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迷走記  作者: 法相
三章=邂逅=
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三章三幕=模擬戦=

 翌日、城の敷地の一部を借りて陣幕が貼られた場所に俺は立つ。

 向かい側では紅龍さんが様な人を相手にし、腕一本でさばいていた。

「相変わらず馬鹿げた戦闘力だわ……」

 俺の隣では響さんが呆れた、と言わんばかりにため息を吐いている。

「というか龍臥くん本当にいいの? アレと戦うって。龍臥くんは能力使ってもいいけど……」

「はい。勝手に話進められたのは確かですけど……一つだけ確かなこと言われましたし」

 今後の戦いで戦力になるか否か、鉄華城最強の彼から見ればとても大事な責務の一つだとは思う。これにかこつけて戦いたい、というのもきっと理由にはあるのだろうが。

 それに、これを断って後々に響くのも避けたい。

 という考えで昨日、城に戻った際に殿様に告げて彼も了承してくれた。

 腕試しにもなるし、周りを見ればたくさんの人々が見学に来ている。この試合を見るためにやってきたらしいが……情報が出回るのはやすぎだろ。

「みんな娯楽が好きなのよ。察してあげて」

「あ、はい」

「でも本当に気をつけてね? あいつあんなんだけど強さ自体は本物だから」

「わかってます。昨日のアレを見てたら……」

 昨日の光景を思い出す。

 単身でテラサイトの騎士たちを殺し、その鎧を簡単に貫通させていた。

 その結果があの血まみれ姿だったのだろうが……

「主人様、此度の試合は武具は禁止なのですが……主人様には関係ありませんでしたね」

「うん。元々素手でやるタイプだからね」

「はい。ですが武具が必要な時がございましたらいつでもこの千代にお申し付けを。ある程度のものであればご用意できますので」

 にっこりと笑顔で言うが、さらっとこの子すごいこと言わなかったか?

「忍者って武器の類をけっこうもってるのよ。鉤縄やクナイ、手裏剣、短刀とか」

「ある程度の局面に対応せねばなりませんから」

「うーん、忍者さすが」

 今言われたものは一通り男の子として興味がある。実際に扱えるかは別として。

「と、そろそろ時間か」

 向こうもウォームアップを済ませ、すでに中央に立っている。

 お相手をしていた人たちもすでに見物席に移動している。

「っし、やりますか」

「龍臥くん、怪我はしてもいいけど死なないようにね」

「いざとなれば私たちが間を割ってでも止めに入りますから」

「待って。どんだけぶっ飛んでるの向こうさん?」

 さすがに命を奪い合う前提とかおかしいんだけど。

 そんな俺の考えを知ってか知らずか、二人も俺を心配そうに見ながら見物席に移動し、俺も不安ながら中央へ行く。

「よう、坊主。昨日ぶりだな」

「は、はい」

「そんなに緊張すんなよ。お前、喧嘩の類は得意だろ?」

「……何を根拠に?」

「大将にもお前の話は聞いた。あの騎士連中を殺さずに倒したとか、忍者娘を一人で止めたとか。悪魔憑きのあの娘を一人で止めれるなら十分すぎるくらいに度胸は座ってるし、強さもあるんだろ」

「じゃあ今日の戦いの意味って」

「俺の趣味と、肌でその実力を味わうってのが目的だ。お前の元いた場所ではそういうのなかったか?」

「あいにくと戦争とかには縁遠い国だったのでそこまでは」

「平和だな。んじゃ、無駄話もなんだ……やろうぜ」

 ニィ、と歯をむき出しにして勝気に紅龍さんは笑う。

 瞬間、嫌な気配を悟ってとっさに俺は右腕を上げた。

 それと同時に俺の身体はたやすく吹き飛び、一気に数メートルほど吹き飛ばされた。

「おお! いい勘してるじゃねえか。見た目の割にゃいつでも臨戦態勢ってことか」

 楽しそうに言う紅龍さんの右足は浮いている。

 両腕でガードしたからよかったが、今の一撃をもろに受けてたらやばかった。

「物騒な挨拶だ」

「その挨拶を止めたんだから、お前もなかなかじゃねえか。それじゃ、本格的に行こうか!」

「上等!」

 拳と拳をぶつけ合い、後方へ押されたのは俺だった。

 尋常じゃないパワー、能力はないと聞いていたがこのバカ力は……!

「にゃ、ろお!」

 勢いそのままにバク転、さらに地面に手をつけて土を隆起させる。

 足場が悪くなれば必然的に動きは制限されて、隙をつきやすくなる。

 そして俺は自分で土を操れるから、分はこっちにある!

