二章六幕=追憶=
ちょくちょく前の話を見直して修正して行っております。
だいぶいじった話もありますのでよろしければ戻って見てみてください。
『ごめんね、大好きな龍臥くん』
高校の屋上で、そう言って彼女は俺の目の前で飛び降りた。
俺は必死に走って手を伸ばしたが、その手は届くことはなく、ほんの数秒後に彼女は物言わぬ屍となっていた。
桂響。
俺が通っていた高校の同級生で、たまたま彼女が街で不良に絡まれていたところを助けたのが始まりだった。
その頃から俺は土を操るという能力のせいで悪い意味で目立っていて、誰とも絡んでなかったしつるんでもいなかった。まぁ陰湿、直接的ないじめもありはしたのだが犯人を徹底的にボコボコにして以後絡まないようにしたのもあるんだけど。
だからその時もただの気まぐれで助けて、そのまま俺は帰るつもりだった。
でも彼女は「待ってください!」と俺を呼び止めた。
あの当時は少しめんどうくさそうにして「あ?」と睨んで彼女を見た。
黒い髪を後ろで束ね、目つきは穏やかな女の子というのが第一印象だった。だから不良に絡まれたのも納得ではあったんだけど、だからこそその不良をぶっ飛ばした俺に話しかけてくるのは意外だった。
普通に考えて、先に逃げていてもおかしくはないだろうに。
『頰のところ……傷がついてます』
言われて触ってみると、確かに血がついていた。
そういえばカッターを持っていたからそれを避けたけど、完全にかわしきれていなかったんだなと勝手に納得した。
彼女はそんな俺の頰にハンカチを優しく当ててくれた。
『本当にごめんなさい私のせいで……でも助けてくれて本当にありがとうございます』
『お、おお』
自分でこう言うのもなんだけど、俺は優しさに慣れていなかった。
だから響のその言葉に、むずがゆかったけどとても救われた気がした。
それから互いに自己紹介をして、同じ高校だと言うことを知って驚いたものだった。年齢は俺よりも一つ上で先輩ではあったけども、彼女はタメ口をきいてしまう俺に「構わないよ」と言ってくれた。
それからちょくちょくと二人で会うようになり、遊びにもいった。
けれどもその半年後くらいから彼女の様子がおかしくなった。なにかを隠しているようで、でもそれを話すことをためらっていた。
響に理由を聞こうとしても「なんでもないよ」と力無い笑顔で答えるばかりだった。
あの時、無理矢理にでも聞き出していたならば結果はかわっていたんだろうか。
すでに通り過ぎてしまった時間には戻ることなんてできっこないのはわかっている。だけど俺は思わずにはいられないし、どうしたらいいのかなんてわからなかった。
だから俺にできるのはただ謝ることだけだった。
気づけなくて、ごめんと。
助けられなくて、ほんとうにごめん。気づけなくて、助けられなくてごめん、と。
俺はあの日に全力で泣き叫んで、自分の無力さをこの上なく恨めしく思った。