一章五幕=響の家=
「さて、今日からよろしくね。龍臥くん」
城から出て十分ほど歩き、私は龍臥くんとともに私の家に来た。
私の家は一軒家で、広さはそこそこといったところだが、一人暮らしでは広すぎるし、二人暮らしでも十分に生活するに足りる。
以前は両親と妹も含めた四人で暮らしていたが、現在では私一人だけだ。
妹である雅は去年旅に出たきりでまだ帰ってきていないが、元気だろうか。姉としては心配するばかりだ。
とはいえ、あの子もそう簡単にくたばるような子ではない。きっとまた戻ってくるだろう。
そして視線を今日から暮らす龍臥くんに向けるが……
「よ、よよよよよよよろしくお願いします」
すごく動揺した様子で彼は玄関でお辞儀をしていた。
最初からわかってはいたけど、すごく真面目な子のようだった。
だけれど少し緊張しすぎではないか。城から出た時点でもだいぶ緊張していたようだったけど、家に来るまでにさらに緊張の度合いが増している。
やはり別の世界から来たということもあって慣れない場所で緊張しているのかな。
「そんなに緊張しなくても、とって食べたりはしないわよ?」
「い、いやその……女性の家に入るっていうのが経験がなくて」
「? それ、なんか気にする理由になるの?」
「なりますよ!? その、それに……なんか申し訳なくて」
申し訳ない、とはどういうことだろうか。
彼がなにかしらの罪悪感を感じる理由など、少なくとも私が見た限りでは一つもない。
殿も龍臥くんのことは気に入っていたというのはあの反応からわかるし、ましてや私をテラサイトから守ってくれたのだ。
むしろ申し訳ないというのなら、私の方だ。
龍臥くんは本来いた世界からこの場所に無理やり連れられてきて、そして私がいたことでテラサイトの連中にも目をつけられた。
だから、龍臥くんが気にする必要などどこにもないというのに。
「ねぇ、龍臥くん。その申し訳なさって、私を守ってくれたことになにか関係あるの?」
「そうです、ね。まだ言えないですけど」
すいません、と龍臥くんは謝る。
誰しも言いたくないことはあるだろうし、そこはしょうがないだろう。
ともあれ私に関することである、ということがわかったのは収穫か。
なにはともあれ今日が初対面なんだから、あまり深入りしすぎるのもよくない。
「謝ることなんてないわよ。それじゃどうぞ我が家へ」