二章四幕=高垣千代=
トイレを済ませ、周囲を見渡しながら姫さまの部屋の方へ足を進める。
すぐに響さんは姫さまの部屋に戻っていったので(当たり前だけど)、帰り道は若干冒険をするような気持ちで周囲を見ていた。
俺のいた世界にはない格調とでも言えばいいのか、やはりお城というだけあって一般人では味わえそうにない空気が感じ取れる。
響さんは昔からここで姫さまと過ごしていたこともあるわけだから、礼節とかもしっかりしてそうなのに、なぜあそこまで自由なのだろうか。明らかに殿様相手にしていい態度をしてなかったし。
家族みたいなものなのだから、とでもとればいいのだろうか。
そうなるともう一人の幼なじみであるという女性と彼女の妹さんにもあってみたいと思う。
「ま、まだ任務で帰ってきてないから無理なんだろうけど……」
『響ちゃん!』
と、ぼやいた時に姫さまの叫びが聞こえた。
胸騒ぎがした。
全力で駆け出し、すぐに姫さまの部屋にまで戻る。
視界に入ったのは泣いている姫さまと、床にぐったりとした様子で倒れている響さんだった。
目の奥がひどく熱くなるような感覚が襲った。
そして、部屋にはもう一人、見知らぬ女性がいた。
長く艶やかな黒髪を後ろでまとめており、赤と黒のオッドアイの小柄な女性だった。服装から見て忍者、なのだろうか。
その女性の手には、蛇が握られていた。それも一匹ではなく複数匹。
状況から見て間違いなくこの女性がやったのだろう。
「お前がやったのか」
ひどく、自分でも驚くほど冷静に声が出た。
彼女は返事を返さず、虚ろな瞳で俺を見ていた。どうやら正気ではないようだ。
けれども俺がやることは変わらない。彼女が響さんに手を出したのなら……明確に敵だ。
スゥ、と息を吸い込み……構えると同時に踏み込んだ。
接敵し、間髪入れずに拳を振り抜いた。
ほんの寸前で拳は回避され、忍者は距離を取る。
けれどこれで響さんから離せた。俺は彼女を抱きかかえ、すぐに姫さまの元へ下がって響さんを壁にもたれかからせる。
「姫さま、場内の医者に診せてください。俺はあの不埒者を、ぶっとばす」
「お、鳳さん! お願いです彼女を殺さないでください!?」
「解毒剤を取るまでは、殺しませんよ」
「違います! そうではなく、彼女は先ほど話してた千代なんです!」
「ぁ?」
響さんたちの幼なじみの、彼女だというのか。
だとすればなんで襲ってきたのか……て、目が正気じゃないのは明らかだから、操られているとかそういうことだろう。
少し骨が折れるが、やるしかない。ただ……
「加減ができるかはわかりませんので、期待はしないでください」
指の骨を鳴らし、もう一度忍者、高垣千代に視線を向けた。