三章七幕=幕間=
「逃げられたか……チッ」
まだ視界は回復しないし、戦闘損か……
それにしてもあの女は、どこかであったような……今ではなく、遠い昔にだろうか。
いや、それはありえない。僕はテラサイトで生を受けて、そして育った。
その過程であんな女にあった記憶は、ない。
しかし一応あの女の情報はある。
赤い髪にあの鋭い目つき、先日捉え損ねたという向こうの姫君の幼馴染であり将である風峰響であることは間違いないだろう。
僕自身が出会ったのは今日が初めて、それは間違いない。
だというのに……なんだこの感覚は? デジャビュ、というやつだろうか。
(まったく、面倒だ)
そもそも彼らが僕らに領を明け渡せばこんな風にことを荒立て、無駄なリスクや犠牲が出なかったというのに。
「僕の手駒も減るし、ろくな目にあわないな」
やだやだ、とぼやきつつ僕の要求を聞き入れない生意気な国を滅ぼすために兵を動かさなきゃいけない。
「……ある程度の収穫はあったからまるっきりマイナスってわけじゃないけど、一週間後には攻め滅ぼすか」
兵糧や人員の再編成、やることはまだまだだある。
それに……あの姫様は気に入っている。
「必ず、僕の物にしなきゃね……」
あのすらっとした体つき、雅な物腰、そして……気高い眼。
どうしても手に入れたい。そのためになら、あの国を滅ぼすのも多少の犠牲が出るのも問題ない。
そして僕にはそれができる能力がある。手に入れなければならない。
さぁ、宴の準備だ。