二章十二幕=新たな住人=
「さて、それじゃあ千代ちゃん。今日から家に住みなさいよ?」
「御意」
城を出て数分後、なぜか唐突に千代さんも響さんの家に住むことが決定した。
「いやちょっと待ってどういうこと?」
「簡単な話よ? 私は二人の世話を任せた、って言われたんだから二人ともめんどう見るってだけよ」
「いやいやいや!? 健全な男子いるとこにさらに新しく女性の入居者って!?」
ありえないでしょ! 間違いがあってからでは遅いんだよ!?
そんな俺の様子を見て響さんは「いや別に大丈夫でしょ」と何事もないかのように答えた。
「私は千代ちゃんを妹同然に見てるから家に住まわせるの抵抗ないし」
「いやでも男が一緒なのは千代さんも嫌でしょ」
「私は大丈夫です、主人様」
「なんて?」
ちょっと何言ってるのかよく聞こえなかった。
今この娘、なんて言った?
主人様、とか言ってたように聞こえたんだけど。
「ごめんけど、もっかい言ってもらっていい? 今俺のことなんて言った?」
「主人様、です」
どうやら聞き間違いじゃなかったようだ。
じゃなくて、どういうことなの。
「殿もおっしゃられた通り、この高垣千代。鳳様の配下になりましたので、それにふさわしい呼び方をと思い……」
「いやいや俺そんな大層な人間じゃないから! 普通にタメ口でもいいから!」
「そういうわけにはいきませぬ! 夜伽のご命令などもございましたらご遠慮なくお申し付けください」
「夜伽?」
「性的な奉仕をしてくれるって思っていただければ」
「な!?」
「おー顔がすごい真っ赤になってるわね。千代ちゃん、からかっちゃダメよ?」
「ひび姉、私はいたって真面目なのですが……」
少々不満そうに千代さんはほおを膨らませているが、俺はそれどころじゃなかった。
……これから先がどうなるか、不安になってきた。
それに、まさかあいつの面を人相書きでとはいえまた見ることになるなんて、想像もしていなかった。
因縁が、また一つ繋がったとでも言うべきか……
(戦となる可能性が高いのは、今回の千代さんの件でもわかった。やることは変わらないけど、さらに気を引き締めたほうがいいな……)
ちらり、と千代さんと戯れる響さんを見る。
彼女は笑顔で千代さんをなで、本当に嬉しそうだった。
この笑顔を、今度こそ守ってみせる。
力強く拳を握りしめて、再び誓った。