「これがお前さんの能力か。ま、悪かねえが……少し俺を甘く見た……な!」

 拳が振り抜かれ、巨大な土の塊が俺に襲ってきた。

「はぁ!?」

 とっさに横へ回避するも、その間に見失う。

「この程度で驚くんじゃねえぞ!」

 一瞬の隙を突かれ、俺の想定とは違う形で接近を許してしまう。

 というかいくらなんでもおかしいだろ! 固まっていたとはいえそれを砲弾のように武器にしてくるとか普通は考えない。

 小石などで狙われるならわかるが、あれは想定外だ。

 回避は間に合わない。ならば、

「お、らぁ!」

 横へ勢いをつけての肘打ち。

 紅龍さんの拳とぶつかり合い、なんとか直撃は避けるものの今度も吹っ飛ばされる。

 なるべく派手に転げて威力を逃すが、なんというか劣勢だ。能力をこっちは使っているにも関わらず押し負けている。

 対する彼は「いてえじゃねえか」と拳をぶらつかせつつも、楽しそうだった。

「なるほど……戦闘勘もいいし、直撃も未だになしか。思ったよりもいい客将を連れてきたな、風峰の嬢ちゃん」

 見物席にいる響さんに話しかける。

 わかりやすい隙だ。これも俺に仕掛けさせるための陽動なんだろうが……

「そうよ! だから下手なことしたらぶっ殺すわよ紅龍!」

「毒でじわじわと殺しますよ!」

「こわっ!?」


 その陽動に、のらせてもらおう。


 全力で踏み込み、あちらが振り返る前に最大の一撃を食らわせる。

 狙うは、鳩尾!

 人体急所をまともに受ければいかにこの屈強な男とて、ダメージが出ないはずはない!

 そして蹴りが入った、かに思った。

「惜しかったな、坊主」

「……!」

 だが、鳩尾と俺の足の間には手が差し込まれており、俺の蹴りは止められていた。

「なん、で俺が鳩尾狙うと……」

「俺の中での確率だな。頭ってのは当たりゃ致命症にもなりやすいが、よっぽど実力差があるならまだしも狙って当てにくいだろ? それ以外での当てやすい急所って言ったら金的。でもそれも警戒されるから……まぁ鳩尾あたりなら範囲広いからそこを狙うわな」

「……お見事で」

 足を握られてしまい、俺は動けない。というか、あっちが足をつかんでいるから動き卯ようがないと言うのが正しいのか。

 俺は握られた足から持ち上げられ、そのまま叩きつけられた。




「完敗だぁ……」

「いや、大したもんだぞお前さん。俺もまだまだ精進しなきゃな」

 試合終了後、俺は地面でぼやいた言葉を紅龍さんが拾ってくる。

 清々しいまでに完敗を喫したのにまだ精進するとか言うとか、この人は上昇志向が強いようだ。

「世辞はいらないですよ」

「本音だっつうの。いやぁ風峰の嬢ちゃんもほんとおもしれえ奴を連れてきたもんだ。なぁもう一回名前聞いていいか?」

「鳳龍臥ですけど……」

「鳳か。ほれ」

 すっと手を差し出され、俺も自然にその手を取って起き上がる。

「ありがとうございます」

「堅苦しいのは無しだ。これから頼むぜ、鳳」

 にぃ、と今度はさっぱりとした笑顔。

 ああ、こう言う人なんだな。何事も綺麗に割り切れて、そして楽しむときは楽んで、仕事は仕事と割り切れる。

 だから今この人は、素で向かい合ってるんだろう。

「どうぞこれからよろしくお願いします」

「だから堅苦しいのはなしだって。ま、今度気が向いたら組手でもしようや。今後も素手だけじゃ厳しいだろうからよ。訓練くらいなら付き合ってやる」

 それじゃあな、と去っていく。

 それとすれ違いに響さんたちも俺の方へやってきた。

「大丈夫龍臥くん!? けっこう派手に叩きつけられたけど」

「ええ。大丈夫ですよ。なんだかんだで向こうも手加減してくれたみたいですし……」

 そうでなかったらおそらくミンチ状態になっているだろう。

「主人様がご無事なら何よりです。どうぞ、こちらお飲物にございます」

「ありがと」

 竹筒を渡され、中に入れられた水を飲み干す。

 うん、身体に染み渡っていくのが感じられていいな。

「それじゃ、今日は帰りましょうか」

「そうね。今日は頑張ったし、精のつくものでも食べましょうか」

「ならば私は川へ行って鰻でも取ってまいりましょうか。蒲焼はひび姉得意でしょう?」

「鰻! いいのそんな高級品!?」

「? この辺じゃ普通に取れるわよ」

「主人様の世界ではそんなに珍しいものなのですか?」

「そうだね……消費税とかのせいで余計に高く感じられる、高級品だった」

「「しょうひぜい?」」

 二人揃って首をかしげる。

 俺の世界の話だからこの二人に言ってもそりゃ通じないか。

 ともあれ鰻が食べれるのは予想外の僥倖だ。それから三人で川に行って鰻を乱獲した。


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