第13話 それアウトーっ‼︎
ギャグに走りました、後悔はしてない。
よろしくね‼︎
煌びやかなシャンデリア。
絢爛豪華なダンスホールに、沢山の料理。
色鮮やかな無数のドレスが舞う今夜。
………はい、成人(十四歳)のデビュタントですね。
勿論、両親と来ています。
令嬢ならば、婚約者にエスコートされるんでしょうけど、ミーシェは一つ歳下ですからね。
僕は挨拶もそこそこで、婚約者のいない子息達と談笑していました。
こういうのは、婚約者がいない令嬢をゲットする場なんでしょうけど……ギラギラした彼女達に狼狽して、今回の婚約者ゲットは遠慮したいかな……なんて思ってる人達と一緒にいます。
「ルークは隣国の《女神》と婚約しているんだろ?」
「そうですね」
「一回ぐらい見てみたいよなぁ……」
そう……ミーシェが美し過ぎて、彼女は《女神》なんて呼ばれるようになりました。
あ、ちなみに…僕はなんだかんだとありまして、《氷結凍土》……なんて呼ばれるように。
なんで《氷結凍土》なんていう物騒な名前なんでしょうね?
「クリストファー国王陛下、セシリー王妃殿下、並びクリス王太子、セイジ殿下とアミル姫のご到着‼︎」
大人の声が響いて、その場にいた人々が頭を下げます。
あぁ、そういえば……姫は今年、デビュタントでしたね。
ヒールの音だけが響く会場で、国王の「面を上げよ」と声がした。
顔を上げると王座には、威風堂々とした王族(第二王子のセシード様は留学中のため、いない)が並び……国王はゆっくりと話し出した。
「今日はデビュタントの場でもある。皆、楽しんでくれ」
それを合図に皆で乾杯し、本格的な夜会が始まる。
食事をしながら、談笑して、腹の探り合いをする。
夜会というものは情報交換のいい場ですからね。
今後、僕達がしていかなくてはいけないことです。
「うわぁ……アミル姫、綺麗だな……」
共にいた男子が姫を見て声を漏らす。
可愛いといえば可愛いのだろうけど、ミーシェの方がいいですよ。
「ルーク」
「父上、母上」
声をかけられて振り向くと、そこには……うん。
自分の親ながら、王族よりも美形な僕の両親がおりました。
「挨拶に行くよ?」
「はい」
両親と共に国王陛下の元へ向かいます。
少し待ってから僕達の順番になり、三人で頭を下げました。
「こんばんは、王族の皆様。ルイン・エクリュです」
「こんばんは。妻のシエラですわ」
………父上、母上…それ、王族に対する挨拶じゃありません。
というか、国王陛下は身体がとんでもなく震えてますね。
「こんばんは……ルイン侯爵、シエラ夫人」
「こんばんは、義父様、義母様」
なんか、国王陛下が可哀想なレベルで震えてますよー?
一体、何があったんですか………。
「大丈夫?陛下?」
「………どうしてでしょうか……こんなにも胃が痛い……嫌な予感がする……」
「………精霊、ちょっとなんか哀れだから胃痛を緩和してあげて」
「………ありがとうございます、エクリュ侯爵」
父上の声で精霊達は『分かった〜‼︎』と返事をして陛下に治癒をかける。
本当、胃に穴空いてしまいそうですね。
「ルーク、取り敢えず挨拶を」
「はい。本日成人と相成りました、エクリュ侯爵家が嫡男のルーク・エクリュと申します。よろしくお願い致します」
「おめでとう、ルーク君。エクリュ侯爵のように暴れる時は一言お願いしたい」
「おめでとうございます、ルーク君」
「…………ありがとうございます、国王陛下。王妃様」
暴れるなら一言連絡をって言われるデビュタントってなんですかね。
というか、国王陛下にそんなこと言わせるって本当に父上と母上は何したんですか?
この国の真のトップ、僕の両親なんですか?
「ルーク君。成人、おめでとう。また訓練しような」
「ありがとうございます、クリス王太子殿下」
ニカッと笑うクリス王太子殿下は、クリストファー陛下に瓜二つですが、その性格は真反対。
国王陛下が繊細なイメージだと、クリス王太子殿下は脳筋です。
だって、どっかから僕達の訓練の情報を聞きつけて、強制参加してきましたからね。
恐れられてる僕達の訓練に参加してくるなんて、それだけで脳筋としか思えませんよ。
「ルーク君、成人おめでとう」
「セイジ殿下、ありがとうございます。アミル姫もご成人、おめでとうございます」
「ありがとうございます、ルーク様」
アミル姫はあの婚約式の騒動から会ってませんでしたけど、今回は大丈夫でしょうね?
