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迷走記  作者: 法相
二章:忍
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二章五幕=接敵=

二ヶ月以上も間が空いてしまったことに悔しさを覚えた。

もっと更新頻度をあげていければと思います。

 虚ろな正気を失った瞳はこちらを射抜き、底冷えた視線として俺を突き刺す。

 次の標的は俺としっかりと認識したのだろう、ゆらり、と一瞬だけ身体が揺れたあと、目にも留まらぬ速さで接近してくる。

 その腕にはいつのまにかクナイも握られており、蛇たちはいつの間にか姿を消していた。

 とっさに後ろへ回避し、クナイは空を切る。

 と、クナイの刃はなにか塗られているのか、なにやらぬめり、とした光沢を放っていた。

 毒か、と直感的に判断する。

 今まで日本にいて喧嘩などの暴力沙汰には慣れていたが、刃物だけならまだしもさすがに毒を塗った刃物を持つ人間と相対することはなかった。

 かすっても致命傷なのは倒れている響さんを見ればわかる。

 そもそもどうやって正気を戻すのか、という問題があるのだが……どうであれやるしかない。それが真実だ。

 こちらの敵意を感じたのか千代さんはクナイを構えたままこちらに向かってくる。

 こちらも対抗するため、近くに立てかけてあった姫様のもので竹刀を握り、千代さんの動きに合わせて竹刀を振る。


「遅い」


 が、その一撃はたやすくかわされ、彼女の身体は反転。竹刀を持つ手を握られ、行動を制限され瞬時に逆手に持ち代えられたクナイを向けられる。

 とっさに竹刀を放し、大きく派手に前に転がってなんとか当たらずにすませる。

 しかし起き上がった瞬間にはすでに千代さんの姿は視界には映らなかった。

 速い、というのは最初の動きでわかっていたけど、ここまで挙動を含めて速いとは。

 周囲に音はない。

 だからこそ、なんとなくでもいる場所には予想がついた。


「上、か!」


 今度は横に跳び、直後に千代さんがクナイを俺が先ほどまでいた場所に落ちてくる。

 クナイは完全に床に突き刺さり、抜くのには少しだが時間がかかりそうだった。

 好機、とタックルを仕掛けて転ばせに行く。

 されど、彼女は俺のタックルをするりと回避し、俺の足を引っ掛けてバランスを崩しに来た。

 両手で床に手をつけて止り、そのまま蹴りを牽制にかます。

 当然のように蹴りは空を切るが、体制を整えるには十分な時間は稼げた。

 再び真正面に向きなおり、今度は千代さんを視界に捉えることができた。いや、捉えることができたというよりも……挙動がおかしくなってきている。

 虚ろな瞳であることにはかわりないが、うめき声のようなものをあげている。

 加えて鼻からも血がこぼれてきていて、身体が悲鳴をあげている。そんな印象を受けた。

 限界以上の動きをすれば身体には大きな反応が来る。

 そんな当たり前のことを思い浮かべつつ、どうにかしないと響さんを解毒させる前に彼女の命が失われかねない。

 ヒューヒュー、という掠れた呼吸が千代さんから漏れる。

 猶予はほとんどないものと再認識し、どうするかをない頭を巡らせる。

 と、ふとした時に彼女の口の中から何かがいるのが見えた。

 彼女がおかしい原因はそれだ、と確信する。というか、あれが原因でなかったらもうどうしようもない。

 しかし動きが鈍くなっているとはいえ俺よりも速いのはいまだ覆らない事実だ。

 ならばどうするか? 答えは簡単だ。


「ぁ、ああああ!!!」


 獣のような声で吠え、彼女は俺に襲いかかる。

 一直線に向かってくるのは、負担を最小限に抑えるために最短距離で詰めようという考えなのだろう。それは先ほどまでの動きができないほどにボロボロという証でもある。

 だからその手に握られたクナイを、突き刺させた。


「鳳さん!?」


 姫さまの声が響く。

 最初は受けないようにしていたというのに、次は受けるために動かなかったというのは、まぁ姫さまじゃなくても普通はしないだろう。けれど肉を切らせて骨を断つ、ということわざもある。それをただ実行しただけだ。

 傷口は燃えるように熱く、この毒が人体に致命的なダメージを与えるものだと容易に想像できるが、これでチャンスはできた。

 腕の自由がきくうちにがっしりと鯖折りで捕まえ、頭突きを一撃。


「が……」


 動きがさらに鈍り、右手だけ胴体から離して頭を掴み自分の唇を彼女の唇を塞いだ。

 そして口を開かせて、飛び出そうとしてきた『何か』に噛み付いた。

 ジタバタと抵抗しているようだが、この状況で逃がしてたまるか。これは最初で最期のチャンスだ。


(これで……)


 ブチリと嫌な感触とともに全力で噛み切り、吐き出す。

 吐き出したものは、真っ二つになった人型の形をした黒い物だった。


「4cq_!? E7! Diqhue!」


 なにを言っているかはわからないが、おそらく断末魔でも叫んでいるのだろう。

 そしてほどなくして『何か』は裂け目からどんどんと消滅していった。

 やれるだけのことは、これでやった。

 あとは……


「姫さま」

「は、はい」

「すんませんけど……あとは、まかせ」


 言い切る前に俺の意識は途切れた。

 


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