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迷走記  作者: 法相
三章=邂逅=
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三章一幕=妖退治=

「龍臥くん、起きなさーい」


 ぺしぺし、と顔を軽く叩かれる感覚に気づき瞼をこすりながら目を開けると、太陽のように明るい笑顔を浮かべる響さんがいた。


「ん……おはようございます」

「おはよう。千代ちゃんが張り切って朝ごはん作ってるから三人で食べましょ」

「了解です……」

「ほら、しゃきっとしなさい。うりうり〜」


 響さんは俺のほっぺたをつかみ、優しく上下に伸ばしていじる。

 寝ぼけていた頭がどんどん響さんの手のやわさで覚醒されていき、今の状況に気づいて顔が熱くなった。


「な、なにしてるんです!?」

「スキンシップよ? でも完全に目が覚めたみたいでよろしい。ほら早く」

「あ、はい……」


 呆気にとられる俺に対し、響さんは何事もなかったかのようにして朝食に促す。

 少しドギマギしながらも、顔をひっぱたいて気持ちを切り替える。

 ……でもやわっこくて気持ちよかったな。

 て、違う。

 布団から抜け出し、響さんとともに食卓へと赴くと人数分の朝食が用意されていた。激盛りで。


「主人様、おはようございます。不肖、この千代が朝食を作らせていただきました!」


 そして、その料理を作った張本人である千代さんが割烹着を着て元気よく挨拶をしてくれた。


「お、おはよう。すごいねこの料理……」

「お褒めに預かり光栄です!」

「千代ちゃん、料理の腕あげたわねぇ」

「ありがとう。ひび姉ほどではないけど……」

「こんだけのもの作って言う? ま、褒め言葉はありがたく受け取っておくわ」

「それじゃあ」


 それぞれ適当に座り、手を合わせる。


『いただきます!』


 合掌して朝食を食べた。そして、めっちゃ美味かった。




「で、今日は依頼って聞いたけど……」


 朝食を終えた後、俺たちは雑談を交えつつ領内にある畑までやってきた。

 ざっと見ても一キロ四方は畑だ。土の質もいいようだし、いい作物がとれるだろう。

 しかし、一部は荒らされていた。

 どうも見た限り、人為的ではない。


「妖が畑を襲ってるらしいから、その妖退治ね」


 腰の刀に手をかけ、響さんは周囲を見渡す。


「そういえばこの間は出くわさなかっただけで、ここ妖が住んでるような土地でしたね」

「ええ。でも今回龍臥くんを連れてきたのは、いい加減私の実力も見せたほうがいいと思ったからよ」

「え」

「守ってくれる、ていうのはすごく嬉しいんだけど、正直言って私は守られるばかりの女になるのは嫌。それに私、こう見えても強いのよ。というわけで千代ちゃん、お願い」

「了解」

「!?」


 音もなく背後に千代さんが移動していた。

 そしてその直後、両腕の両足の関節を外された。


「ってなんで!?」

「今回はそこで見ててもらうためよ。千代ちゃん、久しぶりに一緒に暴れましょうか」

「背中は互いに、ですね」


 そゆこと、と言うと二人は拳を合わせて前方に視線を向けた。

 ……ところで千代さん、一応主人様って呼んでくれているのにこの仕打ちはひどくないでしょうか?


