四章二幕=決意=
全員が泣き止み、落ち着いたところで二人には一旦離れてもらい状況を聞くことにした。
「現状は静かなもんよ。でももう猶予は少ないと思う」
「速ければ明日にでも攻めてくる可能性があるかと」
「こっちはいつ来られてもいいように準備はしてるけど、真正面からかち合ったら厳しいのが本音ね」
やはり根本的な人数が足りていないのが原因か。
全員と見知っているわけではないけど、紅龍さんが鍛えていることや千代さんのような忍者もいるわけだから個々でも戦闘能力は高いはずだ。
ただどんなに強くても、数で押されてしまえばそれまでだ。
「そういえばこっちの戦力に数えられる人間はどのくらいなんですか?」
「全員含めても三百人もいないわね。農民の人たちは自分たちも戦うって言ってくれてるけど、民の命をそんな簡単に出せるもんですか。ご先祖様たちはどうだったか知らないけど、戦いに勝ったとしても人がいなくなったら意味がないのよ。だから、戦える私たちが頑張らないといけないんだけど……」
「対するテラサイトは伊達に大国になったわけではなく、千を超える兵たちがいます。紅龍殿が殺した人間、そしてあの捕まえた隊長格を差し引いても大した痛手にはなっていないかと」
「どんどん劣勢だっていうことがわかってくるな」
それも想定した以上に。
例え俺や響さん、千代さんを百として紅龍さんを二百と見ても五百人分という楽観的な計算をしても足りない。加えてあっちにも悪魔憑きがいるわけだから実際にはその数にも満たないのが真実だ。
他に悪魔憑きの人間はいないのか気になるところだが……
「俺含めて四人しか悪魔憑き知らないんですけど、他にはいないんですか?」
「……いませんね」
「殿や頭領も人間離れはしてるけど、悪魔憑きってわけじゃないしね。雅ちゃんはそもそも旅に出たまま帰ってきてないし……」
「その分、兵の質や統制はその分とれていますが……それにも限度はあります」
「……なら、やらなきゃいけないのは戦が始まる前に今回の騒動の大元を殺して、蛮行をやめさせるってのが最善策かな」
「それはそれで問題はあるけど、一気に攻め入れられるよりは混乱させた方が勝算は上がるかしらね」
「それを理由に報復も怖いところですが……問題はあいつ、心臓を穿っても死ななかったことなんですよ」
は? と二人は揃って声を上げる。
当然だろう、人が一度死ねば生き返ることはない。それが本来の真実だ。
それにも関わらずその不可逆を可能にしたのがあの男であって、このことについて先に二人にも説明できる限りする。
二人も「ありえない」という言葉を発して舌打ちをする。
美人二人の舌打ちとか怖いなオイ。
「心臓潰して動けるとか反則でしょ……私が見た時には目が一つ潰れてただけだったでしょ?」
「ですね。おまけに四つの能力持ってるみたいだったし……」
「それはありえませぬ! 悪魔憑きの力は一人につき一種類のみです。今までそのような前例はありませぬ」
「じゃあ死んでも生き返るし、風や炎、雷を使う奴が一般人か?」
「ないわね。あるにしても何かしらのカラクリがあるんだろうけど……見当もつかないわね。殿にもこれは報告しないと」
「ですね。一度私が報告してまいります。主人様が目を覚ましたのもご報告せねば」
「あ、お願いしていいの? 私は龍臥くんを見ておきたいから」
「もちろんです。報告したらすぐに戻ります」
素早い身のこなしで千代さんは部屋から出て行き、部屋には二人だけとなった。
「……忍者って動き早いねぇ」
「あれで十五なのよね、千代ちゃん」
「十五!?」
そういえば年齢聞いてなかったけど、元の世界に十五であんなしっかりとした……いや、ちょっと抜けてる気がしなくもないけど。
「天然なところはあるわよね。でも、ほんとにいい子なのよ……」
「それはよくわかりますよ。俺みたいな奴にでも一生懸命世話してくれたり」
「龍臥くんだからよ。あの時、蒼ちゃんを連れ去っていってたら……あの子はあの妖のせいで身体も壊されて、精神も壊れてたと思う。だからあの子を助けてくれてありがとう」
「最初は殺すことも考えてたから結果論ですよ」
千代さんが響さんを傷つけたのは事実で、俺は本気でそれを許さなかった。けれど姫さまから二人の幼馴染だって聞いたから殺さないように頑張っただけだ。
そう言うと響さんは「そこで頑張ってくれたおかげで今があるんだから素直に褒め言葉は受け取りなさい」とデコピンされる。
「……私ね、最近夢を見たの」
「夢ですか?」
「うん。私はすごく弱くて男たちに囲まれてたの。それを顔は覚えてないんだけど助けてくれた人がいて……寺子屋みたいなとこでその人と一緒にご飯食べて……」
「へぇ」
どこかで聞いたような話だ。
「私にはね、その人が龍臥くんみたいに思えたの」
「俺より強いのにですか?」
「力じゃっとても敵わないわよ。私はあくまで速いだけだから」
ぎゅっと手を握られる。
「正直ね、君が来てなかったら最初に出会ったあの日はともかくとしてそれ以降の出来事、私や紅龍だけじゃどうにもできなかったの。千代ちゃんもああいうことがあったから戦力も減って、蒼ちゃんも連れ去られてた」
「そんなこと……」
「あるわよ。実際操られてた千代ちゃんに私は動けなくされたわけだし……そうしたらあっという間に攻め滅ぼされていたでしょうね。だから、本当にありがとう。今みんながいるのは龍臥くんのおかげなの」
「そう言われると、照れますな……」
褒め言葉にはどうにも慣れない。
「龍臥くん? 顔真っ赤だけど大丈夫?」
「だ、大丈夫です」
これだけ信頼されていると言うのは、身内以外ではきっとあの娘だけ。
……黄金の奴が出てきて、そして奴の中身も垣間見えた以上ただの因縁としてだけ片付けるのはよくないな。
「響さん」
「何?」
「お話ししたいことがあります。できれば千代さんも一緒に聞いてほしい」
俺が響さんを守りたい理由を、しっかりと教えよう。そして謝ろう。
響さんも察してくれたのか「わかったわ」と言ってくれた。