ロータル侯爵夫人に再調教されたと聞きましたが。
「ルーク様」
「はい」
「わたくしと、ファーストダンスを踊って頂けませんか?」
ヒョォォォォォォ……。
その瞬間、この場の空気が冷たいものに変わりました。
分かりますか?
デビュタントのファーストダンスというのは、ある意味、婚約者と踊るものです。
婚約者がいないのなら、家族や知り合い、既婚者などに頼むものです。
で、この姫君は婚約者がいる僕にそれを希望した。
つまり、ミーシェを認めていないと。
ロータル侯爵夫人に淑女教育を受けていたと聞きましたが……ふふふふっ、こいつ……あの日のことが懲りてないみたいですね?
僕が口を開こうとした瞬間ーー。
「………アミル姫っっっ‼︎」
……………まさかの、乱入者登場。
『ルインが少し後ろに下がってなさい、だって〜』
父上が精霊経由で僕を呼ぶ。
僕は素直にそれに従い、アミル姫から離れました。
すると、人混みの中から現れるのはいつぞやの青年。
……………ん?こいつ……。
「そいつを選ばないでくれ‼︎わたしが君を幸せにしたいんだっ‼︎アミルっっ‼︎」
シンッ………と静まり返る会場。
その言葉を聞いて目を潤ませるアミル姫。
そして、苦笑しながら……彼に告げました。
「やっと、言ってくれましたわね」
「………………アミル……姫……?」
「いつまでも貴方がわたくしに言ってくれないから、少しルーク様にご協力頂いただけですわ。ずっと、待ってましたのよ………ランツ皇子‼︎」
そうして、互いに抱き合うランツ皇子とアミル姫。
…………………えぇ……えぇ、えぇ。
流石の僕も分かりましたよ?
これは………。
「僕、当て馬に利用されましたよね?」
「だね」
「そうね」
苦笑しながら頷く父上と母上。
いや、協力も何もいきなり利用されたんですけど。
というか、いつの間にこの二人、仲良くなってたんですか。
というか、強かですね〜……僕を利用するなんて。
……………まぁ、それよりも。
「国王陛下、大丈夫ですか?」
どうやら国王陛下もアミル姫のこの行動は聞いていなかったようで、顔面蒼白で魂が抜け出ちゃいそうになっています。
そして、泣きそうになりながら僕に頭を下げました。
「申し訳ございませんでしたっ‼︎」
「うわぉ」
「「お父様っ⁉︎」」
…………急に謝られて、僕もビックリですが……クリス王太子殿下達もギョッとしています。
まぁ、そうですよね。
王たる者が簡単に謝ってはいけませんもんね。
というか……こんなことさせたら、僕、不敬罪とかで捕まりませんか?
…………え?貴族の皆さんはこれ見て何、諦めた顔してるんですか?
騎士さん達も手は出しませんと言わんばかりにサムズアップしてるんですけど⁉︎
「まさか……まさか……アミルが君を利用するようなことするなんて思わなくて……本当にすまない。どうか、国は……世界は滅ぼさないでくれ……」
「いやいや、そんなことしませんよ。僕が暴れるのはミーシェに害がある時だけです。今回は一瞬、潰そうかと思ったくらいです」
「……………」
陛下は胃を押さえて呻きます。
父上はケラケラ笑いながら、国王陛下に告げました。
「あははっ‼︎どうせ、君のことだからルークのこと、子供達に教えてなかったんでしょ?今度からちゃんと教えておいた方がいいよ。俺より強い力を持って……ルークの気分次第で一瞬で国が滅ぶんだよって」
「…………え?」
アミル姫はそれを聞いて固まります。
あ、今更ながら自分がヤバイのを利用したって理解したんですかね?
「まぁ、ミーシェちゃん関連じゃなきゃルークは暴走しないと思うけど。今回のファーストダンス云々の発言はギリギリだったわねぇ」
母上、その言葉はトドメです。
父上は「あはは、確かに」と楽しそうに笑っていますが、その場にいる人々はガクガクと身体を震わせ始めました。
特に大人達。
…………うん。
僕の力は殆ど見せたことがないのに、こんなに怯えられるってことは……父上の〝自分より強い〟発言の所為ですよね?
