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迷走記  作者: 法相
二章:忍
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二章一幕=ふとした疑問=

精神的にしんどかったり、お正月早々骨折したり散々な目にあってましたが休養を取れたことにより、書く元気を取り戻せたから結果オーライ

「おっはよ、龍臥くん」

「おはようございます……あふぅ」


 あくびをかみ殺しながら居間で響さんに挨拶をする。

 寝坊助な俺とは違い、すでに彼女の方は完全に目が覚めているようでハキハキとした空気が伝わってくる。

 元気がいいな、と思いつつ俺は彼女とともに用意された朝食を食べながら「そういえば」と思い出したことを口にした。


「どしたの?」

「殿様の名前、聞いてなかった……失礼だったな、俺」

「ああ。別に気にしなくていいんじゃない? なんせ昨日は龍臥くんも混乱してただろうし」

「そうですけど、でもお世話になる人の上司なんだからそこは……」


 そして形式上俺も雇われていることになるのだから、名前を知らないというのはさすがにまずいだろう。

 ……さすがに首打ちとかにはされないよね?

 不安のあまり口からそんなことがこぼれ出るが、響さんは笑いながらそれを否定した。


「ないない。あの殿様はかなりのお人好しだし、打ち首とかそういうのはないわ」

「そ、そうなんです?」

「ほんとほんと。まぁでも確かに向こうは名前知ってるわけだし、龍臥くんも殿の名前を知ってた方がいいか。あの人は守谷護もりや まもる、我らが城主で民からは人気の厚い人。性格も昨日でわかったと思うけど、悪い人ではないわよ」

「ならいいんですけど……」

「大丈夫だって。なんなら私からお詫びもいれておくし、龍臥くんはまずこの世界に馴染むのに慣れてね」


 ニヒヒ、と目を細めて響さんは微笑む。

 ……まぁ、確かに今考えても仕方ないことだし、ウジウジしてても仕方ないか。


「と、そういえばもう一ついいですか?」

「何?」

「ここの領地は鉄華領で、狙っている敵はテラサイト領、ってことでいいんですよね?」

「そうね」

「それじゃあ、この世界はなんていうんですか?」

「ん? というと……」

「俺は前は地球の日本っていうとこにいたんですけど……」

「ああ、それは私も知らないわよ」

「知らないんですか!?」

「だってねぇ、基本的には鉄華領から出ることはないし、よくて今みたいなことになる前のテラサイトには行ったこともあるけど……深く考えたことはないわ」

「ええ……そんなんでいいんすか」

「いいのよ。別に困ってることはないし、生きていればそれが儲けもんよ。あ、でも……日本、だったかしら? 私たちの先祖がここにくる以前にいたのは日の本って国らしいけれど」

「!」


 日の本。

 この言葉を聞いて間違いなく鉄華領の人たちは日本人の先祖であることが推測できる。

 過去の世界なんぞ俺にはわからないが、合致できる点があるだけにこんな考えが思いつけた。

 日本にある妖怪の存在も、あのピエロをみたあとであれば信じられる。現在では姿を見かけないけど、それだって天然記念物や絶滅した種族もあることを考えれば納得できる。

 現代の日本では妖の類は絶滅したか、あるいは数が極端に少なくなったかの二択だろう。

 それでこの世界にはあのピエロがいたようだし、他にもモンスターの類も存在していると言う。

 昨日は見かけなかったが、それは運が良かっただけだろう。


「大なり小なり、合点がいった……」

「なにを一人でブツブツ言ってるの?」

「あ、すいません。ちょっと考え事を」


 ハハハ、と笑ってごまかしておく。

 ……まぁ事実がどうであれ、少なくとも俺の中での仮説として今は納めておこう。

 考えだけならいくらでもできるけど、それは証拠がない限り真実とは言い難いしなぁ。アホにはどうしようもない事実だ。


「あんまり考え事はしすぎないようにしなさいよ? なんとかなることならまだしも、どうにもできないことは放っておいた方が楽になるわよ」

「できることなら、そうしますよ」


 自信はないけど、と小さくつぶやいてから響さんの隣に並び歩いた。

 そして再び俺たちは鉄華嬢へとやってきた。実に一日ぶりである。

 などと考えている間に響さんは早足で門をくぐっていき、俺も慌ててそのあとをついていく。

 ただタイミングが悪かったのか城主の護さんは執務に追われているようで今は時間が取れないと言うことだったので出直すことになった。


「……まぁ殿様だからそりゃそうだよな」

「うーむ、思ったより忙しそうね」

「いや、臣下の響さんが把握してないっておかしくない?」

「だって私は基本的に蒼ちゃんの相手とかメインだし……昨日みたいにぶっこみかけるのは稀よ? んで、たまたま空いていただけみたいだけど」

「なんて行き当たりばったりなんだこの人……」


 何も考えてないんだろうか、と思わずにはいられなかった。


「相変わらずですね、響ちゃん」


 と、静かな声が聞こえて視線をやる。

 視線の先にはこの城のお姫様、名前は確か蒼蘭さん、がいた。


「あ、蒼ちゃん」

「お父様に急に会いに来ちゃダメですよ。お父様は忙しい身なんですから……」

「ごめんごめん、つい昔からの癖でね」

「自由ですねぇ。と、そちらの方は昨日の……鳳さん、でしたか」

「あ、どうも。鳳龍臥です。えと、姫様」

「硬くなさらないでください。響ちゃんと接するみたいにで大丈夫ですよ」

「あんま変わんないわよ」

「あら。そうなんですか」

「元いたところでは女性との交流が少なかったかららしいわよ」

「まぁ、事実ですけど……でもお姫様はどうしてここに?」

「自分の家を歩き回るのに理由が入りますか?」


 いりませんです、はい。


「って、納得してる場合じゃなくて……お付きの人とかはいないんですか?」

「そういうの、堅苦しくて嫌なんですよね」


 ニコっとほほ笑む姫様。

 ああ、束縛されるのは嫌いなタイプか。


「さて、ここで待たれるのも退屈でしょう。私の部屋に来てください。歓迎しますよ」

「え?」

「そうね、最近蒼ちゃんの部屋には上がるまではいってないし、お言葉に甘えようかしら」

「今更遠慮する仲でもないでしょ、響ちゃん」

「それもそうね。じゃ、いきましょうか」


 響さんに右手を掴まれ、そのまま引っ張られる。

 俺の意見はなく、そのまま俺たちは姫さまの部屋へと向かっていった。


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