二章十一幕=明かされる敵=
やっとボスキャラの名前出せました。
「君と一緒に行った二人……悟と五代は殺された。この時点で君は機密を守るために自害を選ぶ道もあったはずだけど。拷問を受けるときには自害できないようになにかかまされていたかもだが、その辺はどうなんだい?」
「……おっしゃる通りです」
千代さんは深くうなだれ、肯定の言葉を紡ぐ。
「理由を、きちんと聞いておこうか」
「……私は、生きて帰りたかった」
震える声で、彼女は言葉を紡ぐ。
「姫や殿のことを考えれば、あそこで機密を守ったまま自害した方が良かったのでしょう。それは、鉄華領全体で考えても同じことでした」
ですが、と彼女は少しだけ間を開けた。
「姫やひび姉と、また過ごしたかった。しかしそれが今回のような事態を招いてしまったのは紛れもない事実です。いかなる処罰も受ける所存です」
「いい覚悟だ」
殿様は立ち上がり、ゆっくりと千代さんの元まで向かってくる。
その右手は、腰につけている刀の柄に置かれていた。
とっさに俺も立ち上がり、急いで二人の間に割り込んだ。
「……どいてもらえないかな、鳳くん」
「どきません。どいたら、千代さんを斬るでしょ」
そうしてもおかしくない気配を晒し出していた。
この事態には殿様の後ろで姫さまも驚愕して目を丸くしている。
「なに、しようとしてるのかしら」
そして俺と千代さんの後ろでは、かなり冷えた声の響さんの声が響いた。
殿様相手にこの人は何やっているんだろうかとも思わなくもないが、それは俺も人のことをいえたことじゃないので置いておく。
「殿様、なにも知らない人間である俺がこんなことを言うのは勝手だと重々承知の上で言わせていただきたいのですが……彼女はこの先、戦力としても、姫さまのためにも必要となるはずです」
偽らざる本心を、ただ強く言い切る。
まず彼女から話を完全に聴き終えていないし、姫さまや響さんの精神面に大いに影響を与える存在をただ殺してしまうのはきっと間違っている。
無論、殿様の立場を考えてみれば千代さんに刑罰を与えなきゃいけないのは仕方のないところであるのは理解している。
それでも、内部事情をきっちりと把握していないが故にまだ客観的に見ている(と思いたい)俺の発言を少しでも聞き入れてもらえればいい、という考えはある。
静寂の時が流れる。
どれくらいの時が流れただろうか、体感的には五分にも十分にも感じられる。
ふぅ、と殿様は息を吐いて刀から手を離した。
「千代」
「は、はい」
「よかったね。君はこれだけ思われているんだ。二人に感謝しなさい」
「……つまり、殿様」
「最初から斬る気はないよ。最初らへんに言ったと思うけど、話しが終わったら鳳くんに抱きついていいって約束してるんだし」
そこ関係あったのか。
でも、助かった。
「よかったぁ……」
「ただことをはっきりさせとかないといけなかったからね。それと処罰も……千代、君にはしばらく忍びの仕事をさせない」
「はぁ!? どういうことよ殿!」
「風峰ちゃん、話は最後まで聞きなさい」
尊厳のある一声で、響さんは口を閉じる。
「千代は客将である鳳くんの配下につき、以後彼の指示に従い、世話をしろ」
「と、殿……!」
「大事な任務だ。配置換えとも言うけど。頭領には僕から伝えておく」
「……はっ! 高垣千代、この命に代えても鳳さまのお命を守りまする! そして……」
今度こそ道を違えない、そう千代さんは断言した。
そして、すぐに泣きはじめ……響さんと姫さまがそばにより、慰めていた。
「女子の友情は麗しいね……」
殿様も優しい微笑みを浮かべ、俺に向けて人差し指を自分の口元につけた。
落ち着くまでそっとしておこう、という合図なのはすぐにわかり、反対する理由もなく俺たちは千代さんが泣き止むまで三人の姿を見守っていた。
十分もした頃だろうか、千代さんは泣き止み響さんは持っていた水筒を差し出し、彼女はそれを受け取り水分摂取する。
「ありがとう、ひび姉……」
「気にしないの。それで落ち着いた?」
「はい。お見苦しいところを失礼しました」
「千代、見苦しいことなんてないわよ」
「そう言っていただけたら幸いです。それで、姫と結婚をしようとしている相手の情報はつかめました」
「でかした! どこのどいつだ……人相もわかるかい?」
「もちろんです。紙の方をいただきますね」
「ほら、これ」
殿様から差し出された紙を受け取り、器用に相手の人相を描いていく。
そして、その人相に俺は驚かされた。
この人相書きの人物を、俺は知っている。
「この男になります。名前は」「
「黄金竹虎……!」
え、と千代さんの視線が俺に向く。
「鳳殿、この男を知っているのですか?」
「……こいつそっくりな男を知っている、ていうだけさ」
「ですが名前まで正確に知っているとは……」
同姓同名かよ。おぞましいにもほどがある。
違う世界とやらに来て、それで因縁ある相手がここにいた。
そして、そいつが今回の騒動の原因と来ている。
「昨日きたばかりの君が相手のことを知ってる……驚きだな」
「同一人物という保証はないんですけどね。それにしてもこうも似ていると……」
殺意が湧く。
それほどまでに俺はこの男に嫌悪感を抱いている。
「……今日はここまでにしよう。二、三日中に連絡を送るから、風峰ちゃん。君は二人の世話を任せる」
「あ、わかりました」
「それと鳳くん」
「……はい」
殿様は真剣な顔で俺の肩を掴み、引き寄せて耳元で囁いた。
「千代が本音を晒せたのは、たぶん君のおかげだ。ありがとう」
「……いえ」
「それと……君には今後辛い選択を迫ることが多々あるかもしれないけど、すまない」
俺は最後の言葉に、なにも返すことができずに二人とともに部屋を後にした。