終章
E4メンバーは、設楽がSIT、倖田がSAT、西藤がERT、八朔と北斗がSSSに配属され、2年後の再会を約束し、それぞれの道を行くことになった。
警察府SITは特殊事件捜査班。高度な科学知識・捜査技術に精通し、ハイジャック、爆破事件などに対処する部署である。
警察府SATは特殊急襲部隊。警備部に編成されている特殊部隊。SATはハイジャックや重要施設占拠等の重大テロ事件、組織的な犯行や強力な武器が使用されている事件において、被害者等の安全を確保しつつ事態を鎮圧し、被疑者を検挙することをその主たる任務としている。
警察府ERTは「エマージェンシー・レスポンス・チーム」の略称で日本語での部隊名称は「緊急時対応部隊」。ERTは、警察府の銃器対策部隊から選抜された隊員らが集まる。緊急事態に最初に投入される部隊である。
警察府SSSはSATを支援する特殊部隊支援班(SAT Support Staff、通称スリーエス)。SSSは、都道府県警察刑事部との連携や警察本部長の補佐、警察府との連絡調整を担当する。
剛田室長が皆に頭を下げる。
「すまん、私の力不足で」
「室長、とんでもない。自分たちの職場を見つけてくださってありがとうございます」
「皆、この言葉を胸に、2年間を過ごしてほしい」
『魂は肉体に宿り、生命の源として心の働きを司るのに対し、意識は毅然とした自律的な心の働きである』
「難しい言葉ですね」
「2年後、其々の解釈を聞くとするか」
「了解。では、お気をつけて」
「いってらっしゃい」
◇・・・・・・・・・・◇・・・・・・・・・・◇
杏と不破は、変装しビル街に再び身を隠しながら、何とか密航船の出る場所を目指していた。たまに遭遇する警ら隊。いそいそと恋人のふりをして腕を組みキスの真似事さえする。警ら隊が行き過ぎると杏は元の厳しい表情に戻り、港を目指す。空は明るさを失い、夕方が近づいていた。太陽がビルの合間に姿を隠した頃、目指す場所が見えてきた。1日がかりでやっと港に辿り着いた。あとは、乗船するだけである。
「剛田さん、遅いわね」
「E4で挨拶してるんだろう」
そんな雑談をしている余裕があるのだろうかと杏は心なしか胸騒ぎがした。その時、後ろから剛田の声がした。
ほっと一息ついた杏。
「遅かったのね、ご挨拶?」
剛田は笑みを杏に向けた。
「お前に授けた言葉を、皆にも授けてきた。2年後に、皆の解釈を聞くとしよう」
杏は一瞬、目を丸くしたものの、言葉にすることは無かった。興味をそそられたのは不破の方だ。
「剛田さん、俺にも教えてくださいよ」
『魂は肉体に宿り、生命の源として心の働きを司るのに対し、意識は毅然とした自律的な心の働きである』
剛田は不破に対し、右目でウインクする。
「どうだ、わかるか」
不破は両手を振ってお手上げだと笑う。
「全然ですね、2年間、ゆっくり考えます」
杏たち3人は周囲を気にしながら、タラップをかけ上り、急いで船の内部に消えていく。密航船では、日本国内のマイクロヒューマノイドが多数を占めそこら中に犇いていた。この港では昼間外国からの商業船がひっきりなしに出入りする。何泊かして停留中の船も多い。その中に紛れれば、軍に見つかる可能性は限りなく低い。
「あら、あれ・・・」
船の中で、遠くに九条の姿を見たような気がした杏。
キツネにつままれたような顔の杏を見て、不破が笑う。
「どうした」
「九条を見たような気がして」
犇きの中に、もしかしたら助かった命があるかもしれないと考えずにはいられなかった不破。杏と一緒に船の中をぐるりと見まわった。
「まだ生死がはっきりしてなかったな、1人だけ」
「気のせいかしら」
「船の中にいるんなら、そのうち会う機会もあるさ」
「そうね」
杏はもう一度振り返る。
本当に九条だったのだろうか。それとも他人のそら似か。
杏は、コートがカサカサしたような気がして、ふとコートのポケットに手を入れた。
そこには、差出人の無い手紙が入っていた。
開封してみると、一行だけが記されていた。
「ごきげんよう」