我が両親のヤバさが分かってるから、それよりヤバいと言わしめる僕に怯えちゃってますよね?
「まぁ……ランツ君って前にミーシェちゃんを無理やりルークから奪おうとした子だよね?」
「っっっ‼︎」
あー……そんなこともありましたね。
ということは、僕とミーシェに横恋慕した者同士がいつの間にかくっついていたと。
驚きです。
「…………まぁ、なんでもいいと思うけどさ?ちゃんと後でルークとミーシェちゃんに謝りなよ?二人とも、末代まで呪われないといいね?」
父上ぇー‼︎
それアウトーっ‼︎
まるで、僕に謝らなかったら呪うみたいじゃないですか‼︎
そこまでこいつらに興味ありませんので‼︎
「後日、二人にはちゃんと謝罪に向かわせよう‼︎」
………ですが、国王陛下に上手くそうまとめられまして。
それに周りの皆さんもヘッドバンギングの如き動きで同調する、と……。
「いや、別に気にしてなーー……」
「駄目だ‼︎謝罪は大切だからな‼︎うん‼︎」
…………これ、僕がそんなに情状酌量の余地を与えないと思われてるんですかね……。
いや、虎の尾を踏みたくないだけでしょうか。
………あぁ……もう僕は何も言いませんよ。
謝罪しに来るなら、勝手に来て下さい。
「では、失礼します」
父上の最後の締めで僕達はその場から去ります。
各貴族達が、「あの方達は本来、国に収まるような人じゃない」とか「この国のためにこの国にいてくださるだけだから……機嫌を損ねてはいけないよ」とか子供達に説明している声が聞こえました。
エクリュ侯爵家、ヤバい認定されてるヨ。
「あははっ、なんか次世代まで脅しかけられたみたいだね」
これ、脅しってレベルですかね?
まぁ、父上がそう言うならそうなんでしょーけど。
「そうね。どうせ後、数百年は生きるでしょうし……脅しかけておいた方が楽よ。好き勝手動けるでしょうし」
「………父上はともかく、母上もそんなに生きられるんですか……?」
母上は人間のはずです。
人間の寿命とは六十〜七十歳程度。
父上は精霊王とエルフのハーフなので、それ以上に生きるでしょうが……母上は……。
不安そうな顔をしていたからでしょうか。
母上は僕の頭を撫でながら、クスッと笑われました。
「大丈夫よ、ルーク。なんで《神妃》なんてあだ名されてると思っているの」
「…………なんとなくでかと」
「……まぁ……ある意味、精霊王の息子であり、《穢れの王》を喰べたルインは神様の一種みたいなのよ。だからその妻であるあだ名がそうなったのよ?そもそもの話、私がいなくなったら結局世界滅亡だもの」
「……………へ?」
「ルークの方が強くても、ルインだって世界を簡単に滅ぼせるんだから……私がいなくなったら、ルインは絶対に世界を滅ぼすわ」
…………それは…つまり……。
「母上がいない世界なんて消えてなくなれ的な?」
「うん、多分俺ならそうするかな。シエラのいない世界なんて意味がないし……でも、シエラさえいれば、世界が滅んでも構わないとも思っちゃうんだよね」
「父上、それ矛盾してません?」
「うん。取り敢えず、俺にはシエラがいればそれでいいんだよ。あ、勿論ルークもだからね」
今度は父上は僕の頭を撫でてくれます。
「まぁ、そういうことで私とルインは生命共有してるのよ」
「どちらかが死ねば、相手も死ぬような〝呪い〟だよ」
「………………」
なるほど……これがヤンデレ。
僕は素直に頷きました。
「………そうでした…家を基準にしちゃ駄目なんですよね……つい、父上達を基準にしてしまいました……我が家は普通じゃないんでした……」
以上の会話から、僕は頭を押さえて息を吐きました。
我が家は規格外なんだと自分でも理解してたのに、忘れてました。
ついでに言っちゃうと、確かに二人の若々しさはこの場で浮いてますものね。
デビュタントした方ですって言われても納得するかもしれません。
見た目が十代の五十代と三十代って、年齢詐欺ですね。
「まぁ、リオン君の家も似たようなものだから……ルークもミーシェちゃんと仲良く生きるんじゃないかな?」
はい。
僕とミーシェが規格外だから、その可能性はあり得るなぁ……と実感しました。
こうして、両親のヤバさを改めて実感しつつ……僕のヤバさも公表したデビューは終わりました。




