
『痛いぞっ⁉︎ルインっ‼︎』
「過干渉禁止されてるだろ⁉︎なんで毎回毎回そうホイホイと出てくる‼︎殴るぞ⁉︎」
「もう殴ってるわよ、ルイン」
…………あぁ、うん。
キレた父上は母上に宥められて、イライラしながらもそこで止まりました。
その後ろでリオンおじ様は絶句、ノエルおば様は爆笑。
ミーシェも隣でスンッ。って顔してますし。
ロイゼル達はまさかまさかの展開に困惑してますね。
「お祖父様。なんできたんですか?」
僕の声で殴られた人物が否応なしに精霊王だと気づき、今更ながらに絶句する参加者達。
精霊王の扱い雑ですけど、どうせ碌でもない予感がするので……あんまり聞きたくないんですけどね。
『ん?それは勿論、ルークにお祝いの言葉を告げるのと、ルインにちょっと預かって欲しい子がいてな』
「……………は?」
精霊王がパチンッと指を鳴らすと、空から小さな男の子が父上の腕に落ちてきました。
黒髪に真紅の瞳の産まれたばかりくらいの男の子。
…………なんか、容姿が僕や父上に似てませんか?気の所為ですか?
「……………まさか……」
父上はその男の子を見て言葉を失います。
精霊王はそんな父上に向かって親指をサムズアップしました。
『お前の弟だぞ、ルイン‼︎名前はルイだ‼︎』
…………………え?
………つまり………。
「僕の叔父ということですか」
驚愕。
僕の結婚式に父上の弟(僕より幼い)が出現。
父上はそれを聞いて、お祖父様の胸倉を掴みました。
「なんで、こんな変なタイミングなんだっっ‼︎今、ルークの結婚式だぞ⁉︎」
『だって過干渉禁止だから、一回で済ませるべきかとっっっ‼︎』
「ふざけんな、この阿呆っっ‼︎」
ギャーギャー言い合いを始める二人を見ながら、僕はミーシェと「なんかある意味余興ですよね」、「ですね」と暢気な会話をする。
流石に収まりがつかなくなると思ったのか、母上がストップをかけました。
「取り敢えず、なんで預けるのかしら?」
『だってルインと同じハーフエルフだからな。《精霊の花園》にずっとは暮らしていられないし、ちょっと暫くゴタゴタしそうなんだ。だから、ルインに預けようと』
精霊王はワザとらしく懐から時計を取り出すと『いっけなーい☆』とワザとらしく目元にピースサインを添えました。
ウザっ。
『では、ルーク‼︎結婚おめでとう‼︎お前達に精霊王の加護を‼︎さらばだ‼︎』
そう言って直ぐに消えるお祖父様。
僕は真顔になりながら、父上達に聞きました。
「あれ、祝いに来たって言うより……叔父様を預けにきたのと、披露宴邪魔しに来ただけですよね」
「私、自分の披露宴が精霊王に邪魔されたって……一生忘れないと思います」
僕とミーシェの言葉に、父上と母上はとっても渋い顔をしました。
余談ですが、この披露宴は《精霊王に邪魔された披露宴》として地味に参加者達の家族に語り継がれたそうです。