「申し訳ありません! ですがひび姉の気持ちをわかっていただきたく、このような手段をとりました。罰は後ほどお受けしますので今はご容赦ください」


 なんか泣きそうな声を出してるので、深くは言うまい。

 と、言っているうちに足音が聞こえてくる。

 ……なんか、すごい大きい足音だな。距離はまだ離れてるはずなのに、重さがすごいというか。


「数は……三匹ね」

「取り巻きの二匹は私がやるからひび姉、大物は任せます」

「もちろん。悪いわね大物を譲ってもらって」

「お気になさらず。まだ身体が痛みますから、こちらこそ軽い方でごめん」

「それこそ気にしないで。今日は慣らすくらいの感覚でね。と、おいでなすったわね」


 子供のようにはしゃいだような声で響さんは獲物がくる方を見る。

 俺も唯一動く頭を上げて、同じ方向に視線を移す。

 響さんの言った通り、三匹の妖がそこにはいた。


「……あれがあのピエロとは別の妖か」


 見た目は猪のようだが、サイズが違う。

 軽く見ただけでも小さい方で、三メーターはあろうかという体格だ。

 さらに言えば、眼が赤いし、腹部からは牙のようなものが突出している。なんだろう、サイのツノみたいにあれも毛が硬質化したもんなんだろうか。

 けれど、そんな猪たちも可愛く見えるような大物が二匹の間に立っていた。


 見るからに肥大化した体躯、それを支える強靭な四本の足、枝分かれした二股の牙。

五メーターの体格、そして見るからに邪悪な気配を纏っていた。


「おいおい……あの騎士連中よりよっぽど厄介そうな相手だな」

「無問題よ」

「で、ござる」


 二人の空気が変わった。

 殺気すら感じないほどに静かな空気をまとい、俺の視界から消えた。


『ブギィ!?』


 直後に一匹の猪は両目を潰されていた。

 それから間髪入れずに千代さんの姿が現れ、あの時俺に使ったクナイを心臓の場所に突き刺した。


「まず、一匹」


 妖はその場に崩れ落ち、相方を失った同格の妖が千代さんに襲いかかろうとするがすぐに脳天に数本のクナイが突き刺され、同じ末路を辿る。


「これで二匹」

「嘘だろ……」


 いや、千代さんが強いのは昨日の時点で知ってたけど、正常な精神状態だったらここまで強いのか。


「あれ、でも響さんは……」

『ブモォォオオオオオオオオオオオオオ!?』


 一番でかい妖が悲鳴のような叫びをあげる。

 見れば、いつのまにかその強靭な身体に傷が多数つけられていた。

 そしてわずかな間を空けて、また一つ、また一つと傷が増えていく。


「これは……いたぁ!?」

「関節を戻しました」

「あ、ありがとう……でも急にはやめてね。痛い……」

「すみません主人様……」

「ガチヘコみしなくていいから。でも、こりゃ」

「はい。ひび姉がやっています。ひび姉は強いですよ」

「う、うん。正直想像以上だった……」


 速すぎて眼が追いつけない。いや、千代さんもすさまじく速いんだけど、それよりも速いというのは感覚的にわかった。


「いよいしょお!」

『ゴガッァああああああああ!?』


 牙の一本が、真っ二つに切り裂かれる。

 まじか、腕力も俺よりもよっぽど強いんじゃ……


「どう、龍臥くん? 私もやるでしょ」


 俺の目前に現れ、肩に刀を乗せて自慢げに笑っていた。


「すごい、ですね」


 圧倒的強者感がすごかった。

 というか、これはもしかしなくても……


「響さんも」

「そ。悪魔憑き。騙してたわけじゃないんだけど、言うの遅れてごめんね」

「いや、それは別にいいんですけど」

「ありがと。それじゃ、始末するわね」


 にこ、と微笑み物騒な一言ともにまた姿を消す。

 そしてその直後に、大将格の妖の胴体は真っ二つに切り裂かれた。

 今度は悲鳴も上げず、いや、あげる暇もなく妖は完全に沈黙した。


「これで依頼完了、ね!」


 ブイ! と元気に勝利のVサインをする響さん。

 まじかこの人。かなり強い。


「俺がいなくても、これ戦とかどうにかなるんじゃ……」

「ならないわよ」

「なりませぬ」


 同時に言われてしまった。


「この手の妖はもうずいぶん昔から相手してるから対策や要領がわかってるからすんなりいったけど、人相手じゃそうはいかないのよ。戦は数も重要だしね」

「加えて向こうにも悪魔憑きはいます。故に一人でも強い戦力は必要です」

「それに龍臥くんも今の妖くらいなら倒せるでしょ?」

「いや、やりあってないからなんとも言えないけど……まぁあの騎士連中よりは手間取るでしょうけど」


 それよりこの二人が圧倒的すぎたから自分の実力に不安が出てきた。

 でも、それでも俺がやることは変わらない。


「響さん」

「なに?」

「響さんがすごく強いのはよくわかった。正直俺よりも強いと思う。でも、あなたを守るってところは変わらないから」


 真面目に真剣に、しっかりと見つめて伝える。

 少しぽかんとしていたが、響さんはすぐに笑って俺の肩に手を置いた。


「もちろん、龍臥くんがそういう意思なのは知ってるからそこにどうこう言う気はないから安心して。最初に言ったと思うけど、私はしっかりと、私の実力を見てもらいたいっていうのが目的だったから。それに、安心したわ」

「安心、というと?」

「うん、龍臥くんはやっぱり信頼と信用に値する人だって。頼りにしてるから、今後もよろしくね」

「……! はい!」

「よし! それじゃこの妖たちの死体を片付けるわよ。今後もこういう依頼は来るから慣れてもらうためにもしっかり働いてね! わからないことがあったら私や千代ちゃんが教えるから遠慮なく聞いてね」

「うっす!」


 それから俺たちは妖の死体を片付けを始め、片付けを終えると畑の持ち主の人たちと一緒に昼ごはんを食べたりして、依頼を終えた。


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