六章二幕=報復=
今回は千代ちゃんです
「奇襲は成功、ですね」
木々の茂みに潜み結果を確認する。私は主人様やひび姉から言われた指示を遂行しただけだが、成功してくれて何よりだ。
「森に住む妖を刺激して誘導、簡易なれど効果的な作戦ですね」
怒りの標的を一度こちらに向け、そのまま探り当てていた相手陣地に誘導する。
単純であれど数に負けているこちらにとって相手の混乱を招けるのは絶好の好機。だからここから私が行うべき行動は……
(主人様が行動しやすいように取り巻きを迎撃すること)
口元を隠し、気持ちを切り替える。
主人様はどこか、そう考え視線を彷徨わせれば、混雑の中で主人様がすでに黄金と相見えていた。
その周囲には主人様に向かおうとする取り巻きどもが妖に阻まれている姿も確認できる。急ぎあの場に紛れて迎撃を……
「!」
ぞくり、と妙な悪寒を感じて茂みの中から飛び出し、悪寒を感じた方向に視線をやれば……
「あの時の女忍者じゃねーか。くたばってないって話は本当だったのか」
「貴様……! あの時の妖使い!」
前回テラサイトに密偵をした時、捕まった私にわけのわからぬ妖を飲み込ませて操り人形にした男がいた。
男はどこ吹く風と言わんばかりに口笛を吹き、じろじろとねちっこい視線を私の身体に向ける。汚らしい、と呟いて腰からクナイを引き抜き構える。
「おお、怖い怖い。少しは怯えてくれた方が可愛いのになぁ」
「お前の趣味に合わせる義理も道理もない」
「ごもっともで。しかし不思議なもんだね、俺がお前に憑けたモンスターは身体を破壊しながら戦闘能力を激増させるタイプだったのによく無事なもんだ」
「縁があった。それだけだ」
無駄な口論はもう必要ない、すぐに片付ける。
初速から最速で、その喉笛を掻き切る!
二メートルほどの距離を即座に詰め、そのままクナイを振り切り……
「危ないな」
「!?」
どこからか現れた小型の妖がクナイを受け、切り裂かれ転がる。
「貴様、何をした」
「モンスターを出して盾にした、それだけさ」
指が鳴らされ、さらに追加で別の妖が現れる。今までに見たことのない妖で、鼻がとても長く伸びており巨大だった。
パオーン、と聞いたことのない鳴き声をあげながらズシンと地面を踏みつけ、小規模ながら地鳴りを引き起こした。
だが問題はそこではない。
今、突如妖が何もない場所から現れたのだ。
「貴様も悪魔憑きか……」
「そ。俺自身の身体能力のなんてたかが知れてるけど、こいつは俺のモンスターの中でも特別強いやつだ。それじゃ、他のモンスターごと消え失せろ」
そう言って再び奴は指を鳴らす。
ふむ、なるほど。ならば元々このように前線に出てくるような存在ではないのか。
ならば話は早いし、解決策も見えた。
再び走り出し、妖の足下へと近づく。
「申し訳ありませんが、眠ってもらいます」
手を近づけ、触れてそのまま走り抜ける。
直後に妖はその巨体を揺らし、地面へと倒れる。
巨体とその重量により多量の土煙が舞い上がり、これで隙ができた。
「う、嘘だろ!? 俺のエレファンがなんでこんなにあっさり!」
「どれだけ巨体であろうと、生き物であれば私に御せない道理はない」
「んな!?」
背後に回り込み、数匹の蛇をその身体に噛ませた。
そしてそのまま勢いよく蹴飛ばし、倒れ込ませる。
「んな、バカな……こ、こんなに強いとか聞いてない……」
「よく聞け、貴様など主人様などからすれば羽虫にも等しい存在だ。故に今致死性の毒を持つ蛇を呼び噛ませた」
「ひっ!?」
「あの妖には罪がないので眠ってもらう程度の毒蛇を噛ませたが……お前は情報を吐けば助けてやらぬでもない」
「言う! なんでも言うから助けてくれ!」
自分の命の危険を本物と察知して助けを懇願する妖使い。
憎き敵ではあるが、情報源だ。
「なぜ黄金竹虎は死なない?」
「あ、ありゃ俺たちにも原理はわかんねぇ! でもあの宝剣を手に入れてから極端にあの人は強くなったんだ! 俺たちをまとめたのもあの力があるからで、王様もうかつに口出しできないんだ! そ、それで大臣たちも味方につけて反対する王も抑えこんだんだ!」
「なるほど。つまり貴様らの君主は戦には消極的だと」
「そうだよ! な、なぁ喋ったからもういいだろ? 助けてくれよ」
「ああ、約束であるからな」
腰布から解毒薬を一つ取り出し、投げ渡すと妖使いはすぐさまに飲み込み、毒が消えていくのを感じたのかほっと一息をついている。
向こうの王が戦に消極的なのであれば、この戦の決着方法は一つだけではなくなった。急いで主人様に……いや、ここは。
「……バカが! 隙を見せたな!」
後ろから下衆な声が聞こえる。私が背を向けたことに喜んでいるようだ。しかし。
「……愚か者が」
「ぁがっ!?」
後ろからドサリと倒れる音が聞こえる。
そして、奴はもう起き上がることはないだろう。
私がなんの保険もかけずに解毒薬をわたすとでも思ったのだろうか? だとすれば阿呆だと言わざるを得ない。
この男が奇妙な動きをすればすぐさま噛み付くことのできるよう、解毒薬を飲んでいた隙に蛇を一匹配置しておいたのだ。
「だが、今は戦だ。隙をつくのも間違いないが……そのまま眠れ」
「ぁ……が……ぃぎぃ……!?」
呻き声が聞こえるが、興味はない。
せいぜい、苦しんで死ね。
「主人様の助けになるよう、急がねば」