六章五幕=策=
新年一発目の更新です。
どうぞよろしくお願いします。
地面を踏みつけ、奴の足を拘束。
これで作れる隙はほんのわずかなものだが、この隙に全力で乱打を放ち、響さんは背後に回り込んで居合い抜き。
黄金は響さんの攻撃のみを剣で防御し、俺の攻撃は鎧で受け止める。
舐められている、というわけではない。現に地味に呻き声を漏らしている。
「さすがに、君の拳はまだ重いみたいだ……!」
「そりゃどう、も!」
拳を休めることはしない。響さんも剣撃を着実に当てることを狙っている。
黄金の方も俺の拳はまだ致命傷になりえないと思っているのか、鎧で受けており、響さんの攻撃の方を優先的に守っている。
(死んで蘇ったら強くなるって言っても、痛みや死ぬのはなるべく避けたいってことか)
痛覚は残っているから死ぬときに蘇ったり、死の記憶はかえって生々しくあるから避けたいというのはわからないでもない。だからこそ俺の攻撃の方を受けている。
俺だって想像するだけで気持ち悪いから当人である黄金はなおさらだろう。もっとも、同情などしてやる余地はないのだが。
現状では強くなっていると言ってもまだ二人がかりなら押せる。これは朗報だが、同時に凶報だ。
俺たちの最大の目的はコイツを殺して戦に勝利、あるいはテラサイトを撤退させること。
そして数はこちらの方が少ない以上、時間をかければかけるほど俺たちの勝機はみるみるうちに下がっていく。
その事実に、焦りが募る。
(ゲームのように人を封印する術を俺たちは持っていない。持っているはずがない)
かといってそんなに都合よく必殺技を持っているとか、能力が開花するなんてこともまずあり得ないだろう。
俺や響さんの戦闘力は基礎があってこその物種だ。それに加えて俺は身体が軽くなっていると言うわずかなブーストがあるだけ。はっきり言ってこの場では誤差の範囲内だ。
さらに言うなら……こいつの鎧は他の兵士とは文字通り質が違った。
前回に会った時は軽装の鎧だったから抜き手も通ったが、今回は他の騎士よりも分厚く、硬い。
多少のヘコミや衝撃を与えることができるが、それはそう簡単に致命傷には至らないことと同義だ。
本来なら後衛でぬくぬくと指示をしていただろうからこれで状況的にはだいぶマシにはなったが、根本的な解決ではない以上些末な問題だ。
「こんの、いい加減打った斬れろぉ!」
痺れを切らしたのか響さんは最速、最大の威力を乗せた居合い抜きが放たれる。
まともに受け切れるようなものではなく、俺の目にも引き抜いた瞬間しか映らなかった。
だが、その一撃を黄金は防いだ。
「なん……!」
「……背後からばかりならパターンくらい読めるさ。それに君の速さにはもう、飽きた!」
「あぶっ!?」
強引に剣を振り回し、響さんを後方へ大きく弾き、そのまま俺にも追撃が向かう。
咄嗟に腕を交差し、薄いながらも土の壁を作り出した。
「小細工するんじゃない!」
「うっせぇんだよ!」
勝つための道を掴むためにプライドなんてものはない。姑息でも小細工でもなんでも利用して勝機を見出す!
剣により土壁は切り裂かれ、俺も薄皮一枚切られる。
「ち……! 少しは弱れってんだ」
「これでももらってるさ。まったく、やはり格下とはいえ雑魚じゃないな。思いの外ダメージをもらってしまったし」
格下と言うことは認めてやろう。
向こうの世界にいた黄金とは根本的に身体能力は違う。そして俺はこの男よりも弱い。
俺には響さんがいる。他にも千代さんや殿様、鉄華領のみんなもいる。
負ける気はない。
ジャイアントキリング、格下が大物を狩ることに成功している事例なんざいくらでもある。
「いい加減に、消えろ」
黄金のイラつきが最高潮に達したのか、声のトーンが一気に低くなりそのまま剣に風が纏わり、振りかぶられる。
まずい、防御を……そう考えたとき俺の前に人影が現れ、黄金の一撃を防いだ。
「主人様、お待たせしました!」
「千代さん!」
「これより私も参戦させていただきます」
「次から次へと……!」
「忍!」
千代さんは地面に煙玉を投げつけ、煙で黄金の視界を奪う。
いや、でもこれ俺と響さんも視界奪われてるんだけど。そう考えた瞬間に首根っこを掴まれて後ろへ勢いよく引っ張られた。
声も出せないほどあっという間で、一瞬意識を持っていかれるかと思ったがなんとか意識を保つ。
森の木陰に隠れるような形で黄金とは距離がとれ、俺の首根っこを掴んでいた犯人、響さんは罰が悪そうに苦笑していた。
「げほ……引っ張ったのは響さんですか」
「はは……ごめんね手荒な真似で。千代ちゃんも無事?」
「はい。煙玉を放った時点で下がりましたが、ただではありませんでした」
確かに言われた通り、彼女の脇腹には傷ができている。当然それ以外の負傷もあったが、一番新しい傷はソレだった。
だが、こうやって一度あいつの目から逃れたと言うことはなにかしら情報や俺たちの得になる情報があったということだろう。
「手短に説明させていただきます。黄金竹虎の能力の大半はあの剣によるものであります」
千代さんが言うにはあの剣を手に入れてからあいつの権力が拡大したらしい。加えて戦闘力もそれで底上げされていると。
「……死んでも生き返る方がアイツ自身の能力、かな」
「ていうと? 確証はあるの?」
「確証っては言えませんけど、あの剣を抜いて自然現象を剣に纏わせてるわけですよね? ……それに複数の能力を悪魔憑きが使えないのなら、蘇生がメインで後付けで属性付与できると考えた方がいいと思うんです」
問題は蘇生がメインであると言うことは、たとえあの剣を破壊なり奪うなりで戦力を下げても意味がないということだ。
死なない以上向こうが持久戦をすれば勝ちだ。
考えろ。俺たちができることであいつを無効化できる策を……
「厄介ね。氷漬けにでもして動きを止めてやりたいわ」
しかめっ面をして愚痴る響さんの一言に、ピンときた。
「……あ。いけるかも」
「どうしましたか?」
「今の響さんの言葉で、一つ策を思いつきました。二人ともお耳を拝借」
二人はすぐさま俺に耳を寄せ、俺も思いついた策を言う。
「……ははぁ、なるほどね」
「主人様の命であるならば、遂行します」
「納得早いですね」
あまり自信はない突拍子な案だったのだが。
「試せるんなら試すだけしてみるべきよ。どうせ他に手段なんてないんだし……私はその賭けにのるわよ。もちろん、千代ちゃんもね」
「はい」
「二人とも……ありがとうございます。それじゃ……」
この三人で、黄金をしとめますか。