二章九幕=和解=
二人で牢に向かい始め、俺たちは城の地下の方へと下っていった。
牢とは聞いていたが、まさか地下牢だったとは。
「昔は使っていたらしいけど、ここしばらくは本来の目的で使うことはなかったわね」
「他には使ってたんですか?」
「いたずらした罰で四人揃ってここに閉じ込められたわ」
微笑ましい思い出だった。
とはいえそんな場所に、本来の意味で牢屋に入れられてしまった千代さんはどうしているものか。
「……元気ってことはないでしょうね」
「そうね。千代ちゃんの性格からするとかなり落ち込んでるはずよ」
すごい真面目だから、と響さんは付け加える。
そして一番奥の牢屋で、腕に手枷をはめられ壁に力なくもたれかかってうなだれている千代さんを見つけた。
俺たちに気づいたのか、千代さんはゆっくりと顔をあげる。
「ひび姉……」
力ない声で、生気を失った瞳で響さんを見つめる。
「……千代ちゃん、ひどい顔よ」
「放っておいて、くれませんか……」
「嫌よ」
感心するほどの即答だった。
やれやれと言った様子で響さんは空いている手で頭をかき、彼女に話しかけた。
「あのね、私は気にしてないわよ? こうやって無事に生きてるし千代ちゃんも生きていてくれて……」
「私は、ひび姉を傷つけるくらいなら……向こうで殺されてた方がましでした」
「千代ちゃん」
千代さんの言葉を聞いた瞬間、暖かい声音で響さんは口を開いた。
「そんな悲しいことを言わないで。私はさ、蒼ちゃんや千代ちゃんをほんとの妹みたいに思ってる。だから、そんなこと言われるとすごく悲しい」
「……だとしても、私はそんなふうに思ってくれてるひび姉を傷つけたことを許せないんです」
ぐす、と千代さんは涙声でまたうつむく。
……多分この問答は放置すればしばらく続くのは目に見える。
仕方ない、響さんから冷たい目で見られるかもしれないが、いやきっと見られるだろうが悪役を買って出ましょうか。
「お取り込み中申し訳ないんですけど、発言いいですか」
「……あなたは」
「鳳龍臥。つい昨日からここにお世話になってあんたとやりあった男です。以後よろしく」
「あなたにもご迷惑を……」
「謝罪はいらないよ。正直そういうのはいいから」
「……ぐす」
「龍・臥・くん?」
千代さんのしゃくり声が聞こえると、さっきの暖かい声とは一転、冷えた声が響さんから発せられた。
やべぇ、これ絶対に目が笑っていないタイプの声音だよ。恐ろしくて響さんの顔を見れない。
しかしここで下がっては意味がない。怖いけど、めっちゃ怖いけど。
「あんたが反省していようがいまいが、それはそれだ。重ねていうけど俺は謝罪とかどうでもいいんだ。さらにいうなら俺に対して罪悪感とか持ってなくても響さんに対して持っているならそれでいいんだよ」
え? と涙を溜めた目で彼女は俺を見上げる。
そんなに不思議そうにされるのはよくわからないけど、話を続けよう。
「響さんに対して悪いと思っているのは付き合いが長くて、それでとっても仲がいいからだろ? 対して俺は「あんた誰?」な人間だし……ま、邪魔者として殺されてもしゃーないわな」
「そ、そんなことは……」
「あくまで俺の意見だ。で、ここからが俺の本題。俺は二つほどあなたに対して条件を出す。これを贖罪としてとるか、はたまた別の意味で取るかは千代さん次第だけど」
と、まくしたてるように話す。
千代さんは無言で頷き、響さんの圧も落ちついた。
「一つは、千代さんは俺たちに協力してもらう」
「……はい?」
「まぁ待て。元から「私、ここの人間なんですけど?」と言いたげな顔をするのはわかってました。正しくいえば千代さんを利用してなにかしようとしたやつらへ一緒に報復してやろうぜってこと」
今回の事件自体が千代さんの意思じゃないことは誰しもわかっている。
その上彼女は心に深い傷を負わされたわけだ。これには響さんだってむかっ腹が立っているだろうし、姫様含めた関係者だってきっとそうだ。
「だからどうして俺たちを襲ったのか、向こうでなにがあったのかをしっかりと教えて欲しい。それからどうしていくか考えていこう。響さんも力になってくれるだろうし、及ばずながら俺も力貸すから。殿様も頑張って説得するから」
最後の方はちょっと自信ないけど、こうでも言っておかないと後々自分が逃げそうだし自分自身における課題ということにしておこう。
「ありがたき、お言葉……」
「お?」
なんでさらに泣くの? え、おかしくない?
おどおどとしていると、響さんがクスクスと笑い始める。
「ちょ!? なんで笑うんですか?」
「ごめんごめん。でも龍臥くん、ナイスよ。千代ちゃんにはきっとこれでよかったのよ」
「そうなん、ですか?」
「そうよ。もう一つの条件も言ってあげたら?」
「あ、はい。もう一つは、その……」
思い出すと自分の顔が赤くなるのを感じる。
けど、これ言っとかないと後々俺が悶々するから言わないとなぁ……訴えられなきゃいいけど。
ともあれ地面に座り、手も地面につく。
そして……思い切り頭を地面に叩きつけた。
「ああするしかなかったとはいえ唇奪ってすみませんでしたぁああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!」
今日一番の大きな声で、最大の土下座を放った。
わずかに静寂が走り、笑い声が響いた。
「あははははは! 龍臥くん、やっぱ君面白いわ!」
「ふふふ……良き御仁ですね、あなたは」
「……なんで!?」
意図せずに笑いを取ってしまい、混乱するばかりだった。