四章五幕=追憶三=
公園へ着けば、すでに黄金の奴はいた。
向こうは少しだけ驚いていたがすぐに「やぁ」と声をかけてきた。
『鳳くん、どうしたんだいこんなところに?』
『……そういうお前はなんでここにいるんだ』
『質問に質問で返すのは良くないなぁ。僕は呼ばれてきたんだ』
『呼び出したのは俺だ』
少しの間、静寂が場を支配した。
黄金の奴は作り笑顔を浮かべながら「君がってことは、聞いたんだ」と述べた。
『たまたま、だったけどな。お前が主犯っていう証拠の携帯も分捕った』
『やれやれ。面倒だな……』
『……なんで響を巻きこんだ』
『君が、僕に興味を持たなかったからさ。これでも学校では人気者の部類に入ってるんだけどね……正直プライドを傷つけられた』
『そんなくだらない理由で……響を傷つけたのか!』
静かに、怒りを込めて吠える。
そんな俺の意図をどこ吹く風と言わんばかりに「怒るなよ」と奴は言った。
『彼女は彼女で僕を袖にしていたし、他の女子との折り合いも悪かった。だから遅かれ早かれ傷つくことにはなっただろうね。だけどそれよりも……君が握った証拠はさすがに潰さないとまずいね』
パチン、と指を黄金が指を鳴らすと同時に周囲から十人ほど黒服を着た男たちが現れてくる。
身なりからして真っ当な人間じゃないだろう。とはいえ、だ。
『今、機嫌が悪いんだ。全員ぶっ潰してやるよ』
人数なんか関係ない。
相手がどれくらい強いのかも知らない。
ただ今は眼前の仇とその取り巻きをぶっ潰すだけだ。
※
『嘘だろ……』
『事実だよ、くそったれ』
十人いた黒服を一方的に返り討ちにして、唾を吐き捨てる。
一発か二発もらったけど大したダメージはない。残ったのは黄金だけだった。
すでに黄金は怖気付いて後退している。だけど逃さない。
全力で逃げ出そうとする黄金を、それを上回る速さで追いついて頭を掴み顔面を地面に叩きつける。
『ひ、ひぃ!?』
『黙ってろや、クズが』
無様な悲鳴をあげているが、おかまいなしに何度か叩きつけると泣き始めた。
黄金は『やめてくれ!』と叫んでいたが、俺はあの動画を見た。聞いた。
響は何度もやめてと叫んでいたけど、こいつらはやめなかった。
だから俺がここで手を緩めるのはありえなかった。
そして胸ぐらを掴んで思い切り一発、顔面に拳をいれる。
黄金は何度か転がり、そのまま白目を向いて気絶していた。
けれども俺の怒りは収まらない。少年院でもなんでも打ち込まれたっていい、こいつを殺さなければいけないと思っていた。
だが、それは直後に警察が来たことによってできなくなった。今となってはわからないけど多分近隣住民が騒ぎを見て連絡したのだろう。
暴れる俺を複数の警官が押さえ込んで、事態はここで止められた。
そのまま俺も警察に連れて行かれて事情聴取などを受けた後、証拠の動画やらなんやらを見せて黄金を捕まえてくれるように頼んだ。
警察もこれを見せたら、奴は被害者ではあるが別件での逮捕を受けるだろう。そう考えてのことだった。
でも……あいつが捕まることはなかった。
後々に知ったんだけどあいつの親がとても偉い人で、もみ消したということだ。
それで俺は学校を退学処分。黄金に加担していた生徒らは停学処分程度ですんだらしい。
世の中は理不尽だ、と思い知らされた。俺を少年院にぶちこまなかったのはよくわからなかったけど、絶望したのは確かだった。
唯一の身内であったじいちゃんは俺のことを信じてくれたけど、そのじいちゃんもそれからわりとすぐに亡くなった。