序幕=誘い=
とある人に触発されて、自分のための小説としてこちらを書いてみました。
更新ペースはマイペースだからまちまちだとおもいますがよろしくデース
土砂降りの中、俺、鳳龍臥は家族の墓の前に立っていた。
傘は使用しているものの、土砂降りの中ではたいした意味をなさず、俺の服はすでに濡れている。仕方ないよな、とため息を吐いてから買ってきた花束を添える。
この雨風ではすぐに散ってしまうだろうが、ここまで来てなにもしていかないという方がおかしいだろう。
この墓には幼い頃になくなった母さんと、先月亡くなった祖父が眠っている。
もう俺に家族はいない。父親は物心着く前にいなくなっていたし、最後の家族であるじいちゃんは眠るように息を引き取っていた。
悲しくないと言えば嘘になるが、起こってしまった出来事はどうにもできない。
「……寒い、な」
雨で周囲の気温が下がっているのも相まって、ひんやりとした空気が身体を冷やす。
じいちゃんが亡くなって一ヶ月が経ち、心の整理もついた。
幼い頃から人にはない力を持っていた俺を育ててくれた母さん。そんな母さんが亡くなってから俺を育ててくれたじいちゃんには感謝しかない。高校も退学になってしまったのに、なにも責めずにいてくれた。
「……さて、でもこれからどうするかな」
ここ一ヶ月は心を落ち着けるために過ごしていたが、いくらか落ち着いた今ではここから先が不安だというところもある。天涯孤独の身となった今では頼れるものはないし、遺産はそんなにないからバイトでもして食いつながなきゃ……そう考えた時だった。
背後から何者かの気配がした。
なんとも言えないような、むず痒い気配であるが敵意はないようだ。
振り返ると、身長が3メーターほどある細長い道化師がでかい扉とともに立っていた。
なにを言っているか正直自分でもわからないが、目の前の起きている出来事をそのまま説明するとそうなるのだ。
えー……ちょっと、何これぇ……さっきまで確かにいなかったはずなのに、どこから現れたんだ、この道化。
とっさに傘を放り投げそうになるのをこらえて、口を開いた。
「……おたく、どちら様? これでも気配探るとかは得意な方なんだけど」
『異次元の道化師ともうします。突然失礼を』
見た目のまんまかよ。いや、見た目に追加で異次元って言ったけど……
「その異次元道化師さんが俺になんの用だ。あいにくと見世物にくれてやる金はないぞ」
『いえいえ。お金など入り用ではありませんので』
「なら、単刀直入に用件を言えよ」
いつでも逃げられるように足に力をいれておく。喧嘩をして負ける気はないけど、こういう手合いにはあまり関わり合いにならない方がいいとは直感が告げている。
『あなたは、人にはない力がありますね』
道化師はどこか楽しそうに断言してくる。
「……さて、なんのことだか」
とぼけては見るけれども、ごまかしきれないだろう。
この道化師、初見のはずなのになんでそれがわかったのだろうか。小学校時代、一度しか表では披露していないはずなんだが。どこかで噂を聞いたのか? 否定。そんな噂はただの与太話でしかないと思われるのが現実だ。
いや、そもそもこの目の前の道化がいること自体が現実味のない出来事だ。
とりあえず警戒を怠らずに視線をそらさずにおく。
『隠さずともいいのですよ。わかるのですよ。私はそういう概念が見える存在ですので』
「……! だから、用件言えよ」
『おっと失礼。私この度あなたを神隠しにあわせに参りました』
「は?」
神隠し、とはまた突拍子もないことを言い出す道化だった。けれど、それは真実だということもわかった。
『もうしわけありませんが、条件がよいのと……縁でございますね』
「つまり俺の都合は関係なしか。だったら抵抗させてもらおうか」
傘を投げ捨て、雨にうたれながら道化に拳を向け、踏み込む。それと同時に道化の背後にあった扉があっという間に全開まで開き……猛烈な勢いで吸引を始めた。
「しまっ!?」
すでに踏み込みを始めていたので踏ん張りが利かず、そのまま吸い込まれていく。
「こ、このくそピエロが!?」
『おやおや。女性みたいな綺麗な顔をして言葉遣いは汚いですねぇ』
「貴様人が気にしてくれてることをぉおおおおおお!?」
『それでは、これからのあなたに幸が多からんことを。そして、彼女たちをよろしく』
最後まで言い切る前に、俺の身体は扉に飲み込まれていった。
「あいたぁ!?」
背中から地面に叩きつけられ、痛みが身体を襲う。あのピエロ絶対に許さんからな……なにがこれから幸あらんことを、だ。人様をいきなり……
それにしてもここどこだ。墓場から急に薄暗い……洞窟、かここ。
『ほ、本当に出てきた! すごい! 時空道化師ほんとにやってくれたんだ!』
——この声は。
ありえるはずがない、と思いつつも俺はすぐに起き上がって声のする方向へ視線を移した。
数メートル先に見えたのは、薄暗くてわかりにくいが俺を見て喜んでいる赤髪の女性が立っていた。
そして、髪の色こそ違えど俺はこの女性を知っている。忘れられるはずがない。
「あ、こっちに気づいわたわね。どうも初めまして。私は……」
「ひび、き……」
「え!? なんで私の名前知ってるのよ?」
あっけにとられたように彼女はポカンとする。
けれど、俺はこれで確かにこの世界が別の世界だということをしっかりと認識した。
なぜなら、俺の知る響はすでにこの世にいないのだから。