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迷走記  作者: 法相
五章=覚悟=
40/54

五章五幕=契=

 夢を見た。

 懐かしい、家族意外と唯一楽しく過ごせた響との生活。


『龍臥くん』


 優しい笑顔で彼女は俺に話しかけ、俺の手を握った。

 夢にしてはえらくリアルな暖かさを感じて、驚いた。そんな俺を見ておかしくなったのか、彼女は別の笑顔を浮かべて、それは心底楽しそうに笑顔を浮かべてくれていた。

 彼女のこの笑顔を、俺は本当に好きだった。

 失ってから初めて気づいたその感情は、もうどうしようもなくて、取り返しがつかなくて……自分を呪い殺してやりたいほどに悲しかった。

 彼女は気がつかないうちに俺の心の拠り所となっており、太陽だった。

 瞳からこぼれるものを我慢せずに


「……ごめんな、響。護れなくて」


 彼女の笑顔に惹かれた。

 偏見なく俺と接してくれて嬉しかった。

 俺には彼女が必要だった。だけどもう響はいない。

 とてもそっくりな人には出会えたけども、その人は別人だ。

 それにすがっている俺は、本人にも伝えたけれど最低の男だ。


『謝らないで。大丈夫だよ、私はまた龍臥くんに会えるって信じてるもん』


 そんな俺を見ながら、響はそう告げた。


『そもそも私が君に相談していても結果が変わった、なんていうことは断言できないもの』

「それでも、俺は君を護れなかったことをきっと後悔し続ける」


 俺の目の前で響は死んだ。これは覆しようのない真実で、俺が向き合わなければいけないことだ。

 響は「不器用だね」と少しだけ苦笑したけど、それが俺だから、とだけ答えた。


『……ふふ、本当に君は不器用で優しくて、あったかい人だよね。でもだからこそ私もきっと君を好きになったんだと思う』

「……はは、そう言ってくれてありがとう」


 例え嘘でも、夢だとしても、その言葉は本当に嬉しい。

 本来なら罵詈雑言を浴びていても仕方ないというのに。

 夢だから都合のいいい玄宗を見ているのかもしれないな、と自嘲するが素早く「違うよ」と思考を遮られた。


『どう思っていようと君の考えは知ったこっちゃないよ。私はただ、自分の気持ちを素直に伝えただけ。ま、自責の念があるのは知ってるけど……それでも龍臥くん、あなたは自信を持っていいの』


 自信を持て、か。気軽に言ってくれるものだけど……これが夢でも、都合のいい妄想だとしても。


「お前に言われたなら、やらないわけには行かないよな」

『それでよし! それじゃあ龍臥くん、ちょっと目を瞑って』

「ん、別にいいけど」


 言われた通りに目を閉じると、すぐに唇に暖かくて柔らかい感触がよぎった。


『えへへ。成功成功。龍臥くんは親しくなるとすぐに隙ができるんだから、そこは気をつけなよ。それじゃあ『また』ね』

「ちょ、待て!?」


 目を開けた時にはすでに響は影も形もなかった。


「……あんにゃろめ。まったく」


 思わず笑ってしまう。

 響は本当に俺の心を乱して、そして惹きつけていくのがうまいやつだ。

 ……そうだ、今回の戦は俺にとっては大義名分など何もない私怨だ。ただそこにたまたまうまく別の事情が乗っかっているだけだ。

 それでいいし、殿様や他の人もわかっているだろう。

 俺は響さんを守護って、そして黄金の奴をぶっ殺す。響への弔い合戦でもあり、今度こそ守護ってみせるための戦いだ。

 死なないカラクリがどうした、あの時も言ったがそれなら死ぬまで殺すだけだ。


「勝ってみせる」


 そう呟いて、俺の意識は現実へと戻っていった。


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