五章二幕=疑問=
心配はなさそうだね、と殿様はうん、と頷いて満足そうにしていた。
「千代もやる気満々だし……いいことだ」
「でも千代さん一人で大丈夫ですかね……」
「問題ないよ。風峰ちゃんから聞いているかもしれないけど、元は優秀な忍びだからね。ま、それに影から助けもいれるさ」
おそらくは千代さんが元々所属していた忍者部隊のことだろう。
「それじゃ、鳳くんはこのままここに泊まっていきなさい」
「え、いいんですか?」
「大怪我してたんだからこれくらいはね。それで世話は……」
「当然私がするわよ。美味しいもの食べさせてあげるわよ〜」
「ありがとうございます」
「言うまでもなかったか。それじゃあ後は若い二人に任せて僕らは出ようか」
「おう。あ、鳳」
「なんですか?」
「別にやることやってもいいけど身体に触らん程度にな」
「ちょっと黙ってなさい。この戦闘狂いが」
怒りのオーラが響さんから発せられるが、紅龍さんはなんともなしに笑っていった。
自分の方が強いから、というのもあるのだろうがもしかしたらじゃれあいの一種かもしれない。
……しかしやることとはなんだろうか。
殿様が紅龍さんの首根っこを掴み「騒がしくてごめんね」と誤りそのまま引きずって部屋を出ていった。
「ったく……」
「まぁまぁ落ち着いてくださいよ。でも傷、どれくらいで治るかな……」
「龍臥くんは悪魔憑きだから回復は早いだろうけど、まともに動くと考えたらどんなに早くても二日、それでも制限時間はあるでしょうね」
「そっか」
タイムリミットも考えれば、動けるようになるだけマシだろう。
であれば、俺が今するべきことは、休むことだけだ。
「響さん、暖かいお茶をもらえるかな? 少し緊張ほぐしたいから」
「いいわよ。すぐにいれてきてあげる」
「ありがとう。響さん」
「ん? なぁに?」
何度も、何度でも俺はこの言葉を言おう。
「絶対に、響さんを守りますから。だから、死なないでください」
「当たり前よ。死んでたまるもんですか。それとね……」
そっと響さんは俺の頬に手を当てて、真っ直ぐ見つめられる。
絹のような柔肌に触れられた頬は熱くなり、そのエメラルドグリーンの瞳に吸い込まれそうになる。
「私もあなたを守るわ。あの時みたいに、助けられるばかりじゃないから」
「響さん……」
「それじゃ、私はお茶入れてくるわね」
「は、はい」
気分良く響さんはお茶を入れにいくけれど、俺は一つ疑問を胸に抱いていた。
(……あの時っていつだ?)




