第9.5話 ロイゼルの独白日記
遺書。
もしこの手紙が読まれているとしたら、わたし、ロイゼル・マックスはもう死んでいると思います。
………とか始めてみたけど、実際は遺書じゃありません。
ただの日記です。
ここ最近、マジで死と生の瀬戸際の戦いなので……日々起きたことを日記にしようと思い筆を取りましたが。
今日のところは、今までのことを書き綴ろうと思います。
好奇心は猫をも殺すってことわざがある。
もし、昔のおれに一言言うなら、マジで好奇心で関わるの止めて欲しかったです。
覚悟してから関わって欲しかったです。
自分が転生者だと気づいたのはこの日記を書き始める二ヶ月ほど前のこと。
今まで生きてきた記憶が曖昧になるタイプの前世の思い出し方だった。
で、自分が妹がやってた乙女ゲームの世界に転生したって気づいた時はマジで驚きだった。
だってそうじゃん。
テンプレだよ、テンプレ。
それにゲームの世界だと思ってたから、この世界が現実だってまだ理解しきってなかったんだ。
だから、ちょっと公共庭園でおれと同じ攻略対象を幼くした男の子と、悪役令嬢を幼くしたような女の子がいたのを見て、声をかけてしまったのが失敗でした。
漆黒の鎖で簀巻きにされて、脅されて、男としてなんか色々失って………。
そして、調教されることになった。
一言で言おう………マジでヤベェ。
アレは調教なんて言葉が甘過ぎる。
拷問だとしか思えない。
ロータル侯爵家の当主トイズ様とご子息トーマスさんと、ネイズさんは優しい笑顔の茶髪の普通の人だったけど、それが化けの皮だった。
何あのマナー講座。
貴族としての一般知識を教えられるだけじゃなくて、護身術と称して徒手戦闘で投げ飛ばされて。
この乙女ゲームは戦闘パートがあって、ロイゼルは剣術の壊れ性能を持ってたから、剣術なら大丈夫だと思ってたら……それさえも負けて。
ルーク様の父君ルイン様と元近衛騎士団所属だというアダム様の模擬戦を見せてもらって、上には上がいるって知って。
というか、アレはヤバイ。
ハイパークレイジー。
なんで模擬戦で地面が抉れるの。
なんで腕折れてんのに笑いながら戦ってんの。
戦闘狂なの?
模擬戦じゃなくて、殺し合いの間違いだよな。
ドパッって、血吐いてるし………。
………で。
ルーク様もあのクレイジーワールドの中で生きてきたんですよね。
だから、ルーク様も凄まじかったです。
何がって言葉にできない。
ボコボコにされて、精神的に潰されて……なんかクレイジーでオーマイゴッドって感じ(語彙力が行方不明)?
で……それだけじゃ終わらなくて。
ミシェリア様の専属侍従と侍女だという人達には、本気の殺気を当てられて……凄まじい精霊術で狙撃されまくり(ミシェリア様を悪役令嬢と言ったのが、原因だった)。
最終的には、ミシェリア様とも模擬戦させられて……完膚なきまでにやられて。
というか、あの動きは令嬢じゃありませんでした。
なんで女の子にボロ負けするんだ‼︎
そう叫んだら、改めてゲームとの相違点を教わった。
ルイン様は精霊王とエルフの息子(半精霊)で、《穢れの王》とかいう世界を滅ぼす存在を喰べちゃった(⁉︎)らしいヤンデレで。
シエラ様は普通の転生者……と思ったけど、どうやら1の元当て馬令嬢らしく。
《精霊姫》ばりの精霊術を駆使して、ヤンデレルイン様と結ばれ、世界の命運握っちゃってる普通じゃない人だったよ。
ミシェリア様の方は、第二皇子と専属侍女なんてちょっとドラマチックとか思ったけど、なんか色々と凄かった。
父君がマグノール帝国現皇帝(竜皇)の皇弟で、竜人と狼獣人のハーフで、とんでもない腹黒。
母君が魔王と《精霊姫》(向こうの大陸では聖女と呼ぶらしい)のハーフで、元暗殺者。
つまり、ゲームと違ってルーク様達が強いのはそんなご両親の教育の賜物だということでして。
そんな設定、乙女ゲームになかったです。
いや、ルーク様は精霊術が得意ってプロフィールだったけど……あの人、普通に剣の方が強いです。
そうして、おれはこの世界がゲームなんかじゃないと知りました。
遅過ぎました。
後悔先に立たずです。
………唯一の救いは、おれを殺す気がなかったことだろう。
あのクレイジーワールドの世界で教育を受けたので、かなりおれも強くなったけど……はっきり言って、おれが強くなるよりも速く、ルーク様達は更に強くなるから永遠に追いつけません。
というか、逆らう気すら起きません。
世界を滅ぼせるってこういうことを言うんだろうなって学びました。
下剋上なんて考えもしません、手下万歳(ちょっと自分でも何言ってるか分からない)‼︎
そう……後悔は止まりませんが……おれはなんとか今日も生きてます。
長くなりましたが、まぁ……今日もおれは頑張りました。
どうか、明日も生きていられますように。
もしもおれが死んだら、その原因は絶対にルークさーーーー。
「へぇ。密告書代わりですか。いけない子ですね」
「へ?」
ガバッと後ろを振り返ると、そこには満面の笑みを浮かべるルーク様。
………え?ここ、おれの自室……。
「あはは、どうしてここにいるか?転移したに決まってるじゃないですか」
うわぉ、チート能力。
ルーク様はニッコリと、綺麗な笑みを浮かべる。
「精霊が教えてくれたんです。君がどうやら、僕を嵌めるための手段を用意してるって」
いや、そんなことありません。
嵌めるとか全然思ってません。
ちょっと、おれの日記が誰かに見られてあのクレイジーワールドから救ってくれないかなぁ……って淡い期待を抱いただけーーー。
「ちょっとロイゼル君は再調教ですね」
「ねぇ、今、調教言いましたよね⁉︎言いましたよねぇっ⁉︎」
「黙れ。俺はお前がミーシェのことを悪役令嬢だなんて抜かしたこと、忘れてないからな」
「ねぇ、もしかしておれがこんなに厳しく教育されてるのってそれが原因⁉︎ミシェリア様のこと悪役令嬢って言ったのが原因なのかって………ギャァァァァァア⁉︎」
その後どうなったか?
精神的にも肉体的にもボコボコにされましたよ、はい。




