三章五幕=ざわめき=
「一体君はなんなんだい?」
なんなんだ、と言われればこう答えるしか無いだろう。
「さぁな。強いていうなら……復讐者ってところだな」
俺は忘れない。こいつがしたことを、響を傷つけたことを……絶対に忘れないし許さない。
本質が一緒である以上、こいつはあの黄金竹虎と一緒だ。
ならば復讐しかない。この復讐を遂げなければ、俺は先へと進めない。
拳を握り直し構えを取る。
黄金は腰につけている長剣を抜き出し、慣れた動作で構える。
向こうも俺を殺す気になってくれたらしい。これは嬉しい話だ。
「君は死ぬ。確実に殺す」
「それは俺の台詞だ」
互いに殺気を放ち、踏み出した。
大ぶりの一閃、すんでのところでかわしてカウンターの拳を叩きつける。
顔面にヒットし、一瞬だけよろめいた。
その隙を逃さず乱打。長剣には触れないようにして鎧のない場所に攻撃する。
しかしさすがはと言えばいいのか、反撃されるのも早かった。
鋭い蹴りが胸元に叩き込まれ、大きく背中から倒れて転がる。
すぐさま横に身体をひねり、直後に長剣が突き刺さる。手に砂を握りそのまま投げつけた。
「ぐ!?」
一瞬だけ視界を奪った。
千載一遇の好機! すぐさま土を利用して黄金を拘束した。
「もらったぁ!」
起き上がり、全力の殺意を込めた抜き手を胸元に突き刺す。
血しぶきが俺にかかった。
※
「おや、ひび姉」
「あ、おかえり千代ちゃん」
一足早く森の入口で戻って休んでいると千代ちゃんが何者かを抱えて戻ってくる。
龍臥くんを影から護衛するってえらく喜んで言ってたから単身で戻ってくるとは思ってなかったので少々驚いた。
「龍臥くんはどうしたの?」
「は、主人様よりこの男を尋問するために先に連れて行けと言われましたので連れてきました」
「へぇ。て、こいつこないだ私らを襲ったテラサイトのやつじゃない」
龍臥くんと最初に会った時にすぐに私を捕まえにきたのがこいつだ。しかしまだこの辺りをうろついていたの……ご苦労なことね。
「それじゃ龍臥くんもすぐに戻ってくるわね」
「と思いますが、一応この男をここに放置して迎えにまいろうと思います」
「私も行くわよ。せっかくだし三人でこいつを殿のとこに……」
なにか大きな音が聞こえ、鳥たちがざわめいて飛び立つ。
「……千代ちゃん、予定変更。そいつを連れて先に城に。私は龍臥くんを見つけて帰ってくるわ」
「な、それなら私も」
「千代ちゃんはまだ病み上がりよ。それにいざという時私なら龍臥くんを連れて最速でもどってこれる。だから、お願い」
私の雰囲気が変わったのを悟ったのか、とても悔しそうな顔を浮かべたが、すぐに意図を読んでくれたのか千代ちゃんは少しの間黙り「わかりました」と答え、すぐにこの場を離れた。
……ごめんね、千代ちゃん。今の言い方じゃ言外に足手まといだと言ったも同然なのに、ぎゅっと我慢してくれて。
「帰ったら、いっぱい謝らなきゃ」
そう呟いて、私も音の中心地に向かって走り出した。