五章五幕=契=
夢を見た。
懐かしい、家族意外と唯一楽しく過ごせた響との生活。
『龍臥くん』
優しい笑顔で彼女は俺に話しかけ、俺の手を握った。
夢にしてはえらくリアルな暖かさを感じて、驚いた。そんな俺を見ておかしくなったのか、彼女は別の笑顔を浮かべて、それは心底楽しそうに笑顔を浮かべてくれていた。
彼女のこの笑顔を、俺は本当に好きだった。
失ってから初めて気づいたその感情は、もうどうしようもなくて、取り返しがつかなくて……自分を呪い殺してやりたいほどに悲しかった。
彼女は気がつかないうちに俺の心の拠り所となっており、太陽だった。
瞳からこぼれるものを我慢せずに
「……ごめんな、響。護れなくて」
彼女の笑顔に惹かれた。
偏見なく俺と接してくれて嬉しかった。
俺には彼女が必要だった。だけどもう響はいない。
とてもそっくりな人には出会えたけども、その人は別人だ。
それにすがっている俺は、本人にも伝えたけれど最低の男だ。
『謝らないで。大丈夫だよ、私はまた龍臥くんに会えるって信じてるもん』
そんな俺を見ながら、響はそう告げた。
『そもそも私が君に相談していても結果が変わった、なんていうことは断言できないもの』
「それでも、俺は君を護れなかったことをきっと後悔し続ける」
俺の目の前で響は死んだ。これは覆しようのない真実で、俺が向き合わなければいけないことだ。
響は「不器用だね」と少しだけ苦笑したけど、それが俺だから、とだけ答えた。
『……ふふ、本当に君は不器用で優しくて、あったかい人だよね。でもだからこそ私もきっと君を好きになったんだと思う』
「……はは、そう言ってくれてありがとう」
例え嘘でも、夢だとしても、その言葉は本当に嬉しい。
本来なら罵詈雑言を浴びていても仕方ないというのに。
夢だから都合のいいい玄宗を見ているのかもしれないな、と自嘲するが素早く「違うよ」と思考を遮られた。
『どう思っていようと君の考えは知ったこっちゃないよ。私はただ、自分の気持ちを素直に伝えただけ。ま、自責の念があるのは知ってるけど……それでも龍臥くん、あなたは自信を持っていいの』
自信を持て、か。気軽に言ってくれるものだけど……これが夢でも、都合のいい妄想だとしても。
「お前に言われたなら、やらないわけには行かないよな」
『それでよし! それじゃあ龍臥くん、ちょっと目を瞑って』
「ん、別にいいけど」
言われた通りに目を閉じると、すぐに唇に暖かくて柔らかい感触がよぎった。
『えへへ。成功成功。龍臥くんは親しくなるとすぐに隙ができるんだから、そこは気をつけなよ。それじゃあ『また』ね』
「ちょ、待て!?」
目を開けた時にはすでに響は影も形もなかった。
「……あんにゃろめ。まったく」
思わず笑ってしまう。
響は本当に俺の心を乱して、そして惹きつけていくのがうまいやつだ。
……そうだ、今回の戦は俺にとっては大義名分など何もない私怨だ。ただそこにたまたまうまく別の事情が乗っかっているだけだ。
それでいいし、殿様や他の人もわかっているだろう。
俺は響さんを守護って、そして黄金の奴をぶっ殺す。響への弔い合戦でもあり、今度こそ守護ってみせるための戦いだ。
死なないカラクリがどうした、あの時も言ったがそれなら死ぬまで殺すだけだ。
「勝ってみせる」
そう呟いて、俺の意識は現実へと戻っていった。